考え続けられない生き物
「何をしてるんですか」
「今回の結果を記入しているところさ」
「また変な実験ですか?」
「変なとは失礼な。これも大事なことだよ」
「この生き物がやってるやつってなんですか?」
「これはゲームってやつだよ」
「『ゲーム』は知っていますよ。でも、自分が知っているゲームとはなんか違う気がします」
「そうか。君はまだ木のブロックを積み上げたり、同じ数字のカードを抜いていくするもの以外知らなかったか。このゲームは画面に映っているキャラクターをこの端末で動かして遊ぶものなんだ」
「面白そうですね」
「面白いよ。中にはゲームに夢中になって、生きるのに必要なことを忘れてしまうものも出てしまうぐらいだ」
「それはちょっと怖いですね」
「この生き物は限度を知るのが苦手だから、こういう刺激の強いものを与えすぎてしまうと駄目になってしまうことが多いんだ」
「成程。あ、良い事思いつきました。先生、『考えること』をいっぱいさせてみたらどうですか? この生き物は頭を使って考えて考えて、考えた分だけ賢くなると聞きました。新しい進化が望めるかもしれませんよ?」
「それはちょっと難しいかもしれないなぁ」
「どうしてですか?」
「実は今書いているものが、今まさに君が言ったやつの結果なんだよ」
「そうだったんですね。結果はどうでしたか?」
「その生き物は今朝、首を吊って死んでいたよ」
「どうしてそんなことに」
「君が言った通り、確かに頭は良くなった。でも、反比例するかのように健康面と精神面が大幅に落ちこんでいた。原因は考えることがやめられないことによって生じたストレスが睡眠不足を招き、体調不良を引き起こした。寝ている時でさえ考え続けているのだから心が休まらなかったのだろう」
「だから逃避したわけだ、命ごとね」
「考え続けることもストレスですか。難儀な生き物ですね」
「人間という生き物は私達が思っている以上に不器用なのかもしれないね。そこが愛らしいのだけれども」