鈴星鞠子の夢
鈴星鞠子は平凡な親から生まれ、平凡な家で育った女の子だった。「自分は普通の人間ではない」と気付いたのは、彼女が5歳になった頃だった。
死んだはずの祖母を生き返らせてしまったのだ。大好きなおばあちゃんの死を受け入れられず、その事実そのものをひっくり返してしまった。恐ろしい魔法だった。生き返った祖母は多くの命を犠牲にバケモノとして生み出され、捧げられた命はただの無機質な人形と化した。
彼女は自分の力の恐ろしさを知った。やってはいけないことをしてしまったと気付いてしまった。彼女はこの過ちを二度と繰り返さないために人との関わりを極力避けてきた。だが、彼女の力は彼女の思いとは裏腹に強くなる一方であった。
彼女の言葉は誠になり、彼女が作り出したものは意志を持った未熟なバケモノと化した。大きくなった彼女には分かっていた。このままでは自分の中にある魔力に食われてしまうことを。
中学生になった彼女は決意を胸に屋上へと向かった。鉄格子の外に身を投げた彼女は笑った。彼女は人間という器を捨てたのだ。大きな器を手に入れ、魔力を自分の中で支配出来るようになった彼女であったが、その器はとんでもなく貪欲であった。
生前の彼女が残した生徒手帳。そこには彼女の「夢」や「望み」が書かれていた。彼女の願い、それは叶うはずのない恐ろしい夢。
「普通の女の子になりたかった」
魔女である自分が普通の女の子になるために用意する教室、またの名は鈴星鞠子の生贄。かつて彼女が過ごした二年四組の教室、またの名は鈴星鞠子の夢。
それは世界を変えてしまうような悪夢の始まりだった。