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「必ず最後に愛は勝つ」という強さ



花組公演「元禄バロックロック/The Fascination!」
本拠地、宝塚大劇場では2021年を締めくくる公演となり、日比谷の東京宝塚劇場では2022年の幕開きとなるお正月公演となった本作。

年の瀬を彩り、お正月にふさわしい華やかさで、花組生誕100周年を祝う公演であり、そして柚香光さんと星風まどかさんの新トップコンビのお披露目公演。
幾重にもお祝いムードに包まれたこの作品は、お芝居もショーも、柚香さんのお言葉をお借りして、紛うことなき「どハッピーエンド」の素晴らしいものでした。


残念ながら東京公演はそのほとんどが公演中止となり、合わせて二週間ほどの上演となってしまいましたが、その公演中止期間さえも花組を愛する人々の心のつながりを感じることのできる、尊さに包まれていた時間でした。

そして再び幕が開いてからは、花組の皆さんが舞台の上から届けてくださる愛の深さ、重さが劇場の外までにもひしひしと届いてくる、かけがえのない時間だったと感じます。

とはいえ…やはりファンとしても、そしてなによりも舞台をつくる花組生の皆さま、劇団スタッフの皆さま、多くの人々が悔しさと辛さを噛み締めに噛み締めた公演だったとも思います。

この辛さもすべて抱え、飲み込んだ涙もすべて包んで、全ての人の心を想い、千秋楽のその幕が閉じる瞬間まで「どハッピーエンド」で突き進んでくれた柚香さんと花組の皆さまに、やむことのない拍手を贈り続けたいです。


***


一幕「元禄バロックロック」は、演出家・谷貴矢先生の大劇場デビュー作品である忠臣蔵ファンタジー。

台本を読んで「どハッピーエンド」とその物語を表現された柚香さんのお言葉通り、ハッピーエンドもハッピーエンド。
宝塚らしい結末でありながら、そのハッピーエンドを少しも疑わないでいられるだけの、舞台の「嘘」を削ぎ落としていく役者たちの説得力があったからこその、どハッピーエンド。

そしてその説得力は、宝塚歌劇だからこそ、柚香さん率いる花組だからこそ成し得たものだったのだと思います。


(※以下、物語のネタバレなどに触れています)


誰もが知る忠臣蔵と、「時を巻き戻せる時計」というアイテムが交わり、とんでもない磁場を生み出しているこの作品。そんな世界の中で、どっしりと地に足をつけ身構えながらも、誰よりも軽やかで自由に生きていた柚香さん演じるクロノスケ。

演目発表時の作品紹介の中にあった、「爛れた愛」というワードが強烈なインパクトでしたので、そこから膨らんだ観劇前のクロノスケのイメージは、それはもう色気ダダ漏れでとんでもなくだらしない美形の男、だったのですが、実際のクロノスケは、彼の中に一本筋の信念が通っているゆえにどこか羽目を外しきれない心根の優しい男、でした。(色気はダダ漏れですし、もちろん美形の男ですが)

柚香さんが「少年漫画のヒーローのような」とクロノスケのことを表現されていらっしゃって、本当にそれがカチリとはまると思います。

少女漫画のキラキラの王子様ですら、その人間性に豊かな陰影をつけて、本当に現実にいるのかもしれないと思わせる説得力を持たせ、それでいて夢よりも夢のような素敵さにあふれて演じられる柚香さん。
内面の人間性を深め、磨くからこそ、その魅力が外見に表れてくるということを体現していて、それこそが何よりの柚香さんの魅力であり唯一無二のところだと私は思うのですが、そんな方が演じられる少年漫画のヒーローとなると、それはもう見ていて心躍らないはずがなく。

己の信念のために生き、迷い、やんちゃで俺様で、誰よりも優しく、懐が深い。
そして一人の女性を愛し、彼女へ向かう自分の愛情に自分でも戸惑い、持て余しながら、強い力で抱き寄せて、丁寧に全力で愛おしむ。

まるで魅力の詰め合わせセット、絶対そんなのありえないと思うような要素をすべて持ち合わせ、かつ誰よりも「現実っぽさ」を纏っていた柚香さんのクロノスケ。

夢よりも夢のようでありながら、等身大の青年としてそこに生きている。

台詞ではなく「言葉」。
動作ではなく「仕草」。
「表現」を超えた熱い波動。
それらが、このファンタジックな世界から、どんどん嘘を削ぎ落としていく。
けれどそれが重たくなりすぎずに、持ち前の身軽さで観客の心をワクワクさせたままにしてくれるんです。その説得力とエンタメ性の共存のバランスが絶妙で、それらが物語を骨太に、強固なものにしていたと思います。

そして今回、クロノスケとして生きる柚香さんを見ていてすごく思ったのは、どこまでも「自由」ということでした。

元々がとても柔軟な方で、これまでもその柔軟さで表現される役の背景やストーリーの奥行きに心奪われてきましたが、そこからさらに身軽になり、柔軟の幅が広がっているように感じられて。

軸と重心が絶対にブレないからこそ、柚香さんの軽やかさ、自由さがクロノスケという人物をより輝かせ、そして星風さんのキラを、どこまでもどこまでも連れて行こうとする力強さになっていたと思います。


星風さん演じるキラ。
彼女のなんと愛らしくいじらしいことか!
それはもちろん見た目のこともそうであるし、なによりも内側から溢れ出ているものがたまらなくキラの魅力となっていて、まさに「煌めくお前の笑顔にぴったり」というセリフそのものの人でした。

まるでその身の回りに、きらきら輝くこんぺいとうの粒がこぼれ落ちてきているような佇まい。
甘くて可愛くて、でもちょっとやそっとでは崩れない強度も持っている。

柚香さんが仰っていた、星風さんの内に宿る「わんぱく魂」がそのまま彼女の芯の強さとなって、キラという健気な少女の心にも反映されていたのかなと思いました。

時を巻き戻せる時計という大きなアイテムのもと、この物語の中心地にいるのはまぎれもなくキラ。キラのことを思うと、本当に胸が苦しくなる。

ひとりぼっちで、何度も何度も時を巻き戻し、愛しい人を救う旅を続けているという事実は途方もなくて、それをたった一言「あなたが好きだから」という言葉で包んでしまうキラ。

その言葉は異様なまでの重さを持つのに、パッと咲いて美しく消えていく花火のようなトーンでキラは明るく告げる。これもまた、星風さんが持つ軽やかさゆえのものだと思いました。

キラがこの言葉をクロノスケに告げることができたのは、星風さんがぎゅっとキラの心を抱きしめていたからなのではないかなと…うまく言葉にできないけれど、キラを演じる星風さんが、キラのことを守っていたように感じられて。

考えれば考えるほどキラの歩んでいる人生は壮絶で、心が押し潰されそうになる。
愛する人を失い、突然放り出された外の世界で一人で生きていかねばならず、孤独に勉強を重ね、そしてそこからさらに長い時間の旅に出て、愛する人を「救えない」一年を何度も繰り返す。

そんな中で、あんなにまっすぐに純粋な愛だけを乗せて「あなたが好きだから」とキラがクロノスケに告げたからこそ、クロノスケは決意をするし、物語はその深い傷と重さを振り切って、救済のハッピーエンドに向かっていける。

星風さんだからこその、この愛らしいキラ。
そしてこの愛らしいキラだからこそ、クロノスケは歴史をひっくり返すとんでもない方向にすべてを引っ張り込み、嘘のない、どハッピーエンドにつながっていったのだと思えてならないのです。

まさしく「必ず最後に愛は勝つ」物語!
宝塚歌劇では特に鉄板中の鉄板であることですが、この元禄バロックロックほど、ストレートにその真髄をいく作品も実はそうそうないのかもと思います。

ラストシーンの、銀橋で笑顔ではしゃぎあうクロノスケとキラ。
何度だってやり直せばいい、今度は「ここから」、ふたりで。

キラをめいっぱい抱きしめ愛おしむクロノスケに、
その愛を心からの笑顔で受け止めているキラに、
ずっとずっと拍手を送り続けたくなってしまう。
これを「どハッピーエンド」と言わずしてなんと言うのか。

必ず最後に愛は勝つ。
私はいつだってそれが見たくて、それを信じたくて、宝塚歌劇を観続けているのだと思うのですが、これほどまでに痛快に、愛の大勝利を決めてくれたこの作品を心から愛おしく思います。


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(その他バロックロック感想メモ)
大劇場公演のパンフレットの表紙=気が狂う(私の)
・衣装が出演者一人一人に至るまで豪華!楽しい!
・ラッキーこいこいのネーミングにみなぎる新感線み
・賭場のスーパーイケメン(和海さん)に恋
・東京公演で追加されたクロノスケの「夢ねえ」
・その後に続く「夢を見ようかァ」のねっとり感=気が狂う(私の)
・コウズケノスケはイケおじというか最強ナイスガイ
・意識を失うので絶対オペラで見るまいと心に誓った膝枕
・クラノスケ=リアコ枠
・ツナヨシさまかわいい
・ツナヨシさまかっこいい
・ツナヨシさま強い
・大人になったツナヨシさまに会いたい(もちろん音くり寿さんで)
・ヨシヤスめちゃくちゃ良い人
・キラのショートカットスタイルの破壊力
・「俺の隣で笑っていてくれ」にうるっとする
・からの、キラを囲い込むように手を回すクロノスケ(東京公演終盤)
・クロノスケ「キーラ?、笑ってくれよ、な?キラ、キーラ」=気が狂う(私の)
・全体的に気が狂う(私の)


***


二幕「The Fascination!」
花組生誕100周年を祝う、なんとも華々しい絢爛なショー。

通常より10分長い公演時間も、生徒ひとりひとりの顔がしっかり見えるところも、現代的でありながらクラシカルを追求し、これまでの軌跡を鮮やかに描いているところも、あますことなく素晴らしいショーでした。

この先の未来、100年後にもきっと宝塚は、花組は続いていくと心から思えるような確固たる礎のもと、現在の煌めきがあふれんばかりに詰め込まれていて。
今この時、この作品を、敬愛するご贔屓さまがトップスターを務めている花組で見られること。その奇跡のような巡り合わせに、心から感謝の思いでいっぱいです。

好きなシーンはたくさんあるのですが、なによりも、全体を通してトップコンビがずっと一緒にいるというのがすごく嬉しかった!
意外と別々のシーンに出ているショーもある中で、ほぼ全場面で一緒にいてくれるのはトップコンビのファンとしては幸せでなりませんでした。

お芝居での、クロノスケの「俺の隣で笑っていてくれ」と言う台詞がとても好きなのですが、それを回収するかのようにずっと隣り合っていて。
ショー自体の華々しさに、トップコンビの多幸感が加わって、それが甘い香りのエッセンスになっていたように感じます。

と思いきや、柚香さんと水美さんのジェミニな絡みもあり(加えて同期三人という胸アツシーン)、永久輝さんと星風さんが組むシーンもあり(実は好きな組み合わせ)、他にも、すべての人の「見たい!」を叶えますというような組み合わせや演出がそこここに散りばめられていて。

演出の中村一徳先生の、宝塚への敬愛の思い、花組への愛、生徒たちへのプレゼント、そして私たち観客へのスペシャルギフトのような、そんなあたたかい気持ちが詰まっている、幸福に満ち溢れていたショーでした。


オマージュの場面「ピアノ・ファンタジィ」

ショーの中でも、とりわけ空気が澄んでいたこのシーン。
客席のほどよい緊張感と好ましい期待、そして舞台上のダンサーたちの、誇りと、踊ることへの喜びが重なり合って、観ていて本当に心地よかったシーンです。

柚香さんはいつも、相手役さんや一緒に踊るメンバーに対してはもちろん、客席にいる私たちにも「一緒に踊ろう!」と手を差し伸べてくださるような、優しくて豊かなダンスをされる方。
このシーンでは、観ているこちら側の心も一緒に乗せて踊っているような、軽やかなステップに私自身も体が浮かんでいるような、そんな気持ちにさせてくれて。

NHKでのインタビューでは、星風さんがこのシーンの柚香さんに「羽が生えていらっしゃるようです」とお話しされていましたが、柚香さんにはもちろん、星風さんにも、このシーンで踊っている皆さんひとりひとりに羽が生えているようでした。

この素晴らしい場面を甦らせてくれたことに、感謝の思いでいっぱいです。

(このシーンに出ていらした優波さんが大千秋楽で「私の好きな景色は柚香光さんのお背中越しに見る客席」と仰っていましたが、このシーンの最後、柚香さんと星風さんの真後ろでポーズをとる優波さんが本当に素敵な表情をしていらして、もしかしたらこの時に見ていた景色のことなのかなと思いを馳せています)


そしてオマージュのラスト、「心の翼」

聴くたびに、この曲の持つ偉大な力を感じずにはいられないのですが、このショーでの心の翼ほど、力強く、ひかりに満ち溢れているものは、私には初めてでした。

心の翼を歌う柚香さんの背中にこそ、真っ白で大きな翼が生えているようで、その翼で全ての人の心に愛を届けようとしているのだと、この方はきっと心の底からそう思っているのだろうと、ただたただその曇りのない真実が純粋に輝いている景色だったと思います。

この素晴らしい愛を受け取ったからには、私も宝塚歌劇を愛する一人の人として、この愛を未来に繋げていきたい。
心からそう思い、願い、祈りが生まれてくる、美しくかけがえのない光景でした。


そして、デュエットダンス。
作品自体もそうですが、柚香さんと星風さんが織りなす、初めてのオリジナルのデュエットダンス。

大人で色っぽく、そして力強さのあるタンゴに乗せて紡がれるおふたりのダンス。輪郭がはっきりとしたシャープさ、パワフルで美しいリフト。それらが、ただ力強いだけでなく、なんとも優しく初々しさもある空気感の中で描き出されていて。

中でも、東京の前楽で観劇をした際のデュエットダンスのことは、色濃く心に焼き付いています。

振りの途中、柚香さんがそっと星風さんの手の甲にしたキス。
それまでになかったはずのその行為をごく自然にされていて、見た瞬間に思わず息を呑んでしまったほど。

柚香さんの、こういった舞台上での自由な変化、心のままに動きを変化させて物語を紡いでいく様はあまりにも魅力的で、どんどん引き込まれていってしまう。

手の甲へのキスは、敬愛の証。
その意味を意識してされているのではなくとも、たったそのひと仕草だけで、見えてくる風景がまた変わってくる。愛が花開いていくように熱を帯びていく。

そんな物語を紡いでいく柚香さんと星風さんの姿を見て、私は、私が宝塚歌劇に求める愛の風景がまさにここにあるのだと、深く感動してしまう。
心がたまらなく、震えてしまうのです。


***


自由な柚香さんが、どこまでもどこまでもと星風さんの手を引き駆けていく。
けれどそれは一方的なスピードではなく、二人で楽しそうに顔を見合わせながら、時に追いかけっこのように、時にステップを踏みながら、手を繋ぎ、肩を寄せ合い、ふたりで駆けていく。

「一緒に遊ぼう!と言ったら、わーいと言って遊んでくれるような空気感があって」

制作発表の時に柚香さんが話されていた、舞台での星風さんの印象。
あれはこういうことだったんだと、この表現のままの二人の姿を、まさに舞台上で見たように思います。

そして、柚香さんと星風さんを見ていると「昇華」という言葉が思い浮かんできます。

どこまでも高く遠く、軽やかに伸び上がって飛んでいける、上昇していくイメージ。
柚香さんが放つまばゆい輝きを、星風さんという新しい風がさらに遠く広く運んで、相乗効果でどんどん明るくなっていく。

また、役者として相思相愛であることが、柚香さんと星風さんの強さだとも感じます。
仲良しでラブラブ!ということではなく、舞台を作るもの同士、心がしっかりと通じ合っていて、お互いの表現に喜びを感じているのが伝わってくる。

そう、喜び。
柚香さんと星風さんを見ていると、お互いから喜びをすごく感じられるのです。
今回の演目がお芝居もショーも明るさに満ちたものだったからというのもあると思うのですが、全国ツアーを経て、おふたりの間にあるお互いへの喜びの感情を観ていてすごく感じられる。

この喜びこそが、柚香さんと星風さんの強さにつながるのかなと。
柚香さんと星風さんの間に喜びがあり、その喜びの波動を花組生全員が感じ取り、それが組全体の強さになっているのだと感じます。


今回の公演で花組生全員が集まり、新しいトップコンビでのスタートを改めて切った新生花組。

四人の卒業生と、組替えされた組長さんが残していってくれた愛と輝きの種を糧に、ここからまた花組は、どんどん新しく鮮やかになっていくのだと思うと、心がひかりでいっぱいに満ちてくような気持ちになるのです。


***


「必ず最後に愛は勝つ」の強さ。
それは綺麗事でも絵空事でもなく、花組が作り上げる舞台の上で役者たちの真実としてあり、私たち観客の目に、心に焼き付いている。

何があっても、何度だって蕾から咲き誇る花々。
そのたくましさと凜とした美しさに、私は幾度も幾度も恋をする。

宝塚を、花組を愛するこの気持ちこそが、最後にはすべてに打ち勝てるのだと信じて。

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