私の中に潜む黒い制服の悪魔
私は先生をしている。多くの子供達を指導し、立派な高校生予備軍として外の世界に送り出してきた。まあそれなりに良い先生を演じてきたつもりだ。
だが、中には教室から出れない子供がいた。今日も放課後、一人の生徒が教室に残っていた。
「まさや君、まだ帰らないのかい」
彼は何も言わない。
「早く帰らないと真っ暗になっちゃうよ」
彼の背中に淡々と私は言葉を投げかける。鏡に彼の表情は映らない。スピーカーからノイズ混じりの少年の声が語りかける。
「先生、これは僕のちょっとした復讐です」
「実はね、先生なら信じてもいいかなって思ってたんですよ」
「でも、やっぱり駄目でした」
「先生は結局のところ他人だし、僕の大嫌いな大人の一人でした。先生、本当は僕の気持ちなんて分かっていなかったんでしょ?」
「大人は嫌いです。約束を守れ守れと僕達には言う癖に、そっちが守ってくれた試しがないじゃないですか」
目の前の少年が歩く。ベランダまで足を運ぶ彼をただじっと見つめる。彼の目の前に柵はなかった。彼の体が倒れ、ベランダから見える景色へと消えていく。べちゃという軽い音がした。
「さよなら、嘘つき先生」
私はよろめきながら机に腰掛ける。首をあげる気力さえない。全ては過ぎたことであり、幻と分かってはいた。
私の何気ない一言が彼を深く傷付け、彼は私に小さな復讐を成し遂げた。その復讐は先生をやめさせられた今でも続いている。今の私は学校に不法侵入した何処にでもいる不審者だ。
「…なら、教えてくれよ。先生はどうすればよかったんだ」
黒い制服の悪魔は放課後の静寂の中、私の頭の中で笑うのであった。