ハローグッバイ-Hello,hello-
彼女は「私の夢は宇宙人になることなんだ」と、僕に言った。
彼女はわらべうたが好きで、よく歌っていた。
アヴェマリアも好きで、よく歌っていた。
彼女は「神様とお友達になりたい」とも言っていた。
僕はそんなことは無理だと分かっていながら薄情なことを言った。
「そうか、頑張って」
彼女は大きく「うん」とうなづいた。
夕日が綺麗な放課後、彼女は僕を校舎裏に呼び出した。
「友達ができたんだ」と、彼女は空を指差し、そして笑った。
僕は心にもないことを言った。
「よかったね」
彼女は「うん」とうなづいた。
彼女は言った。
「さうよなら、だすいき」
謎の言葉を残し、ぱっと僕の目の前から彼女は消えた。
まるで彼女なんか最初からいなかったようにそれはあっさりと。
ほんと、ほんの一瞬の出来事だった。
彼女はきっと宇宙人になれる方法を見つけたのだろう。
親友の夢が、叶いもしない夢が叶ったのだ。
きっと嘘でも喜んであげたほうがいいに決まってる。
だけど、ちっとも祝う気になんかなれなかった。
僕は思った。
10秒前に戻って、彼女を僕の手で殺せばよかったなと。
だけど、きっとそれはもう叶わない。
一人の学生が自殺した。
理由は分からなかった。
いじめが云々と騒がれているようだが、そんなものなど存在しなかった。
彼は遺書を残していた。
その遺書にはこう書かれていた。
「馬鹿でどうしようもない阿呆なあの子ともう一度話がしたいんだ」
「久しぶり、元気だった?」
彼女が言った。
あいもかわらず、平和呆けしたような間抜け面だった。
僕は嬉しくて、腹立たしくて、思いっきり舌打ちをしてやった。
「図に乗りすぎだ、馬鹿野郎」
彼女は苦笑いを浮かべた。
「ごめんね、そんなに心配してくれるなんて思わなかったんだ」
僕は彼女の額に思いっきりデコピンを食らわせた。
痛い痛いと悶えながらも、彼女は嬉しそうに足をジタバタさせた。
「愛されてるね、私。愛されてたんだね、私」
彼女は鼻水と涙を垂らし、真っ赤な目を擦りながら、えへへと笑った。
馬鹿な奴だ、どうしようもないくらいの大馬鹿だ。
「ばぁか」
僕はもう一度、彼女の泣きっ面にデコピンを食らわせた。