お医者さんと少女
「お嬢さん、今日はどこが悪いの?」
「頭が悪いの」
「帰りなさい」
「冗談だよ。ちょっと熱っぽいの」
「では、点滴を打ちましょう」
「うん、よろしく」
◆◇◆◇◆
「お嬢さん、今日はどこが悪いの?」
「頭が悪いの」
「帰りたまえ」
「冗談だよ」
「頭の悪い子は嫌いだよ」
「お医者さんは頭がいいの?」
「君よりはね」
◆◇◆◇◆
「ねえ、お医者さん」
「なんだね」
「お医者さんはなんで頭が良いの?」
「それは命を救うお仕事をするからさ」
「じゃあ頭が良くなったらお医者さんみたいになれるの?」
「試してみるかい?」
◆◇◆◇◆
「お嬢さん、今日はどこが悪いの?」
「今日は私じゃないの」
「おや、その黒猫は?」
「拾ったの。この子、辛そう」
「ああこれは駄目だね、もう死んでしまっているよ」
「救えないの?」
「出来なくはないけど、出来ないね」
「そう、そうなんだ」
◇◇◇◇◇
「お嬢さん、今日はどこが悪いの?」
「心が痛い」
「私の専門外だね」
「お医者さん」
「なんだい」
「どうしてあの子を救えないの?」
「お医者さんはね、救うために生きなくてはいけないんだ」
「うん」
「命の特効薬は命だ。これで分かっただろう」
「うん、分かった」
「良い子だ」
◇◇◇◇◇
「今日は旅人さん」
「今日は。命のお薬を下さい」
「いいですよ。この薬の副作用はご存知かい?」
「命、ですよね」
「分かっているのならいいんです。それではどうぞ」
「有難う」
「一つ良いかい?誰に使うんだい?」
「さあ」
「さあ?」
「僕が使うわけではないので分かりません」
◇◇◆◆◆
「お嬢さん、今日はどこが悪いの?」
「頭が悪いの」
「帰りなさい」
「冗談だよ。ちょっと熱っぽいの。だから、点滴を打って」
「これは点滴を打っても治らないよ」
「知っているよ」
「にゃあ」
「うふふ」
「君は本当に頭が悪いね」
「でも、救えたよ」
「にゃあ」
「救えたんだよ」
◇◆◆◆◆
「お嬢さん、今日はどこが悪いの」
「にゃあ」
「帰りなさい」
「にゃあ」
「ここに」
「にゃあ」
「帰ってきなさい」
◆◆◆◆◆
「にゃあ。にゃあ。にゃあ」
「ただいま」
「にゃあ」