理想の部屋作りにまつわる自分語り
2つのトルコランプが6.5帖の部屋を照らす。天井からぶら下がっているLEDライトは一休みしていて消されている。カーテンは閉められていて外から見たらオレンジ色のぼんやりした明かりだけが見えるだろう。
キッチン側からはアパートの外を照らす街灯が漏れているがトルコランプで照らされている部屋とはドアで区切られているので小さなすりガラス窓から少しだけ明かりが見える程度だ。部屋を照らす光量にはならなかった。
自作した本棚はオークカラーの木材でくみ上げたものなので暗い色合いがトルコランプに良く似合っていた。トルコランプのうち一つはその本棚に乗せてある。
我ながらこの本棚はうまく作れた。本が多すぎて市販の本棚だと棚板が歪んでくるのだ。色合いも気に入っているし、耐震性もばっちりだ。
ipadを小脇に抱えて窓際に置いてあるビーズクッションに腰を沈める。
決して広くないけど一人暮らしをするには十分なこの部屋で過ごすゆったりした時間を、数年経った今でも思い出す。
一人暮らし
自分の部屋の内装にこだわり出したのはちょうどコロナ禍に入る少し前だった。都内の1LDKに引っ越ししたのち、落ち着いたあたりで体の調子を崩した。
メンタルも体の調子も悪いので病院へ行き、体調を整える準備をした。それが当noteの記事にもある「お風呂が好きになった自分語り」の時期だ。
その同時期に、自身がリラックスできる場所を作るというコンセプトの元、わたしは部屋作りを始めた。
トルコランプを手に入れ、Alexaからスイッチのオンオフが出来るよう、wifi付きコンセントに繋ぐ。
自室に備わっていた電球も全てwifi付きにした。
お気に入りのラグを見つけ、ベット下に。
先述した自作本棚には大変苦労したけど、出来栄えは完璧だった。
Alexaがかなり活躍した。元々何となくで買ってみたAlexaだけど、spotifyの音楽を流してもらうと低音が綺麗に出る。単にスピーカーとしての役割はかなり満足のいくものだった。
Alexaには照明LEDやwifiスイッチを教え込み、「明かりをつけて」とお願いすればトルコランプが輝くchillなお部屋へと瞬く間に変えてくれた。
様々な家具や装飾品を眺めているうちに自分はエスニック柄のものが好きということに気づいた。
意外と自分の好きなものは探さないと出てこない。
エスニック柄のラグをベッドの脇に敷いて、友人からもらった大きめのエスニック柄生地はピアノの埃よけとしてかける。
トルコランプに照らされたエスニック柄の模様が綺麗だ。普段パソコンで作業をするが、デスクをL字型のものにしてアナログ作業がすぐできるような環境にもした。
お風呂に入るようになり、入浴剤を色々試しているうちにカモミールの匂いが気に入り、無印良品でカモミールのお香を買った。
そのうち自室でタバコを吸うのをやめた。タバコは吸うけどもキッチン側へ向かって換気扇の下で吸うことだけに努めた。1日に吸う本数も少し減った。
自室でタバコを吸うのを辞めたところ、部屋の快適度が大きく変わった。未だに吸っているものの部屋のタバコ臭さがなくなり、心地よいカモミールの匂いに包まれている。喫煙者ながらにタバコは臭いものだということに気付かされた。
匂いによって快適度が変わったので頻繁に布団を日に当てるようにした。フカフカで温かい良い匂いのする布団で眠る日は特段寝付きの悪いわたしにはしばらく心地よい、安心する空間になった。
好きなものを壁に飾るようにした。
行った美術展の気に入った絵画のポストカード、好きな風景を収めた写真、好きなゲームのスクリーンショット。
わたしの「好きなもの」が壁に増えていくことで、わたしらしさがより増した。
それでなくともわたしには好きなものがいっぱいあるらしく、ジャンルも色合いもめちゃくちゃな壁になってきているがこれで良い、と思った。これがわたしなのだ。
1年後、やむを得ない事情によって引っ越しをすることになった。ひどく悔しかったけれども、背に腹は変えられない。
気に入った家具も次の賃貸に入らなさそうなものは捨てていく。わたしが好きで作り上げた部屋はダンボールまみれの殺風景な部屋に変わっていき、そして何もなくなった。
近所にあった銭湯もとても気に入っていたし、スーパーも近くて愛想のいい魚屋さんもあったのに。何より作り上げた部屋が一晩のうちに影も形もなくなってしまった喪失感が大きかった。
今では更に1回の引っ越しを経て実家に住んでいる。
もう当時のあの心地よかった部屋はない。自作の本棚は実家の自室には入らず捨てたので、大量の本はまだダンボールの中だ。細々したものもあちこちに散らばっていてまとまりがない。
いろんな物をたくさん捨てた。いろんなものがまだダンボールに収められていて飾られていない。
それでも少しだけは、とAlexaを設置してトルコランプに繋ぐ。カモミールのお香を炊いてベッドを整え、狭い部屋の狭いくつろぎスペースをなんとかして作った。
あのトルコランプがぼんやり輝く一人暮らしの部屋を出て2年。
今でも干したての布団の中でまだ開けてないダンボールを眺めながらあの部屋に思いを馳せている。