見出し画像

【不定期雑記 #18】逆噴射小説大賞2022ライナーノーツ

 今年もやって来ました、年1回の祝祭が……!

 ということで、初めましての方もそうでない方も。ドーモ、透々実生です。
 今回は銃弾数が1発減ったということだけあって、昨年以上に『強さ』を感じました。他の方の作品で優勝してほしい作品が幾つか。
 いやあ、こればっかりは今年は一撃必殺ヘッドショット喰らってお終いかもしれません。まあ、私の主目的が昨年同様コロナビールが手に入ったらいいななので(諸々台無し)、楽しくしかし本気で参加させて頂いております。

 それはさておき、解説書ライナーノーツです。プラクティスも含めて少しばかり解説というか思ったところを置いておこうと思います。
 気になったらぜひ作品もお読み頂ければ。

逆噴射プラクティス編

B-Movie shark Workshop.

 頭文字を取ると『BMW』のふざけた小説です。正にそれが理由になって本選から外しました(瞬殺)。いや、あまりにもふざけ過ぎました。
 コンセプトは、B級サメ映画と研究モノの掛け合わせ。「B級サメ映画のぶっ飛んだサメ達が、実はCGではなくて実際に作られてたら面白くない???」という安直な発想の元に生まれました。
 その結果出来たのがあの会話劇です。もうあの時点で収拾がつかねえ! しかも作者本人も何処に向かいたいかあんまりよく分かってません。完全に迷走してます。そういうのも偶には良いか。何より書いてて楽しかったので。あと完璧に勢いに任せてるので、この話は初稿をほぼそのまま出している形になります。荒削りっぽいのもそれが原因でしょう。
 『B級サメを使って世界を支配してやるぜ!』みたいな話にしても面白かったかもしれませんが、思いつかなかったのでこうなりました。


「     」で殺して。

 発想の大元になったのは、実は逆噴射小説大賞2021で大賞に輝いた『薄火点』です。それだけあの作品は私にとって衝撃的でした。無駄が一切無い、完全なる世界観。
 ところで、私の創作の原点が「自分が良いと思った作品を書いてみたい」です。今連載してる『生物失格』も、あれは完全に西尾維新さんの『戯言シリーズ』にキャラ造形や表現を寄せているところがあります(お気づきの方はいらっしゃるかもしれませんが)。で、今回も世界観のイメージを参照させて頂くに留まり、その他は色々オリジナルで自分なりに書いてみました。
 さて、世界観が白一色のイメージと決まったので、そこから先やるのは「連想ゲーム」です。ここで面白そうな要素を探って世界観やストーリーを作り上げていくのが常套手段になります。
 で、連想されたのが、「とにかく清廉で綺麗な世界」。それを表現する為にはどうするか。私は「詩」の表現の様な暗喩や独特の表現を用いようと心に決めました。個人的な感覚ですが、詩というものは「表現で世界を抉り出す」或いは「表現で世界を脚色する」という一見二律背反に見える作用があると思っていて、今回はピッタリだなと思ったのです。結果、(上手く行ったかはさておき)詩的で耽美的な表現を盛り込みました。1行目の「白い灰に着色された生温い風が頬を殴る」は特によく出来たと思います。
 しかし、それが逆に本選から外れた理由でもあります。実力不足故にこの世界を扱い切れなかった……。800字に書きたい場面を押し込めることが出来ず、削れば何かが足りない感覚がついて回る。10回以上推敲してもその感覚から抜け出せず、「これは期間内に完成させられない」となってしまったのです。もっと色々読書をしていかねばなりませんね。

 ちなみにヒロインには性癖を詰めました。薄幸の美少女っぽい要素とか、無邪気さとか、恩人を犠牲にしてでも自分が生き残るネジのぶっ飛び方とか。……あれ? 性格的な滅茶苦茶さから言えば、実はこの女の子が一番清廉さから遠のいているのでは???
 この子はまた何処かで出てもおかしくないかもしれません。それくらいアノちゃんはお気に入りのキャラ造形になりました。


逆噴射小説大賞本選

シー・シーズ・シーズ・XXX。

 本選1作目。実はこの作品は1番最後にできた作品です。
 元々は次に解説するお話と、前述の『「     」で殺して。』で本選に打って出る――もとい撃って出る予定でしたが、どうにも雰囲気が似通っている。しかし、とてもじゃないけど先のサメのやつで出る訳にはいかない。何か無いものか……と思ってました。
 明かしてしまえば、今回の私のテーマは『世界観で殴りに行く』、そして『盛り上げ途中で終える』でした。前回は初参戦ということで勝手があまり分かってるようで分かっておらず、盛り上げ途中で終えるのではなく、綺麗に纏めすぎた感覚が強かったです。
 今回の2作品は、前回の3作品とは明確に違う雰囲気が出たかなと思います。
 で、世界観で殴りに行きながら、何か出来ないものかと思って考えていたところ、下の記事をたまたま見て思いついたのです。

 上記作品とは何の関係もない記事ですが、この中に「何故海上戦(とも言い難いナニカ)でロシアが壊滅的な打撃を受けたのか?」という項目がありまして。その中で出会った『ウォーターワールド』という言葉に触発されてできたのが、あの世界です。着想を得ればあとは連想するだけ。
 ウォーターワールドから連想されたのが、神話に出てくる『ノアの方舟』。あの時は世界をリセットする様な形になっていた訳ですが、その世界観を丸々拝借しました。
 しかし、突然洪水が沸き起こるのではどうにも想像し辛い。そこで出て来たのが、大きな甕から水が滴り、一面水世界と化した世界でした。では、水世界と化せばどうなるのか。
 多分と言うか間違いなく資源は少なくなる。通常燃料として作られて来たものはなくなるし、食糧だって格段に減る。資源が少なくなればやることは一つ――略奪です。
 略奪のためには何が必要か? 色々ありますがまずは拠点です。拠点無しには人は溜め込むことが出来ない。殊にこういう限られた資源しかない世界では、資源は溜め込んで徐々に使っていくもので、溜め込むというその行為が重要になると考えました。その結果出て来たのが、「国土」に代わる「國船」という概念です。船などの移動手段を国土にするものは色々なところで書かれています。例えば『キノの旅』に登場する「迷惑な国」。キャタピラで凡ゆるものを薙ぎ倒しながら(他国の城壁さえも!)進んでいくという傍迷惑な国です。また、映画にも『移動都市 モータルエンジン』というロンドンが移動都市となるスチームパンクモノがあります。そうした世界の中で、「船で国を作れば良いのでは?」という発想が出てくることになります。

 また、先に「雰囲気が似通っている」問題を書きましたが、元々参戦予定だった2作品はとにかく重苦しい。なのでこの作品では、逆に振り切りました。すなわち、この作品のテーマは明るい地獄です。
 爆発的に明るく前進する表現を出すことを最優先にしました。船から飛び出して、敵船をぶち壊しに行くところは最たるものでしょう。
 それはキャラクターにも反映をさせています。主役は船長の女性、三十海みかるみきらり。そして謎の『導師』と呼ばれるのほほんとした少年、暗狩くらがり。彼らの交わす言葉はどちらかと言うと軽口めで、重苦しさを感じさせない。性格も暗さを取っ払っています。(裏では色々思って苦しんでますが。特に明さんの方は)
 彼らの関係性は結構好きなので、続きも書いてみたいですね。それにしては他に書くべき作品が溜まりすぎているのでまた別の機会になると思いますが……

 しかし、まだ解説しきれていない、作品の中に出て来た『導師』のワードや、甕が出て来た背景、『國船』という存在など様々に設定は、当然800字の中に詰め込めるわけがないので、匂わす程度に。説明し過ぎずに如何に物語を回すか。それにも注意を払った作品になっています。


煙霧竜銃戦線

 本作品が私の中で大本命です
 実を言えば、やはり前回最終選考に残れなかったのは悔しく、この作品は記録上では2022年4月に執筆を開始していました。

 着想の元となったのは、ファイナルファンタジーのデザイン等を手がけられていた天野喜孝さんのイラスト。4月くらいにファンタジーアート展という即売会を兼ねた個展に行っておりまして(絵はとてもじゃないけど高くて買えませんが……)、そこで見たとある作品が元になっております。
 それが、(ご存知の方はいらっしゃるかもしれませんが)ファイナルファンタジーⅥのコンセプトアートです。スチームパンクと魔術が混じったような世界を見渡す、竜と少女(ティナ・ブランフォード)。興味あるけどご存知ない方は『ファイナルファンタジーⅥ』と調べればすぐに画像が出てきます。
 で、そのアートに非常に感銘を受けまして、見た後にすぐ設定を練り込み(それが確か2週間くらい)、「これを逆噴射小説大賞に出そう」と決意することになるのです。元々スチームパンクは好きなので、そういう世界観を作ってみたかったというのもあります。(『アリータ:バトルエンジェル』然り、『移動都市 モータルエンジン』然り……サイバーパンクも若干混じったものもありますがそういうのも好物です)

 5月頃。その時には既に作品ができていました。そして大賞開始を迎える訳ですが、しかし、逆噴射小説大賞が始まって他の方の作品を読ませて頂いてからずっと、この作品は「このまま出していいのか?」と思い悩んでいました。今のままじゃ何かが足りない、という感覚がずっとついて回っていました。

 それを考え続けていた挙句、やっと辿り着いたのが『リアルさ』でした。
 詳しくは下記の別記事に譲りますが、リアルさ=『違和感なく想像できること』をまず主眼におきました。

 例えば、煤煙が立ち込める世界にいれば肺をやられて咳が出る、血痰だって吐くでしょう。最初に書いた時はそんな描写すらなく、「それでは煤煙の立ち込める世界観がどうにも活かされないだろう」という当たり前の結論に達したりしました。本当は皆、防塵マスクとかを付けていると思いますが、それを描写する余裕はとてもじゃないがなく、泣く泣くカット。
 他にも、魔法の描写だったり(刺青が光って物体に移動して力を与える、というのは『違和感なく想像できる』描写にかなり苦労しました)、黒竜ドラニカのステルス能力だったり(これも同様描写に苦労)、登場する人物の感情とそれに沿った行動だったり、雑念になり得る描写を削いだり、無駄な表現を取ったり(例えば、「手で掴む」については、余程のことがなければ「手で」は不要なので削除するなど)――全てに意識を向けていきました。
 それと同時に、全体として流れが悪くならないか、そしてちゃんと面白く仕上がっているかにも気を配りました。上の様に個別に修正をしていると、まさに『木を見て森を見ず』状態になり、小説として読めたものではなくなるからです。
 結局、これを公開までの3〜4日(或いはそれ以上)、通勤中も仕事の休憩時間もずっとこの作品の推敲をしてきました。これだけで少なくとも30回は推敲して、書いては削ってまた書いてを繰り返しました。そのお蔭で、最初に書いたものとは全くの別物になりましたが。

 加えて、タイトルにも気を配りました。当然に選考対象となっていますから。その際に気をつけたのは、タイトルから内容が想像できるようにすること、カッコ良いことの主に2点です。あーだこーだとこねくり回して10〜20個の候補から最終的に選び取りました。
 タイトルには、体言止め(殆どはこちら)か文章調(『誰が為に鐘は鳴る』など)の2つがありますが、体言止めを採用。そして一眼見て分かるようにだから、特徴を表していてかつ短く纏まるように(人間の視認できる情報量に限界があるため)しました。後はどういう語順にするか、ということも含めて詳細を詰めて完成です。こうして見ると何だか設計図作ってる感覚になりますね。

 これで大賞が獲れるかなんてわかりません。予選落ちだってあり得ます。それでも、ここまで真摯に作品に、書くことに向き合う機会を得られて私は楽しかったです。
 気は早いですが、また次回も参加させて頂こうと思います。

未来へ

 そんなこんなで述べてきましたが、当然これからも作品を書き続けることでしょう。
 今回の逆噴射小説大賞で得られたことはかなり自分の中では大きいので、それも活かしながら今後も創作活動に専念していきたいなと思います。

追記(12/4)

 上記の内『煙霧竜銃戦線』が二次選考を突破しました。やったね! ぶっちゃけいきなり投げられたので全く心の準備が出来てませんでした(1月くらい発表だとばかり……)。
 努力の方向性は間違えていなさそうなので、ここで学んだことを活かしつつ創作活動を無理なく楽しく続けていきたいです!


以上!

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集