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箱庭商事の幽霊ちゃん!

 ――この会社には、らしい。
 短期の夜間警備アルバイトの引継ぎのため、前任者からたんまりと退屈な話を聞かされていた俺の耳に、ふと漏れ出た言葉が入った。
 何がですか、と9割察しながら訊き返すと、幽霊だよ、と前任者は答えてくれた。

 今から夜間警備を勤める会社、『箱庭ハコニワ商事』には、幽霊が出る。
 いつからか、黒く長い髪の毛の女性の霊が現れるというのだ。出現した原因は不明。
 そしてラップ音が無意味に響き。
 不慮の事故が起き。
 果ては、不審死。
 会社は、徐々に恐怖に蝕まれ――。

 ということが、のだ。

 むしろ、数少ないになっている。
 夜遅くまで残業すると、いつの間にか夜食が置かれていたり。幽霊手作りのほかほかおにぎりとお茶。これがまた美味しいのだとか。
 ある時には、勝手に資料が印刷されていたり。どうやら、仕事の手伝いをしてくれているようで、しかもそれが的確と来た。
 幽霊と話したという人も。すごく落ち着く声とのこと。
 ここまででも十分とんでもないが、これが仕事の進捗に一役買っているとかで、会社としてはむしろありがたいらしい。
 ……色々頭が大丈夫だろうか、と思うが、まあ、俺も人のことは言えない。

 そう。何を隠そう、俺はこの幽霊に会うために夜間警備アルバイトに申し込んだのだ。
 ちょっとはその幽霊に癒されてみたい――要は、一瞬の気の迷いというやつだ。

 で、アルバイト初日。
 期間は3日と短いものの、幽霊と会えるのかと思うと、どきどきわくわくしていた。遠足前の小学生か、と自分で突っ込んだ。
 いや、仕事は仕事だ。ちゃんとやる。制服、帽子、腰に差した懐中電灯――準備万端だ。
 ……ま、幽霊には癒されたいけど。
 我ながらよこしまなのか真面目たてしまなのかも分からないまま、箱庭商事のビルに足を踏み入れる。

(続く……)

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