厚生労働省対策推進本部クラスター対策班の押谷仁教授による「COVID-19への対策の概念」を読んで感じた危機感
クラスター対策研修会(2020年3月29日)
https://www.jsph.jp/covid/menu1/index.html
厚労省のTwitterアカウントでアナウンスされていた資料「COVID-19への対策の概念」を読みました。理屈は理解できました。もっと早く読みたかったです。
そして危機感は増しました。成功条件を満たせなくなっています。以下、後述します。
クラスタ班の対策の成功条件は満たせない
条件「クラスタの可視化」
例えば「クラスタの可視化」(P54)。これを行うには感染者にヒアリングして、立ち寄り先をあたってといった泥臭い作業が必要です。この作業が「クラスタ・サーベイランス」です。昨日の専門家会議の会見では「サーベイ要員が枯渇・疲弊している」ので至急手当が必要とのことでした。
今日も新たな経路不明感染者が東京都だけで30名以上確認されました。人的資源は簡単に調達できません。
ICT利活用によるアシストも含まれていましたがプライバシーも絡むのでそんな簡単に合意形成するのは無理でしょう。(この2ヶ月、何かできたことはなかったのでしょうか…。)
条件「(市民の)行動変更」
最後のページ「より厳しい第2波を乗り切るために必要な条件」で「行動変容、行動変容、行動変容」と繰り返しています。
市民が理性的な対応をとってくれることを期待していますが、へそ曲がりが一定数いる(京大社会学者の研究では15~20%とのこと/出典問い合わせ中)ので、すべての人が行動変容できるはずがありません。
4/3追記 西浦教授が「人の接触を8割減にできれば減少に転じる。欧米並みの外出規制が必要」と具体的な指標と提言がありました。とは言え、都営交通の利用者数はこれだけ危機感が高まってもせいぜい20%減。これらの人は「危機感が無い人、自覚がない人」ではなく「やむを得ず」通勤しているだけ。補償なしでは難しいのではないでしょうか。専門家は役割を終えました。政治が責任を果たす時です。
「欧米に近い外出制限を」 北大教授、感染者試算で提言
さらにクラスタ班にとって不運なことに、国民の40%を占める政権不支持者は、体制側から出るメッセージに懐疑的(「何か隠しているのではないか?」「利権がらみではないか?」)になっているので、素直にうけとめづらい。さらに自粛を持続するための経済的保証が満足いくものではなく、外国との格差が可視化されてしまっている。これだけ有事で不支持率が40%を超えるのは尋常ではありません。
どう楽観的に考えても「必要条件」を満たすことはできません。
不快に感じたこと
ちょっと脱線します。「市民の行動変容」に期待する(性善説)のは構いません。問題の特性上、当然です。
ただ、その一方でさんざん議論になって市民を分断してきた「PCR検査の抑制」。これを積極的に実施しなかった理由として以下の記述があります。(P48)
『病院や検査センターに多くの人が密集し、一部の人は興奮して大声をあげるような状況になるのは容易に想像できる。』
侮辱と受け取る人も少なくないのではないでしょうか。これは性悪説です。
これまでずっと信用してこなかった市民が、なぜいきなり行動変容してくれると信じることができるのか?私には理解できません。ご都合主義と言われても仕方がない…。
まとめ
残念ですがクラスタ対策の成功条件が満たされるのは相当に難しそうです。
見えざる幸運(BCG効果とか?日本人抗体もってるとか?暖かくなると…)に恵まれることを祈りつつ、イタリア・スペイン・アメリカでおきてしまったような事態を目のあたりにする心の準備をするしかありません。
今がピークであることを祈るばかりです。
都市部に住む親族には危機感を共有して具体的な行動を提案します。迷うところですが友達にも参考情報として提示しようと思います。
悔やまれること
それにしても、クラスタ理論は、客観的にみて脆弱な前提に基づいた理論のように思えます。なぜ、最高の頭脳をもつチームがそのような問題を指摘して手当できなかったのか?また破綻が見えている今でも軌道修正できずにいるのか。このあたりは落ち着いたら第三者が検証してほしいと思います。もちろん犯人探しではなく次の危機に備えるためにです。
おそらく以下が足かせになったのかなと思います。
・SARSの成功体験・・・SARSは感染者の大半が発症するので追跡が容易だった。COVID-19は無症状感染者が多数で追跡は不可能
・初期の公共放送での発言・・・「中国の対策~都市封鎖~は中世のやり方。日本はスマートに」という発言の正当性を維持したかった
上記は戦略レベルです。戦術レベルではチームに以下の人材がいなかったのではないかと思います。
・ICT専門家・・・韓国ではICT活用して効果を出しています
・プロジェクトマネジメントの専門家(もしくはコーチ)
優れたプロジェクトマネージャは、専門家が陥りやすい罠(平時の制約で状況判断する/変化を厭う)を防いで、専門家が働きやすい環境を整え、最高のパフォーマンスを引き出すことができます。この考察は「コロナウイルス対応にプロジェクトマネジメントの知見を活かせないか考察してみた」にまとめたので興味があれば。
そして、本文でも記載していますが「信頼のないトップ」が政権の座にあるため体制側から発信されるメッセージは多数の国民に伝わりづらいことでしょうか。有事にも関わらず不支持率が40%に達しているのは尋常ではありません。
追記
4月1日に北浦教授(クラスタ対策班の中心メンバーの一人)が既にクラスタ対策の継続が困難で感染爆発を迎えることの示唆を含んだツイートを発信しているので引用しておきます。