協調性
初めまして、この度は貴方様のガイドをさせて頂く者です。此処は比較的治安がよく、犯罪は年に両手の指の数で済む程度しかありません。警備隊がよく暇だとぼやいております。
此処は教育に力を入れてまして、幼少期から協調性と責任感を持つ心を育めるようにカリキュラムを組んでおります。おかげでこの国では若年無業者が10年間連続でゼロです。素晴らしいと思いませんか?
あとですね、この国では人々の絆がとても強く、一致団結して何かを取り組ませれば天下一だと思っております。
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おや、あちらの方で何か騒がしいですね。あー、あなた様は運が悪い。野蛮人がいるようですね。
「明日は予測不能の大雨が降るらしいじゃないか。国の近くの川が決壊したらこの国は終わりだ。仕事などしている場合じゃないだろ!」
やれやれ。たまにいるんですよ、自分が仕事をしたくないからってこういうふうに駄々をこねる馬鹿が。でも、ご安心ください。
ふふふ、見ていてください。
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「雨ごときで休めるかよ、社会人舐めるな」
「仕事をしない大人なんて子供の教育上悪い、働け」
「お前だけが辛いわけじゃないんだよ、周りだって頑張ってるんだ」
「いいから働け、無能」
「でも、このままだと」
無数の冷たい視線が男に突き刺さる。男は口を閉じ、持ち場に戻っていった。
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見ましたか。見ましたよね。
みんなのおかげで彼の過ちを正せたのです。雨ごときで仕事を休むなんて愚かな行為、許される訳ありません。でも、この国では血を一切流すことなく間違ったことを正すことが出来るのです。
え? 川ですか?
ありますけど、雨ごときで潰れる国ではありませんよ。
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もしも、彼の言っていることが正しかったら?
そんなことはありえませんよ。
だって、その意見に誰も賛同しないということはそれは間違っていること以外にありえないのですから。
何故かって?
そうですね、此処の住人になったら嫌でも分かると思いますが、数に敵うものなんて何もないんですよ。