私の心に変哲のある変哲のない日常
私という人間は二人いる。
一人は好きなことを好きなだけやるワタシ。もう一人はもう片方が好きなことをするためにあらゆるものを我慢してやりたくないことをやるワタシ。
分かりにくいから前者をA、後者をBとしよう。
私達は仕事場へ向かう道中で入れ替わることになっている。そう、これはそういうルールなのだ。
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Bは楽しそうなAを見て、「羨ましい」と愚痴を零しながら入れ替わる。仕事が終わって疲れた顔をしたBを見て、「よく働くねぇ」とAはBを小馬鹿にしながら入れ替わる。
その繰り返し、ずっとその繰り返しだ。
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だが、Bにも限界はあった。
「だって、私だって楽になりたい」
BがAに抱きついた。私達の中で何かがカチリと音を立てた。このとき、私達は知ってしまったのだ。私達の役割はこんなにも簡単に入れ替わってしまうのだと。
片方はみるみるうちに青くなり、片方はみるみるうちに口角がつり上がっていった。
「冗談じゃない」
AがBを強引に、乱暴に突き放す。びりびりびり。まるで紙を破るような、まるでガムテープを剥がすような音がした。
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スマホに夢中になっていた私は我に返り、会社の最寄り駅に降りる。乗っていた電車の方を振り返る。青い顔をした私達が「ばいばい」と手を振った。
なんのこともない、いつもの朝だった。