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「伝える」は相手が主役

何かを人に伝えるということは、人が日常最もよく行うことの一つであるにも関わらず、うまく行かないことも多々あります。また、時として雑に扱われてしまうこともあります。そんな人と人とのコミュニケーションの齟齬が、いろいろな問題を引き起こします。マーケッターとしては、このコミュニケーションのルールを理解し、活用することで物事を円滑に運び、伝えるべきものを伝えたい人にうまく伝える方法を身に着けたいものです。この記事では、この「コミュニケーション」について考えてみます。

世の中の多くの課題はコミュニケーションに起因する

世の中には様々な課題、問題があります。会社での仕事上のちょっとした居座古座、組織間の無理解と非協調、顧客とのトラブル、家庭内の夫婦間のすれ違い、子供の反抗期、政治の世界では国家間の紛争から、娯楽の世界ではドラマの中の男女のすれ違いまで、実に色々な種類のものがあります。

しかし、これらの課題や問題の多くは、紐解いていくと「コミュニケーションの問題」に帰結することに気づきます。

「なんで相手はわかってくれないんだ」
「もしあの時ちゃんと伝わっていれば...」
「後から考えると、もっとああ言っておけばよかった...」

しがないサラリーマンから一国の総理大臣まで、コミュニケーションミスによる後悔をすることは多いはずです。かくいう私自身も、コミュニケーションの問題でよく悩みます。しかし、コミュニケーションの問題は、うまくやらないといけないと分かっていてもなかなかうまく行きません。それは何故でしょうか?

コミュニケーションの主導権は受信者側が握っている

ひとつの理由は、コミュニケーションがうまく行ったかを決めるのは、コミュニケーションをする側ではなく、される側であるからだろうと思われます。つまり、コミュニケーションの主導権を握っているのは、発信側ではなく受信側なのです。

発信側が、いくら自分が伝えたいことを詰め込んで伝えようとしても、それが受信側に結果的に伝わらなければ何の意味もありません。しかし、このことを忘れて、自分たちが伝えたいことだけを詰め込んで発信した後は、もうコミュニケーションしたと思い込んでそのまま終わってしまう、というパターンのなんと多いことか!

このパターンは、日常的に様々なシーンでよく見られます。具体的には、仕事では、自分の部門から他の組織に自分がやっていることをメールで発信してそのままにする、部下に指導したいことを一方的に伝える。家庭では、配偶者や子供に自分の言いたいことを一方的に伝える、などなど。

これはマーケッターであっても例外ではなく、メルマガで自社製品のメリットを顧客に一方的に伝える、といったことを残念ながらよくやってしまっている光景を目にします。

しかし、自分たちが発信したいことを発信して満足してしまうと、それがきちんと伝わっているのかが分かりません。また、それがそもそも受信者側に解りやすい手段や内容だったのか、欲しい情報だったのかということも分からないことになります。

実際には、ここで発信者側と受信者側とで大きなギャップが出来ていて、発信者側は伝えたはずなのに、受信者側には伝わっていないということが良く起こっています。

きちんと伝わったのかをまず確認しよう

この好ましくないコミュニケーションを断ち切り、受信者側にきちんと伝わる状況に近づけるには、まず伝えた後に正しく伝わったかどうかを確認するところから始めてみましょう。多くのコミュニケーションでは、この確認すら行われていません。

直接会って伝えているなら、意図が正しく伝わったかどうかを直接相手に聞いてみましょう。コミュニケーション手段に距離があったり、人間関係に上下関係があるなど、直接聞きづらい場合は、アンケート等のフィードバックを取る手段を実行してみてください。

正しく伝えることの第一歩は、それが伝わったことを確認して認識すること、です。これは誰でも気づけば実行できることなので、必ず実行してみましょう。私自身も受信者側からフィードバックを得るように常に心がけるように努めています。

伝える方法に気を遣おう

伝える方法にも気を使ってみましょう。一昔前ならば、送った手紙が途中で盗難にあって実際には届いていなかったとか、FAXで出したと思っていた注文が実際には間違った番号に送られていたとかで、コミュニケーションが成立しないまますれ違っていたこともありました。いまなら電子メールの開封通知とか、レターパックの配達確認とか配達を確認する方法はいろいろあります。

また、電子メール自体は届いていても情報が伝わらない送り方をしている場合も多々あります。添付ファイルをパスワード付きZIPファイルで送っていて、パスワードが届いていなくて受信側が開けていない、もしくは受信側で開き方が分からなくて開けていない、メールの中に書いたリンク先が社内のもので社外の受信者には見られない、もしくはアクセス権が受信者にないため見られない、など。このように、受信者が技術的に情報にアクセスできないケースにも気を遣いましょう。

さらに、マーケッターであるならば、もう一段高度なことにも気を遣いましょう。対顧客向けのメルマガなら電子メールの一般的な開封率は20-30%程度 (Open Rate)、さらにメール内のリンクのクリック率は高くても5%程度 (Click-Through-Rate, CTR)であることを知っているでしょう。そのため、本当に伝えたいことをメールで書く場合、リンク先ではなくメール本文や件名に概要を書いてしまいましょう

よく、「詳しくはリンク先を参照」と、概要を書かずに、分かりにくい件名でリンクだけ並べてメールを送ってくる人がいますが、これでは伝わるはずもありません。また、ここでは詳しく述べませんが、メール内での文章の書き方にもコツがあります。

電子メールでのコミュニケーションは、顧客向けであっても組織内向けであっても、Open RateやCTRを意識した本文や件名を意識しましょう。また、Open Rateを考えると、一回メールを送ったら伝わると考えずに、違う手段も織り交ぜながら2-3回コミュニケーションを行って初めて伝わるくらいに考えましょう。

また、受信者が普段からよく使う慣れている手段を用いてコミュニケーションするのも重要です。直接会うのがいいのか、電話がいいのか、手紙がいいのか、電子メールがいいのか、LINEがいいのか、など、自分が使いやすいものではなく相手が使いやすいものを意識して選ぶようにしましょう。場合によっては、ただ言葉で伝えるだけではなく参加型、体験型のワークショップなどを組み合わせることも効果的です。

伝える方法については、誰でも意識して学べば習得できます。覚えておいて損はありません。

伝える内容に気を遣おう

伝える方法に加えて、伝える内容についても気を遣いましょう。ここでいう伝える内容の工夫というのは、「発信者側が伝えたい内容」を伝えるのではなく、それを「受信者側が欲しい内容」に変換して発信する、という工夫をすることです。

よくあるのが、「私 (発信者側)の立場はこうだ」「私はこういう物を作った」という発信をしている例です。マーケティング的に言うと、いわゆる「プロダクト・アウト」的な発信をしているケースです。

これは、相手がたまたまそれを理解してそれを欲しているのであれば伝わるかもしれませんが、そうでないケースの場合、受信者側の理解が得られにくい、共感が得られにくい、という問題があります。

それに対して、「貴方 (受信者側)から見るとこう見える」「貴方のメリットはこうだ」という発信に切り替える、つまり「ユーザーシナリオ」に沿った発信をすることで、受信者側にとってより理解しやすく共感も得られやすくなります。

自分の立場ではなく相手の立場を想像した内容を発信することが求められています。

期待値を設定して上回ろう

さて、ここまでは気づいていればある程度テクニックで改善できるポイントについて述べてきましたが、これらのことを実践したとしてもコミュニケーションは毎回うまく行くとは限りません。そこがコミュニケーションの難しいところなのですが、これらに加えて何に気をつけたら良いでしょうか?

同じ状況で同じ説明をする際に、人によって説明の仕方が異なりますが、それによって結果が異なることがあります。コミュニケーションが成功する人と失敗する人を分ける要因は何でしょうか?その際の重要な要素の一つとして、発信者が受信者に対する期待値をどう設定しているか、ということが関係している場合があります。

期待値設定とは、送信者からどういう程度の答えが帰ってくるかという受信者の期待を受信者が予めコントロールしておくことを指します。実はコミュニケーションにおいては、この期待値設定がとても重要です。

たとえば、貴方が子供におもちゃを買ってあげる際に、お小遣いが少し足りず子供が欲しいと言っていたおもちゃを買ってあげられないで少し安いおもちゃを買ってあげる場面を想像してください。その際に、「おもちゃを買ってあげようとしたけどお金が足りず少し安いおもちゃになった」と言うのか、「元からお金がないからおもちゃを買ってあげられないところを、安いおもちゃなら買ってあげられるようになった」と言うのかによって、結果は同じにも関わらず子供の反応が変わってくる可能性があります。

前者の場合、子供からすると「安いおもちゃしか買ってもらえない」と否定的になるのに対し、後者の場合「安いおもちゃでも買ってもらえる」と肯定的に捉えられる可能性があります。

これは大人の世界でも同じで、たとえば株価もあらかじめ期待値設定をしていた業績を上回れるかどうかにより株価が上がるか下がるかが決まったり、上司への業績の報告も商談が楽に取れそうか厳しいのかの設定によって、同じ報告をしても返事が変わってきたりします。

このように、コミュニケーションは「受信者側にどのような期待値を設定して、それを結果として上回るように報告できるか」が、うまくいくかどうかの一つの重要な要素となるのです。コミュニケーションの主導権を握っている受信者側に切り込んでコントロールをできる可能性があるからです。

意識的に期待値設定とその後の報告内容を考えられるようになれば、コミュニケーションがより円滑に進むのではないかと思います。これが日々のコミュニケーションの一助になれば幸いです!

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