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サンタ・クライシス!
――世界は、深刻なサンタクロース不足に陥っていた。
サンタクロース。それは子供に夢と希望を物質的に与える生物。人間と異なる超常的な力――無から物質を生成する力を持つ異能生物である。「聖ニコラウスが身売りされそうになった三姉妹を哀れみ、靴下に金貨を入れてあげたのが由来だ」という言説は後付けでしかない。
また、その存在は国家により一定数確保され管理され、国毎に何匹飼っているかは機密情報にさえ指定されている。理由は、政治や国防の領域に思考を広げれば自ずと想像がつくだろう。
そんな訳で、赤い帽子と白髭のおじ様に関する情報が何処からも漏れぬよう、どの国家も徹底している。「サンタクロースの正体はお父さんだったのだ~!」というネタバラシも対策の一環だ。実のところ、「サンタクロースなんてまだ信じてるのかよ!」と揶揄う子供よりも「本当にサンタクロースはいるもん!」と信じる純粋な子供の方が真実を突いているのだ。その真実をひた隠す為、世の父親達が犠牲になっているに過ぎない。
そんなサンタクロースが不足するという、不測の事態が全世界で巻き起こっていた。機密情報なので「何故不足しているのか」は世間に出回っていないが、大体どの国も事情は同じだった。
捕えていた筈の飼いサンタクロースが、折を見て檻を抜け、次々脱走しているのである。
その行方は、誰も知らない。
🎄🎄🎄
「――どの程度解放した?」
異能で生成した橇に乗り、傍受対策済トランシーバー越しにマチスは仲間へと尋ねる。
『フィンランドは完了だ』サンタクロース村、というふざけた名前の村があるのをマチスは思い出す。『資料だと此処は五番目の規模だからな、大収穫だぜ』
一位はアメリカ、二位はロシア。三位がイギリスで四位がフランスだったと思う。米露は流石だ、奪還には時間が掛かる――と定時連絡で仲間がぼやいたのを思い出した。
(続く?)