HIPHOP歴史的ビートメイカー
やっぱり80年代後半から90年代がHIPHOPの面白さが詰まっていた時期だと思う。
今回はトラックメイカーに焦点を当てるとして、先ず思い起こすのはマーリー・マール(Marley Marl)。サンプリングの手法を昇華させて定着させた人ではないかな。DJの技法や感覚を楽曲作りとして発展・完成させた第一人者と思う。Big Daddy Kane"Set it off" "Raw"、MC Shan"The Bridge"、ほかBiz Markie、Roxanne Shanteなどのジュース・クルーの楽曲は、今聴いてもハードで格好良い。あと、L.L Cool J"Mama said knock you out"のスライ使いは本当に素晴らしいアイデア。
同時期で言えばパブリック・エナミー(Public Enemy =PE)を手掛けたボム・スクワッド(The Bomb Squad)も外せない。PEの作品が発表される度にどんどん凄くなって、初めて聴いた時はごちゃごちゃしている印象があったけれど、いま聴くと意外とシンプルでありながら細かいサンプルを幾つも重ねたり組み合わせたりしていて、コラージュアートとして凄い域に達していたなと思う。
サンプリング技術のアップデートという点で、やはりDJ Premierは革新的だった。著作権の問題から発したアイデアで、あるサンプルをぶつ切りにして再構成するチョップ技は、初めて知った時はかなり新鮮な驚きがあった。分かりやすい例としてジェルー・ザ・ダマジャ(Jeru The Damaja)の"Ya Playin' Yaself"は元ネタを参照するとより面白い。ほか、スクラッチのシンプルで音楽的な入れ方といい、間違いなくHIPHOPの歴史上で欠かすことのできないビートメイカー。
そして、RZA。Wu-tang clanのリーダー。ラッパーとしても凄いセンスなのだけれど、彼のトラックもやはり革新性が高かった。独特のザラつき方や時に歪なビートは真にオリジナル。コラージュ感覚も独特で、書きながら個人的にパっと思い出したのはレイクウォンRaekwonの"Verbal Intercourse"。レコードのセリフの部分を切ってループさせてるのだが、これがこの曲に深い味わいを与えている。それと、ボーカルが入る曲も、売れ線のモノみたいなただ単にサビで歌うとかじゃなくて、捻りがあったり、やはり歪さや不穏を感じるような雰囲気に作ってるとこも素晴らしい(Raekwonで思い出した例:"Glaciers of Ice")。
近年、日本のバンド界隈でもやたらとJ Dillaって言うけど(いや、僕も好きだけど)、そこまできたらRZAとかも聴いてみたら?って思う。そういう所まで行かないとただの受け売りになっちゃうような。
過小評価されてると思ってるのが、Easy Mo Bee(イージー・モー・ビー)。
マイルス・デイビスの最後のアルバム('92)でプロデュースしてる件について、ある本で、もし彼ではなくプレミアかQ-Tipだったら・・・と書いてあったけれど、後の90年代中盤以降におけるEasy Mo Bee作品の評価とマイルスの先見の明をちゃんと評価するべきだと思った。
ノイズを含んだ重いファンクを感じるビート、DJ的なドラムの抜きでのノリの出し方など、The Notorious B.I.G.やCraig Mack、Busta Rhymesを始めとして、数々の名ビートを生み出している。マイクリレーの"The Points"のビートなどは、個人的にずっと聴いていられるほど好き。
ほか、Q-Tip、Pete Rock、Da Beatminerz、etc...この時代には書き切れないほど、オリジナルで素晴らしいプロデューサー/トラックメイカーがいる。
90年代後半、いよいよHIPHOPがメインストリームに取り込まれつつあった中(その中にも良いモノは勿論あるけれど)、反動的に新たなアンダーグラウンドシーンが生まれた訳だが、なぜリスナーが二極化したのか僕には疑問があったし、そうした風潮に不信感を僕は持った・・・
それはそうと、アンダーグラウンドでHIPHOPに活気をもたらしたのは、EL-P(Company Flow)だと思う。
彼らのアルバム"Funcrusher Plus"('97)、先人の作り上げたHIPHOPを継承しつつ、ローファイ且つ不穏な空気感が満載のトラック群は、ラップのポエトリーリーディングの要素を含んだ言葉の詰め込み方も相まって、革命的であった。その後、EL-Pはトラックメイカーとしての幅を(批判を恐れず)広げながら、現在も活躍している。
ほか、Freestyle Fellowship、Living Legends、Anticonなど、あらゆる場で様々なオリジナリティー溢れるットラックメイカー(もちろんMCも)が現れ、2000年代までのHIPHOPシーンを発展させていった。
アンダーグラウンドにおいては、白人や色んな人種が革新的シーンの中心にいたと思う。そもそもHIPHOPは色んなマイノリティーで作り上げてきたので(黒人が中心ではあっても)、ブラックカルチャーという側面だけでは語れないと思うけれど。
アンダーグラウンドヒップホップは、一般的(メインストリームしか聴かないヒップホップリスナー含む)には浸透していないものの、数々のクラシックを生み出した。
今、たまたま思い出した曲↓(Buck65"Bandits"LIVE)。
正直、いまのHIPHOPはポップスの一部というか、ある意味で音楽的になりすぎたように思う。それはそれで良い面もあるのだけれど。
と言うより、(特にギャングスタ的なイメージを使って)商売人/エリート層に利用された印象がある。
80年代までは、あれは音楽じゃないって発言をしていた著名人も数多くいた訳で、そうした部分が拡張されていけば面白いかなと個人的には思います。