黒い魚

ここは海の底。私は海の底に沈んだモノ。海の底には色々な魚がいて、お話をすることが出来る。

一番深いところには黒くて大きなお魚が住んでいて、何も知らない私に色々な話をしてくれる。頭についたランタンを揺らしながら色々な話をしてくれる。

あるとき、海の上の世界の話をしてくれた。海の上には沢山の不幸で出来た島らしく、此処には陸で生きていくことに疲れた者達がよく流れてくるようだ。黒い魚の下には沢山の骨が落ちていた。彼は此処にいればずっと幸せでいれると言った。此処にいれば辛い思いをしなくていいと言った。

ある魚は私に言った。
「黒い魚は嘘つきだ。僕はあの魚が生きた人間を丸呑みにしている姿を見たことがある。君も食べられてしまう前に逃げたほうがいい」

またある魚は私にこう言った。
「あの魚は正しいが間違ってもいる。海であろうが陸地であろうが幸せで有り続けられることなんて不可能なのだ」

私は陸に帰ることにした。元々私は陸の生き物であるのだから陸に帰るべきだと思ったのです。黒い魚は暫く黙った後、「ではこの道を通っていきなさい。もう二度と会うことがないように祈ります」と私を黒い海藻の道へと案内しました。

海藻は私を海の底へと戻そうと引っ張ります。私は海藻を引きちぎりながら陸へと向かいます。最後の海藻は先っぽが指のように5本に割れていました。ちぎって捨てると、まるでばいばいと手を振っているかのように海藻が揺れました。そして、海の底へとひらひらと落ちていきました。

女が目を覚ますと、スーツを着た状態で砂浜に倒れていました。女の腹部は膨れ、開いた口からぶつぶつとした出来物が見えます。足の踵は茶色く爛れ、胸ポケットには女が書いたであろう手紙が入っている白い封筒が入っていました。

女はこのあとどうしたのでしょう。それは私にも分かりません。

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