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美食人鬼、最後の晩餐
「ハロー、ミスタ・メルグ。私が依頼者のアンドレアよ」
米国、サウス刑務所、面会室。
手錠をかけられた女が、パイプ椅子に優雅に凭れていた。髪は金糸、肌は白磁、瞳は碧玉の様。その美しさに見合う笑みで私を見つめる。思わず心臓が高鳴り、視線が吸い込まれそうだ。
――この笑顔こそ、女の武器。
これで女は、数多の男を魅了した。
そして無抵抗の男達を殺し、解体し、喰い散らかし……女は死刑宣告された。
寸での所で視線を逸らす。
私は最後の晩餐を振舞いに来ただけだ。
呑み込まれるな。
「ねえ。目、合わせてよ」
「……君の笑顔が眩しくてな」
「嘘がヘタね」声に嘲りが混じった。「私の笑顔が怖いだけでしょ」
別にイイけど、と女は立つ。
「う、動くな……!」
看守は警告するが、すぐに「うっ」と呻いた。
何だ、と思った途端、
骨の折れる音。
「っ!?」
顔を上げる。
視界には股間を押さえ、首を折られた看守と。
私の方を向く、女。
美しい笑顔だった。
視線が釘付けになる程に。
「さて、ミスタ・メルグ」
対面窓に両手をつく女。
思わず仰け反る。視線は、逸せない。
「私、貴方の最後の晩餐で死にたいの。食べた人に『これで死んでも良い!』と思わせ、本当に死なせた料理で。電気椅子や銃殺より、その方がずっと幸せ」
……馬鹿な。
「それ、本気で信じてるのか?」
「嘘でもイイわ、貴方の料理が目的だもの」
美しく、ゾッとする笑顔。
「で、折角なら最高の食材を、新鮮な内に食べたいの。だから」
その笑顔で、
「一緒に探しに出かけましょ」
私を誘う。
私が答えを出す――前に。
警報。看守達が駆寄るのも聞こえる。
「言っとくけど」
だが女は、余裕綽々にパイプ椅子を掴む。
「看守はナシだから。前菜にも相応しくない」
銃を構えた看守達が突入。
しかし彼らも笑顔を前に足を止めた。その隙に女は看守の頭を椅子で殴打。
銃が看守から、女の手に渡る。
続く