B-Movie shark Workshop. 【逆噴射プラクティス】
「……カフカ博士ぇ」
「何だね、八尋クン」
刻は泣く子も黙る午前5時。太陽に焼かれる寸前の空を背景に、八尋助手は苦笑混じりにPC画面を覗く。
「無理じゃないっすかあ? 今回ばかりは……」
「15回目だ」
牙鱶博士は呆れた口調で返した。
「14回、既に八尋クンは依頼文面を目に通すなり『無理』と言った。しかし、唯の一度でも開発に失敗したことはあったかね?」
「そうっすけどぉ……」
「37回目」牙鱶博士は無駄な記憶力を利用して数え上げる。「ここまで依頼が来るのは信頼の証左と言えぬかね?」
「まあ、ですねぇ」あっさり八尋助手は掌ごと答えを返す。「お蔭で給金はたんまりですし。何やかんや開発は楽しいですし」
中でも、と八尋助手は爛々とした視線を飛ばす。
「シャークトパス! 頭半分が鮫でもう半分が蛸! 小ちゃいヤツは脚でペチペチ叩いてて可愛かったなあ……」
「過去に逃げてはならんぞ八尋クン」
「わ、分かってますって!」
思わず熱く語ってしまった自分に、ほんのり赤面してPC画面に向き直る八尋助手。
――此処は『B級映画サメ工房』、略称『BMW』。その名の通りB級映画の改造サメを開発・調教育成する工房だ。略称が某車メーカーと被るのは有名になるべく態と名付けた。
巨大サメ、砂漠で生きるサメ、多頭サメ、蛸足のサメ等、名だたるB級サメ映画はこの開発所の功績に依る所が大きい。流石に、俳優陣やエキストラが喰われる所はCG技術に依るものらしい。何事でも、資源は大切だ。
して、と牙鱶博士は尋ねる。
「今回は何の依頼だね?」
「ええと、それがですね――」
八尋助手はサメに喰われそうな苦しげな表情をして答えた。
「頭がサメ、下半身が人間の、『シャーマン』が欲しいと……」
「良いじゃないか」と牙鱶博士が口端を吊り上げて頷くと「ええー!」と八尋助手は声を上げる。「127回目」と牙鱶博士は口遊んだ。
つづく。