問3「夢とはなにか」について答えよ
僕は何処にでもいる学生だ。学校に通い、友達と話し、学校が終われば家に帰り、家族と話し、眠る。
そう、何処にでもいるような学生だ。だけど、僕の一日はまだ終わらない。
「瞼の裏の世界」が、僕を待っているからだ。
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白髪に赤い双眸、背中にはコウモリの翼の形をした大きな白い翼が生えている。ヘッドホン付きのヘッドマウントディスプレイをセットすると起動音と共に手の先が白く、そして鋭利な剣と変貌する。足の先も同様に白く、そして鷲のような形状になっていく。
「さて、お遊戯の時間だ」
僕は近未来のような世界を飛び回り、そして踊るように華麗に標的である人間を串刺しにしていく。人間が悲鳴をあげる。僕に向かって発砲する者もいたっけなぁ。
「あっは」
僕は可愛く笑ってみせ、蹴り一つで体を真っ二つにした。女の甲高い悲鳴が上がる。
「いいねいいね!もっと俺に聞かせてよ!」
下半身をなくした男を目の前に投げて見せると、女の周りにいた人間も悲鳴をあげ始めた。
ああ!夢というのはなんて素晴らしいものか!現実ではなんの変哲もない学生がバケモノになって人間を襲うことが出来るんだから。ああ!これほど楽しいゲームはない!
「もっとだ!俺に可愛い声を聞かせろ人間ども!」
叫ぶ化物の背中に「そうかい、ならお望み通りに」誰かが銃口を向け、撃った。
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小さな悲鳴と共に倒れる化物。倒れた化物はみるみるうちに小さくなっていき、黒い髪に華奢な体、八の字眉をした大人しそうな中学生になっていった。大きく開かれた二つの目は瞳孔が開き、小刻みに震えている。
「上手くいきましたね」
「一週間は眠れなくなるくらい強力なやつをぶち込んだからな」
「しかし、化物の正体が少年だなんて」
「おいら達の不可能は通用しねぇよ。ったく、廃棄物は処分するなりなんなり対策をして貰いたいもんだね」
少女もしくは少年は銃を相方であろう男に投げ渡し、ポケットから白い封筒を取り出した。中には色鮮やかな金平糖が入っており、それをざらざらと口に流し込むと、ごりごりと音を立てながら食べ始めた。
「彼が夢から醒める日は来るのでしょうかね」
男の問いに少女もしくは少年が「ないだろうな」と、即答する。
「あのガキからしたらむしろ今からが夢の始まりなんじゃないか?退屈で平凡な「普通の学生」の生活が待っているんだからな。ははは、とびっきりの悪夢だろうな」
少年もしくは少女は意地悪そうにニィと男に笑ってみせた。
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僕は何処にでもいる学生だ。学校に通い、友達と話し、学校が終われば家に帰り、家族と話し、眠る。他の人となんも変わらない、退屈なほどに恐ろしいくらい変わらない。ずっと同じものを見続けている悪夢のような毎日を過ごすだけの学生。これからも、気が狂うのではないかと思えるくらいにずっと。
そうーーー、僕はただの学生にすぎないのだ。