風に揺れる柔らかな田んぼに埋もれて
この記事は本当は、梅雨まっさかりの7月半ばに書いていたものだが今頃の公開となってしまった。本格的な夏が訪れる前にタイムスリップした気分でお読みいただければ。
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田んぼがきれいな季節になった。
梅雨前後の田んぼは、何度見ても飽きない。5月の暑くもなく寒くもない気持ちの良い季節に植えられた稲の苗は、最初はひょろひょろっとして、やや頼りない様子だ。それが日に日に姿を変えていって、7月の今やしっかりと根付き、稲穂も見え始めている。
子が生まれたこともあって頻繁にお散歩へ行くから、昨年よりも田んぼの変化を細かく観察できている。
もとから田んぼのある風景は好きだったが、毎日のように見ていると、景色だけでなく人々のお腹を毎日満たしているほかほかご飯としての魅力も感じずにはいられない。あっという間に稲刈りになって、気が付けば食卓へのぼっていそうなスピード感。
田んぼ道を歩いていると、ふわふわしたたくさんの生き物に埋もれている感覚になる。柔らかくて、風が吹けばさらさらとなびいて。特に両脇に大きな田んぼが広がっている道では、この感覚になりやすい。
みずみずしい黄緑色をした、この愛らしい生き物はなんだろう。
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田んぼ道を歩いていると、以前うちの宿に泊まってくれたお客さんから聞かれたことを思い出す。
「ヤギの毛って何本生えているの?」
動物が大好き、という小さな子どもからの質問だった。わが家には2頭のヤギがいて、希望があればヤギとの触れ合い体験をしてもらっている。
「ヤギの毛の本数かあ、何本だろうねえ」
笑いながらごまかして、ヤギの毛の本数なんて気にしたことない!と思った。その後調べてみたけれど、そんな素朴な疑問に答えている書籍やサイトは見当たらなかった。一体何本生えているのかな。
ヤギの毛の本数はわからないけれど、人間なら情報があるのでは、と思い調べてみることに。すると、人間の体毛は目に見えるところで200万本程度であることがわかった。わが家のヤギは小型だが、全身がごわごわの毛に覆われているから、もしかすると人間と同じくらいかもっと多くあったりして。
風に揺れる柔らかな田んぼに埋もれていると、お客さんから聞かれたヤギの質問をなぜか思い出す。田んぼが生き物に見えるくらい生き生きしている、という証拠だろう。
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1粒のお米からは、1本の苗ができる。そして5本くらいの苗をまとめて植えて、これを1株と呼ぶ。
おもしろいのは、最初は5本だった苗は秋になると25本くらいになっていること。茎が増えることが関係しているらしい。最終的には、1株で大体お茶碗1杯分のお米が実る。
風が吹けば海が波立つように、風に吹かれた田んぼには一瞬滑らかな足跡が浮かび、はかなく消えていく。次の風が吹き、さっきとは違った足跡が浮かび、また消える。本当に生き物みたいだ。