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25年経歴のプロダンサーがK-popのコレオグラファーを経て、「ディレクター」になった理由 EUAN Chreographyの裏にある「それにもかかわらず」の思いとは

Itzy、Twice、Niziu…普段K-popに詳しくない人でもその名前だけは聞いたかもしれない、有名グループの振付を担当したコレオグラファーかつ映像ディレクターのEUANFLOWさん。

もう10年近く韓国でダンススタジオ(ALiEN Studio)を運営してきた彼は、2022年度を起点として日本にも進出しつつある。振付だけではなく、コンテンツ自体の制作にもディレクターとして関わっているEUANFLOWさんは、どうしてダンサーではなくコレオグラファー、さらにディレクターの道に歩みだしたのか。

そして、日本進出における彼自身のビジョンとその思いとは。今回SKOOTAでは彼の「生の思い」を聞くために、通訳のシン・ウィスさんも交えて本人と韓国語でのインタビューを行った。


インタビュイー:EUANFLOW

25年間プロダンサーとして活動中。2016年からALiEN DANCE STUDIOを設立し、代表を務めている。

■WORK
 ・NiziU – Take A Picture, ASOBO
 ・TWICE – Perfect World, Fake&True etc.
 ・ITZY – Dalla Dalla
 ・PRISTIN V – Spotlight
 ・gugudan – Be My Self, Not That Type
他多数


読書好きのおとなしい子供を変えた“ダンス“の流行「自分がテレビに出るなんてちっとも思ってなかった」


――インタビューを始める前に、EUANさんの名前をはじめて聞いたかもしれない方々のために自己紹介をお願いします。

EUANFLOW:はじめまして、私は韓国で25年間プロダンサーとして活動してきたEUANFLOWといいます。今は韓国で9年間ALiENというダンスの会社を運営しています。これから日本と韓国の文化をつなげつつ、今までやってきたように、日本でも素晴らしいアーティストをプロデュースしてみたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

――今までSKOOTAは様々なクリエイターさんと話してきたのですが、EUANさんのような方にインタビューするのは初めてです。まず最初に、ダンスを始めたきっかけを聞いてもいいですか。

EUANFLOW:私が小学校3年生の時に、テレビでヒョン・ジンヨンとかソテジワアイドゥルみたいなアーティストが出てきたんですね。それが面白そうだったから趣味として真似たりして、それが楽しかったんです。
 それまでの自分は、本をよく読んでいて、勉強も頑張るタイプで。でも、ダンスを始めてからはほぼそれしかやってなかったですね。高校まで趣味でダンスをやってましたが、自分がダンスでテレビに出るなんてちっとも思ってなかったんです。
 そんな中で、ある日、僕にダンスを習っていた友達が冬休みにプロのダンスチームのオーディションを受けて合格しちゃったんです。だから「俺に習ったやつが受かったなら俺にでもできるな」と思って、次のオーディションを受けて自分もそのチームに入ったんですね。

――当時(1990年代前半)はダンス歌手の全盛期とでもいえますよね。そうやってテレビというメディアを通してダンスに触れる以前は、本を読むのが大好きなおとなしい子供だったということで。

EUANFLOW:そうですね。すごいおとなしい子でした(笑)。ゲームも好きだったんですけど、それ以上に本をたくさん読んでましたね。

――ダンスを始めて、周りの反応はどうでしたか。

EUANFLOW:実は周りの親戚たちからは、(自分が)ちっちゃいときから本ばかり読んでいたから、将来きっとえらい人になると期待してたみたいなんですね。「判事とか検事になるんじゃないか」って。でもダンスを始めてから勉強がつまらないと感じてきて、「高校進学を辞める」とまで言ったんです。中学時代にダンスばかりで勉強やってなかったのに、高校進学したら勉強するなんてありえないと思っていたので。すると、すべての親戚から「高校は卒業しないと!」と言われてしまいました。
 当時PC-286とか386が発売された時期だったので、「ならプログラマーになりたい」と思ってその分野の高校に進学しましたね。でもその高校のダンス部で例のダンスを教えていた友達に出会って(笑)。それが始まりでしたね。

――今でも高校進学を辞めるって、韓国では社会的に許されないという認識だと思いますが、当時はもっと厳しかったはずですよね。

EUANFLOW:かもしれませんね。
ちょっと面白いエピソードを言いますと、中学時代に勉強が嫌すぎて教科書の真ん中に日本のマンガ本を挟んで読んでました(笑)。

シン・ウィス:当時何読んでたか覚えてますか?

EUANFLOW:まあ、『ONE PIECE』とか『湘南純愛組!』だったんじゃないかな。もしくは『ドラゴンボール』とか。当時の韓国は、「漫画房만화방(マンファバン)」と言って漫画本を貸してくれるレンタル屋さんが流行った時期で。私本読むの好きって言ったじゃないですか。当時通ってた漫画房さんにあった、ほぼすべての漫画を読んでました。

中学時代、勉強が嫌すぎて教科書の真ん中に漫画本を挟んで読んでいたくせに、高校進学して「夜間自律学習야간자율학습」をやる自信がなかったんですよ。だからさっき話したような流れになっちゃったんですね。

「夜間自律学習야간자율학습」:韓国の高校で、正規の授業が終わったあとに学生を教室や別途のスペースで自習させる制度のことをいう。2010年代前半まで、参加を強制する学校が多かった。(注)

――ということは、昔から日本の文化に触れていたということですか?

EUANFLOW:そうですね。今ももちろんそうですけど、日本の漫画って当時の韓国でもすごい人気があって、アニメーションでいうと世界1位だったから、触れてないのがおかしいくらいでしたね。同年代で日本の漫画を読んでない人はいないんじゃないかと思うくらい、人気があったので。

シン・ウィス:今のK-popと韓ドラみたいなもんだよね。

EUANFLOW:うん、そうだと思う。

プロチームに入って感じた限界と、新しく見つけたゴール「新世界が広げられた」

――実はこの分野をよく知らない人において、ダンサーとコレオグラファーの違いって何だろう的な、もしくはコレオグラファーの意味すら知らない人もいると思うんですよ。EUANさんはどうやってダンサーからコレオグラファーになったのかお聞きしたいです。

EUANFLOW:これも私の幼いころの話から始まったほうが理解しやすいと思います。
 私が韓国年齢で18歳、日本だと17歳の時に「ING」というプロのチームに入ったんです。当時に韓国ですごく人気だったチームです。その時の自分は、幼いころからダンスをやってきたし、友達同士でしか踊ってないから、自分がすごく上手いと思っていたんですね。でもそのチームに入ったらまさに新世界が広がっていて、自分がどれだけ井の中の蛙なのか知らされました。
 その中で一番驚いたのは、当時の団長さんが振付を作る過程を横で見てて、「どうやってこんなにうまい振り付けが作れるんだ」とカルチャーショックを受けたんです。だから私はプロチームに入って初めてのゴールが「コレオグラファーになること」でした。舞台で踊るんじゃなくて。

私はほかの人よりも早めに振付に興味を持ち始めて、幼いころから本をよく読んでいたのが影響したのかも知れないですけど、ただ振付を見るのではなく「どうしたらもっと上手くなれるんだろう」「あの人はなぜそんなに上手いんだろう」と思い悩んだりしてしまって。 だから当時は同じ曲で違う振付を考える人たちを見て、「なぜこの人の方がかっこいいんだろう」「なぜこの人のあのパートの方がもっといい感じなんだろう」ということを考え、探究する作業を続けてました。こういうことを幼いころからずっとやってきたので、それ自体がすごく土台になった気がします。

 ここでダンサーとコレオグラファーの違いを説明しますと、ダンサーは言葉の通り「踊る人」で、私はこれがダンスにおいて、キャリアの一番最初にやることだと思うんです。 ダンサーの次にコレオグラファーがいて、これは「どれだけダンスが上手いか」とはまた別の能力が問われますね。コレオグラファーだからといって必ずしもダンサーより上手く踊れるわけではありませんが、ダンスというジャンルと文化に対する理解度や経験値が十分溜まらないとコレオグラファーにはなれないんです。そういうわけで、ダンサーの次の段階としてコレオグラファーがあると私は思っていて、そのさらに上の段階がディレクターだと思ってます。

 コレオグラファーが「動作を作る人」ならば、ディレクターは作られた動作を全体的にアレンジ、修正、調律して一つの作品に仕上げていく「監督」みたいな人で。私は個人的にこれがコレオグラファーの次の段階だと思っているんです。
 動作を作ることって踊った経験さえあれば、作れてしまう面もあるわけですけど、作られた振付がいいのか悪いのか、もしくは人々を楽しませられるのかどうかは、実際に振付を作ってみた経験がないとわからないんですよね。自分の作品を舞台に上げてみて、また他人に教えて踊ってもらうような経験をたくさん積んでみて、ようやくそれらを見極める目線が生じてくる。
 そういうわけでコレオグラファーを通しての経験が十分溜まらないとディレクターにはなれないな、と私は思ってます。個人的に想定しているキャリアの順番といいますか。あるいはレベルの順番的な?

スタジオで行われている授業の風景①


スタジオで行われている授業の風景②

――まさに誰が聞いても理解しやすい説明だと思います。ところでこの話を聞いて「普段どうやって振付を考えているのか?」が一番気になりました。一般人の目線になりますが、フィジカル的に、つまり動作のアイデアやヒントなどを普段どこから得られているのか聞きたいです。

EUANFLOW:まず私が個人的に一番大事に思っているところは「曲の雰囲気とあっているのか」で、これは別に私じゃなくても皆そうだと思います。曲のコンセプトと雰囲気、メッセージにふさわしい構成にできるかを第一段階として考えています。ですが、コレオグラファーとしての競争力は「他人がやってない動作」「作られていない動作」を生み出せるのかだと思っていて。
 私の場合は、これを語ると皆笑っちゃうんですが(笑)。どんな芸術分野でもレファレンスって必要じゃないですか。例えばMVの監督だったら他のMVを参考にするし、映画監督だったら他の映画を参考にする。私の場合は、ダンスが苦手な方の動きを参考にするんです。


記事の続きはSKOOTAにて閲覧いただけます。


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