見出し画像

道玄坂のふたつの列

約10年前、2014年のお話…..

「渋谷って人多いなあ…」

そうつぶやきながら、僕は人生初のライブハウスへ向かっていた。目的地は道玄坂を上ったところにあるO-EAST。人気絶頂のBABYMETALのライブだ。ライブハウスなんて来たこともないし、そもそもヘビーメタルの"お約束"なんて全く知らない。モッシュ?クラウドサーフ?それどこの国の料理?みたいな感じだ。

とはいえ、期待に胸を躍らせながら道玄坂を黙々と上っていく。坂を上りきるとO-EASTが見えるはず、と思ったんだけど、目の前には行列。しかも、そこそこ長い。これはきっとにBABYMETAL待ちだろうと思い、早速その列に加わった。

10分後…

なんか…違和感を感じる。BABYMETALって確かヘビーメタルだよね?その割に、僕の周りはカラフルな服を着た女の子ばかり。しかも、思ったほど人が多くない。静かに並んでいるけど、どことなく居心地が悪い。

「いや、でも初めてだから。これがライブハウスの作法なんだろう」なんて自分に言い聞かせ、スマホをいじって気を紛らわせていた。

と、その時。

坂の上から一人の青年が全速力で駆け下りてきた。僕の後ろに並んでいた男の肩をバシッと叩く。青年は息も切れ切れに、驚くべき言葉を放った。

「ここ、AKBだから!」

……。

え?何ですって?

そう、僕はまったく別の列に並んでいたのだ。焦りと羞恥心で心の中はぐちゃぐちゃ。でも、そんなの顔に出してはいけない。大人な振る舞いが求められるのだ。僕は何食わぬ顔で列をスッと離れ、坂道をさらに上りはじめた。

坂の頂上に到着した瞬間、そこにはまさに"お祭り"が広がっていた。O-EASTの前は、黒いTシャツを着た男性たちでひしめきあっていた。全員、BABYMETALロゴの入ったTシャツを着て、まるで戦闘準備が完了したメタル軍団だ。O-EAST周辺が黒く染まっている。これだ、これだよBABYMETALって!

「こっちが正解か…!」

ライブはそれはもう、すごかった。内臓に響く爆音とBABYMETALのパフォーマンス、熱狂の渦に僕もすぐに引き込まれていった。初めてのモッシュにも巻き込まれ、気づけば腕を突き上げ、声を張り上げていた….。

…..でも、今でもあのライブの話を誰かにすると、最初に思い出すのは彼女たちの素晴らしさではなく、AKBの列に並んでいた件だ。あの時の焦りと恥ずかしさといったらもうねぇ....。


いいなと思ったら応援しよう!