小説『iPhuck 10』ヴィクトル・ペレーヴィン著
ヴィクトル・ペレーヴィン
1962年生まれ。現代ロシアを代表する作家。『ジェネレーション〈P〉』『汝はTなり』『チャパーエフと空虚』『虫の生活』などが訳されている。
「iPhuck10」単行本 46変形 480ページ
ヴィクトル・ペレーヴィン 著 / 東海 晃久 訳
性交を禁じられた近未来、謎の女にレンタルされたアルゴリズムを主人公に壮大な奇想と哲学が渦巻く暗黒のビジョンをひらくベールイ賞受賞の現代ロシア文学最大の衝撃作。
(河出書房より)
主人公が、先ず人間ではなくて、刑事文学アルゴリズムで、警察として事件を解明しながら、それに関しての小説を執筆する。人工知能なので、人間のように身体や感情は持たないが、膨大な語彙・パターンを取り込んでいる為、殆ど人間と同じように語る事ができる。そのアルゴリズムの一人称の形で話が進んでいく。
今より少し先の未来の設定。
ストーリーは、主人公が美術史家・キュレーターの女性にレンタルされて、ある美術品の調査を手伝わされるのだが、そこにはある陰謀が隠されていて・・・というもの。
人によっては、長編だし難しい部分もあるので読み難いかもしれないけれど、話の展開はとても面白く、あらゆる箇所に仕掛けがあって、読み始めると止まらなくなる魅力があった。
芸術とは一体なんだろうか?なにを持って芸術と看做されるのか・・、
また後半は哲学の話になっていて、人間の生について改めて考えさせられた。
そもそも人間とは何なのか?意識とは?
それと、これは2017年に発表された小説であるが、その後の世の中の展開そのもので(世界的なウイルスが流行した後の世界のお話である。人々は分断・分類され、肉体を介した性交渉は禁じられている)、この先もこうなるんじゃないかと思わされる。完璧な監視資本主義(ショシャナ・ズボフが名付けたもので、本小説内でもこの言葉は登場する)世界での話なのだが、実際に、2020年の出来事以降に急速にこの世界に近付きつつある。
ストーリーに組み込まれるユーモアを交えた小咄(これがまた面白い)からは、社会/世界に対する鋭い視線があり、まさに今起こっている事に対する正確な考察・類推をするにあたって、大いに助けにもなるんじゃないか、とも思う。
要するに、SFや探偵小説のダイナミクスを備えた現代批評小説なのだ。
興味のある方は読んでみてほしい。
ヴィクトル・ペレーヴィンを知ったきっかけは、僕の同級生が長編『チャパーエフと空虚』を翻訳したから。これも哲学的な深さと独特なユーモア(ここは重要)が奇妙に絡まった読み応えのある大傑作で、とても面白い。彼の翻訳でもう一冊『宇宙飛行士オモン・ラー』、ほか『虫の生活』『眠れ』『寝台特急 黄色い矢』『ジェネレーション<P>』と読んだのだが、個人的にはどれも面白かった。
彼の小説を読むと、頭が凄く活発に動き出すような感覚になる。
ちなみに、僕の幾つかの曲の歌詞で(特に最近作の『骸骨の饗宴』で)、ペレーヴィンの小説から引用、または影響から書いた部分がある。
https://linkco.re/mZ6xABtU
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