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小説「若起強装アウェイガー」第9話「若起」

絵須を倒した治英は、若起したまま駅に向かった。東京へ向かったはずのアウェイガーらを止めるためだ。
だが到着した駅前ではアウェイガー3人が倒されており、いずれも首が無かった。

すぐ側には、CIAの二人が立っていた。
イスナーニ「東京へ行かれちゃこまるんでね。片付けておいたよ」
ベッシュ「まあ、お前もこの死体に並ぶことになるだな」
かつてイスナーニは、治英のダイナマイトフィストを受け、大怪我をした。
イスナーニ「たっぷりお礼をさせてもらわんとな!」

手にナックルダスターをし、ファイティングポーズをとったイスナーニが治英に向かってくる。
治英「速いッ!」
元々スピードが特徴のイスナーニだが、さらにスピードが上がっている。
イスナーニ「CIAの技術力、その身で思い知れ」

バシィ!バシィ!正確に一ヶ所を狙ってナックルダスターのパンチを打ってくる。
治英はバインダーに慧のゲノムカードを差し込んだ。
これで敏捷性は高まったはずだが、やはりかわすのがせいいっぱいだ。

ベッシュ「俺も強化されているんだよ!」
腕を伸縮させて手刀を使うベッシュが、治英の動きを牽制する。
イスナーニを気にすればベッシュの手刀が、ベッシュを気にすればイスナーニのナックルダスターパンチが治英を襲う。
治英はすでに絵須と戦って、強装も弱まりだしていた。攻撃が少しかすっただけでもヒビが増えていく。

その、ベッシュがいきなり脇腹に衝撃を受けた。ベッシュは治英らと距離を取り、周りを確認した。
白鹿丸「フッ、脇腹の具合はどうかな」
ベッシュ「お前か。CIA極東支部で強化を受けた俺にもうお前の攻撃は通じんぞ」
それを確認するように、白鹿丸は両手を擦り合わせ気流を起こし、何発も攻撃をしたが、ベッシュも俊敏性を強化されており、全てかわされてしまった。
ベッシュの伸びる手刀が白鹿丸を襲う。だが白鹿丸も、ベッシュの攻撃は全てかわした。

白鹿丸のおかげでイスナーニと一対一になった治英ではあったが、それでもイスナーニのスピードは圧倒的で、反撃の糸口をつかめずにいた。その上、わずかだがよろけたり、体の力が抜けてだるい感じにある瞬間が出てきた。
そこをイスナーニは逃さず、ナックルダスターのパンチを打ち込んでくる。
一発一発の威力はそれほどで無くとも、治英はのダメージは確実に累積していった。自己治癒能力は追いつかず、強装のヒビは増える一方だ。

さらに、イスナーニの攻撃をかわしてる間も、ヤツから受けたダメージとは別の意味で内蔵が苦しい。何かの病気になったように。
イスナーニ「どうした、これまでか!」
ビシィ!ガシィ!治英の強装はボロボロで、攻撃をかわすことも、反撃もできない。
イスナーニ「仲間の仇、取らせてもらう!」

ナックルダスターを付けたイスナーニのコークスクリューパンチが、治英のダメージが最も大きいボディに命中した。
グァァガッ!
治英は回転しながらふっとばされ、地面に叩きつけられた。強装は砂となって風に飛ばされた。

白鹿丸「おい!治英!」
治英が気になる白鹿丸は、ベッシュの伸びる手刀による猛攻にカスリ傷を受けてしまった。
ベッシュ「人の心配をしてる場合か!」
そう言ってはみるものの、ベッシュの攻撃はいつもギリギリのところで白鹿丸にかわされていた。反撃の暇を与えないのが精一杯だった。

ベッシュ「なんでだ。なんでこいつには俺の攻撃が当たらない」
白鹿丸「知りたいか」
ベッシュ「なんだと」
白鹿丸「お前がどんなに機械で体を強化しようがそれは肉体とつながっている。肉体は動きはじめるとき必ずその予兆を出す。それを見逃さないだけさ」
ベッシュ「サングラスをしているくせに、そんなことが?」
白鹿丸「逆さ。常にサングラスをしているおかげで視覚以外の感覚は鋭くなった。お前が地を踏みしめる足の音、攻撃時の息遣い、そして何より機械の腕のモーターや摩擦の音、全部まとめれば動きを察するのは造作もない」

ベッシュ「それでも!」
攻撃をやめないベッシュ。
ベッシュ「俺の動きがお前を上回れば攻撃は当たる!俺を動きを先読みされようと、かわす前に当てる!」
確かに、ベッシュの攻撃は白鹿丸にカスリ傷をつける程度には当たるようになってきていた。
白鹿丸「交わし続けるのも限界か」
手を擦り合わせた気流攻撃を使い間合いを取る。ベッシュの伸びる手刀が届かない距離に。
二人は動きを止め、お互いの出方を待った。

イスナーニのコークスクリューパンチを受け、強装も失い倒れた治英は、立ち上がれずにいた。
イスナーニ「超人的な自己治癒能力を持つアウェイガーも、そうそうは簡単に回復はせんか・・・フッ」
ザッ、ザッ、足音が近づいてくる。
イスナーニ「首を取らんとアウェイガーは死なんらしいからな。文字通りお前の首ももらうぞ」
ナックルダスターを付けたイスナーニの両腕が治英の首をギシギシと締める。
イスナーニ「このまま骨ごと千切ってやる」
治英の首がメキメキと音を出し、ナックルダスターが食い込んで血も流れ始めた。

その時である。
死人のように目を閉じていた治英であったが、急にクワッっと開くとその眼球は金色に輝いていた。自らの首を締めるイスナーニの両手首を握り、強烈に握りだした。
イスナーニ「なん・・・だと?」
治英の力はイスナーニの手首に激痛を与え、治英の首を締める力は無く、むしろイスナーニ自身が治英に捕まってる状態だった。
そして治英の全身が金色に輝き出した。
白鹿丸もベッシュもその異常な光景に気づいていたが、動けば自分が攻撃を受けるとあって対峙したままだった。

治英はイスナーニの手首を握ったまま立ち上がり、その腕を自分の手首から完全に外した。
治英「ウォオオオァア!」
雄叫びとともにイスナーニをねじるようにして放り上げ、無防備に落ちてきたところへダイナマイトフィストをくらわせた。治英全身の強装を巻き込んだダイナマイトフィストの凄まじい粉塵爆発は、轟音とともにイスナーニの体を四散させた。

その光景に気を取られたベッシュを、白鹿丸は見逃さなかった。左右二発のパンチで空気の薄い空間を作り、そこへ飛び込んで一気に間合いを詰めると、その勢いで頭部にパンチ、続いて回し蹴りをくらわせた。ベッシュの首は異常な方向に曲がり、目玉は飛び出でんばかりにむき出した。
ベッシュ「なんだ、今の動きは・・・生身の人間にこんなことができ・・・」
白鹿丸「私は鍛え方が違う、しかも品種改良を繰り返した純良種[カタロスポロス]の完成形だからな」
それに対しベッシュはもう言葉を発することができなかった。

治英は金色の光を失い、死んだように倒れていた。
そこへ白鹿丸が歩み寄る。
白鹿丸「おい。さっきのあの力はなんだ」
治英「・・・わからない。でも、はじめて若起したときの感じに似てた。電車に飛び込んだときの・・・」

白鹿丸「私はもとより白の館を潰すのが使命だ。ここでお前を命を断つのはたやすい。だが、お前が私に協力してくれるなら、私もお前の目的に力を貸そう」
ただでさえ金の力に頭が混乱していた治英は、戸惑った。
白鹿丸「私とともに来るか、それともここで倒されるか。お前の命は二度、いや三度助けたのだから、一度くらい私の言うことをきいてくれてもよかろう」

治英「行こう。俺の目的はひとつだ」
立ち上がり、白鹿丸とともに歩いていこうとしたとき、咳とともに血を吐いた。
白鹿丸「さすがにまだ体が回復してないか」
それもある。金の力のリバウンドみたいなものかもしれない。
白鹿丸「お前たちは、若起が解ければ元は中年男らしいからな。体に無理はきかんか」
それ以上に、歩くことすら億劫になるだるさを治英は感じていた。
これは、老化、ではないのか?
一抹の不安を治英は拭えなかった。

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