35歳、ひとり、朝から松屋で呑む
・100点の朝
じわりと暑い朝。
少し前までの焼ける様な日差しは去り、暑いながらも心地よい朝となった。
これぐらいの気温だとちょっと体でも動かそうか、という気にもなるものだ。
出発時間は朝9時45分。
早起きには遅いが動き出すには早い、ちょうど良いじゃないか。
ちょうど冷蔵庫を買い替えようと思っていたところだ。
国道沿いをぶらぶらと東へ、大型の家電量販店へと向かう。
日曜日の午前ということもあり、平日の交通量とは雲泥の差。
ゆったりとした日曜日独特の空気の中をふらふら行く。
30分ほど歩いたところで、やはり腹が減ってきた。
ついでに朝飯を食べて帰ろう。
朝早く起き体を動かし、そして朝飯を食べる。
100点だ。
そう決まれば目ぼしい店を探そう。
スマホではなく街をぶらぶらしながら自分の目で。
喫茶店でモーニングもいい、朝ラーも未経験なので試してみてもいい。
今日は休日なので何をしても許される。はずだ。
でもパンより麺よりやっぱり米がいい。
そこにビールでもあれば最高だ。
・チェーン店万歳
しばらく街中を彷徨った。
地域密着型の喫茶店は素敵なチームマダムが陣取っており中々ハードルが高い。朝ラーをやってる店はなかった。
と、なると安定感に欠いた個人店ではなくチェーン店に頼らざるを得ない。
味わい深い個人店ももちろん良いが、チェーン店の良さを改めて味わうには良い機会だ。
休日の朝ということもいつものステージとは異なっており、また別の表情を見せてくれるだろう。
ということで10時15分、到着したのは松屋。
松屋で飲むのは初めてではないのだが、朝呑みは初体験。
「むちゃくちゃ使いにくい」ことで有名な松屋のタッチパネル式発券機を駆使して注文。
以前よりは多少マシになったが、この日も妙齢の女性が牛めし2個をお持ち帰り発券するまで10分少々かかっていた。
マジかよ松屋。
そんな女性の焦りと苛立ちからくる雰囲気をバシバシと感じながら店内を見渡す。
平日の昼間とは打って変わってガラガラの店内。
窓際のカウンター席程よい日差しでベストポジションだな、と今日のフィールドに決定。
そんなことをしているうちに女性のオーダーがやっと終了し自分の番が。
何気に券売機の上を見上げてみるとこんな看板。
「飲め」と天啓。
こうなってくると話は別である。
食べたいものから、アテと食事の構成に作戦を練り直さなければならない。
もちろん作戦が変わればメンバー編成もイチから変更になる。
中瓶を中心とした最高のメンバーはどうなるのか…
・「100円引き」への感謝指数最大値更新
早速だがメンバー発表にうつりたい。
今回の松屋朝呑み作戦においてのベストメンバーは以下である。
・ソーセージエッグ定食(ライス小盛り) ¥450
・瓶ビール ¥490→¥390
・ポテトサラダ ¥70
通常価格¥1,010→キャンペーン価格¥910
2000点だ。100点を大きく更新し2000点である。
通常であっても割引というのは嬉しいもの。
それが惣菜であれ生鮮食品であれなんでもだ。
しかし¥1,500が¥1,400になるのは少し弱く感じる。
100円引きに対する感謝の数値が低く抑えられている感覚。
¥2,000が¥1,900になるのは上記の例よりは少し感謝指数は高いが、せいぜい50点といったところだろう。
しかし¥1,010が¥910になるとどうだろう。
同じ¥100引きという事実は変わりないが、感謝指数が大幅に引き上げられてはいないだろうか。
この時点で休日の朝だらだらせず活動した自分を自分で褒めてあげたい。
心の小出監督も思わずロードサイドまで飛び出してきて隣で励ましてくれている。
ともあれ出来上がるのを待つ。
その間に皆様に問題です。
興味ある方または正解をお知りの方、いらっしゃいましたら申し出て下さい。
お医者様をご紹介致します。
・開幕
これは朝食なのか?
いや、もはや舞踏会のように豪華絢爛。
しかしこの豪華なメンバーをどう駆使していくのか、腕が試される場面が続々と押し寄せてくる。
しかし怯えていてもしょうがない、怖がっていても何も始まらない。
初手が最も重要であるといっても過言ではないのだ。
初心者であれば、まずは漬物から…となってしまいそうなところだがそれは陥りがちなミスだ。
味の濃そうな面子が揃っているため漬物は中盤戦の要になる。
まずは海苔をどかして小皿を確保。
そこにソーセージエッグに盛られているキャベツを移し、松屋最大の特徴である多くのソース類からフレンチドレッシングをチョイス。
そして移したキャベツにたっぷりと回しかけよく混ぜる。
こうすることでメニューにはないコールスロー風サラダをクリエイトできる。
好みの人はここに紅ショウガを混ぜ込むとよりおつまみ度がアップするので覚えておくように。
ちょい甘ながら程よい酸味のきいた味わいで笑顔。
この時点でお待ちかね、中瓶からビアタンに中身を注ぎ込む。
中瓶であることを考慮し一口を大事に。
ゴクゴク行きたい気持ちを抑え、ちびりちびりと喉を湿らせる様に飲む。
素晴らしい先鋒であった。
・半分
次はソーセージだ。一見メインディッシュに捉えがち。え、もう!?と感じるかもしれないが、相手の予想の裏をかくのが戦術。自分で書いていて何と戦ってるかわからない、そして怖い。ともあれ油分多めでThe加工食品。加工食品を食べたときって脳の下のほうからなんか湧いてこない?これが脳内麻薬…ジャンクの泉…
そしてコッテコテになった舌をビールで洗い流す。最&高。
ちょこちょこビールを継ぎ足す。
そしてお待ちかね目玉焼き、ここがひとり呑み者としての腕の見せ所。
ひとり呑み者って何者?不審者じゃん。
塩で食べるか醤油で食べるか。はたまたソースか。
そんな所で踊ってる暇なんかないぜ。好きに食べればいいんだよ。
ただし、半分だけだ。
ということで早速半分に割る。
Oh、スプラッタ。
なぜ半熟なのに割ったのか。焦るんじゃないよ、坊や。真実はいつか分かるものさ。
目玉焼きって焼いてないよね多分。じゃあ目玉蒸し?
目玉虫ってなるとちょっと語感キモいな、とか思いながら食べた。
・隠れたエース
ここで漬物を使う。まぁ普通。上も下もない。
普通オブザイヤーにノミネートされた。
しかしこの普通こそが今欲しかったのだ。
後半はポン酢&七味を駆使して食べた。
ちなみに季節によって使用される野菜は変わる。
キャベツか白菜が個人的にはうれしい。ハッピー。
ここで今回真のエースが登場。
それがわざわざ別注したポテトサラダである。
ねっちゃりクリーミー系。
本来の好みはごろごろ系でキュウリが入っていないもの。
しかし今日はこの粘度が高いものが正解なのだ。
これを半分食べる。BBQソースをかけても美味しい。
ビールの残量をグラス一杯分に調整しておこう。
ここからが真の山場だ。
・幻のメニューをクリエイトする
さて、終盤戦。
ビールも残り一杯。
ここまででも十分満足なのだがせっかくの松屋。牛めしも食べたくなるのが人間というもの。
しかしご飯の量を小盛りにしているとはいえ、モーニングについてくる小鉢では心もとない。
そこで、残しておいた目玉焼きとポテトサラダを合体。
黄身がほぼ生に近い半熟であるがゆえ、粘度高めのポテサラと合わさることによりタルタルソース(※以下、疑似タル)っぽいものをクリエイトできる。
タルタルソースは装備するだけでクロノトリガーの強くてニューゲーム状態に仕上げてしまう。
しかし一度その魅力にとらわれるとどんなものにもつけたくなる、一種の呪いの装備の様なものだ。
その証拠に現在、牛丼チェーン大手3社のいずれにも「タルタル牛丼」やそれに準ずるメニューはない。絶対売れるのに。
その証拠として丸亀製麺で販売されている「タル鶏天ぶっかけうどん」は、過去に実施された「あなたが選ぶ! うどん総選挙」で、総投票数55万票を超える中から1位に輝いたの実績がある。
これがタルタルがなければそこまでの人気は博さなかったに違いない。23位ぐらいに落ち着いていたのではなかろうか。知らんけど。
と、タルタルソースの美味さを説明したところで、疑似タル牛丼をクリエイト。
暴力。これはもはや暴力だ。
正面から思いっきりぶつかった。効果音で説明すると「バァァァァーン!!!」的な音が出ているであろう。
ガツガツ掻き込むのではなく一口をしっかりと噛みしめる。
牛肉の甘じょっぱさ、疑似タルのこってりもったり感。
紅ショウガのさわやかな酸味。
ここで前半から温存していた海苔が登場する。
疑似タル部分にすこし醤油を垂らし、海苔で包み込む。
玉子の黄身が作用し、なんと玉子かけごはん風に。
そこにビールを流し込む。
約束された勝利。我が軍の圧勝だ。
・戦いを終えた勇者
疑似タル牛丼を平らげビールも飲み干した。
達成感と幸福度につつまれる中時計を見ると、針は11時5分を示していた。
こんなに松屋でゆっくりしたことはあるだろうか?いや、間違いなく無い。
平日は企業戦士の重要なエネルギー補給所だ。
素早く手軽に美味しいものを提供する場でこんなに時間を使ったことに少し罪悪感を覚えた。
が、今日は日曜日。誰に気を使うこともない。
最後に残しておいた味噌汁をゆっくりと味わう。
しょっぺぇな。
気持ちもお腹もいっぱいになり店を出る。
そして少し気温が上がった街を家路へ。
高くなった陽を見上げ「35歳にもなってなにやってんだろ」
と思いながら。