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絶望のリトライ feat.『運命の巻戻士』

確率は100万分の1。これだけ頑張っても、救えない___。

お読みいただきありがとうございます。
こうです。

最近ある漫画を読んで面白かったので、ご紹介します。
それは、『運命の巻戻士』。

表紙はこんな感じです。

ツイッター(自称X)とかでちょくちょく話題になっているので、いつか読みたいと思っていた作品です。
まだ始まったばかりの作品なのだと思っていたのですが、本屋さんに行くとすでに7巻まで出ていてちょっとびっくりしました。

事前に知っていたのは、掲載誌があの「コロコロコミック」であるということと、タイトル通りに同じ時間を繰り返すストーリーであるということくらいでした。
あとは語呂が魔道士っぽいので、ファンタジー的な世界観なのかなーなんてのも読む前は想像していました。(実際はSF要素が強いのですが)

超簡単に内容を説明すると、時空警察機動部隊、通称「巻戻士」である主人公のクロノくんが、右目に埋め込まれたタイムマシンで時間を戻し、人々を理不尽な死(事故とか殺人とか)から救っていくというお話です。

右目の眼帯を引っ張ってリトライ発動!

時間を戻せるなんてズルい主人公な気もするのですが、ここで重要な設定があります。
それは、「時間を戻しても運命を変えられる確率は100万分の1に過ぎない」という、この作品におけるデータです。
つまり、人々を救えるのはごく低確率であり、何度繰り返してもその人は死んでしまう。そのため、失敗を繰り返しては何度もタイムリープする必要があるというわけです。

というわけですから、エピソードの基本単位としては、ミッションを受けた主人公クロノくんが絶望的な確率でリトライを続け、パターンを総当たりしたり、またその中で奇想天外な解決策を思いついたりして、最終的に人の死の運命を変えていく、ということになります。

誰もが夢見たタイムマシンでも、そう都合よくは行きません。

さて、僕がこの作品で気に入ったのは「時間を戻しても運命を変えられる確率は100万分の1に過ぎない」という点です。
これって単純なようで、人生の絶望的な原理を示唆しているように思います。

我々が変えられない運命といえば、当然、死です。
人間は例外なく死にます。
生きているうちにどんな行動をしても、どんな功績を挙げても、死という結末を逃れることはできません。

また、宇宙レベルのことを考えても約50億年後、地球は膨張した太陽に飲み込まれて消滅するといわれています。
我々がどんなに文明を発展させたとしても、どんなに子孫に未来をつないだとしても、そのすべてが無に帰すときが訪れるのです。

この明らかに逃れ得ぬ運命を微分するように小さく刻んでいくと、我々が行動によって引き起こしたと思われる結果も、実は決して変えることのできなかった事実だったかもしれないと考えられはしないでしょうか。
この作品における、運命を変えられる確率は100万分の1にすぎないというのは、こういうことかなと思います。

確率は100万分の1。これだけ頑張っても、また人が死んでしまう。

また、時間を戻して理不尽な死から人を救うというのも、単純ながらやはり絶望的なテーマだと思います。

というのも、作中で主人公が理不尽な死から人を救ったとしても、いずれは老いや衰弱といった自然の摂理がその人物から命を奪うことでしょう。
つまり、主人公の行動はその人の死という結果そのものは変えていなくて、納得できる形でその人を死なせてあげているにすぎないのだと思うのです。

ですが我々にとって、納得できる死とは何なのでしょうか。
老いて自然に死ぬことが、理不尽でないと言えるのでしょうか。
いやむしろ自分の意思によって死を決定すること、すなわち自決こそが本人にとって真に納得された死と言えるのではないでしょうか。

たとえば、三島由紀夫の「憂国」や司馬遼太郎の「殉死」に見られるような切腹自殺は、陽明学的な思想により強い意思を伴った行動による死と言うことができ、それは間違いなく本人が望んで引き寄せた結果です。
自然に任せて待つだけの死のほうが、よほど理不尽と言えるでしょう。
死が決して変えることのできない結末であるのならば、意思によって行動することのできる人間としてできる誇りある選択として、自殺は肯定されるべきものなのではないのでしょうか。

肯定されうる人の死に関し、この2冊をご紹介しました。

死というのは、絶望的で恐ろしくあるものの、一方では決して真実の見えない神秘のテーマです。
コロコロコミックが繰り出してきた「運命の巻戻士」は、そんな死を扱い、それに積極的に干渉していく漫画だと思います。
とても面白いのでこれからも一巻ずつ、大事に読んでいきたいと思います。

ちなみに公式サイトでは第三話まで、無料で試し読みができます!
あと本屋さんでも、試し読みの冊子が置いてあることがあるのでぜひ!

おわり。


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