干からびた蛙と僕
「春は出会いの季節にであり、別れの季節でもある」
嫌でも耳にし、目にする言葉。ああ春とはなんと素晴らしい季節だろうか。落ちた桜の花びらをスニーカの底で茶色く汚していく。自分の中にあったちょっとした悪意を堪能した。
土と石と砂で出来た道から離れ、便利で味気のない近代的な道へと歩みを進める。僕はそこで干からびたアレと出会った。
春の温かい日差しで温められたアスファルトの道に体のものをぶちまけたアレ。梅雨の時期にげろげろと叫く緑色の跳ねるアレだ。車に轢かれたか、それとも子どもの中にある悪の好奇心によって潰されたか。
春を味わえずに死んだ可哀想な蛙。流石に僕も同情するよ。
そこらへんに生えていた青々とした大きな葉をぶちりとちぎり、蛙の上に乗せた。自己満足、だがそれがいい。
どうせ蟻が群がってきて、時間をかけてバラバラにされて、何もなかったことにされるのだろう。命なんか所詮そんなものだ。僕は花粉症の目をがりがりと掻きながら大きく欠伸をした。
葉っぱで隠された蛙を見つめる。僕の目の前には喪失がある。喪失の春がある。出会いとも別れとも違う、特別なようで特別なんかじゃない春。
ははは、面白い。
「次の春は楽しめるといいね」
僕は他人事のように笑いながら死んだ蛙に手を振った。
頬を掠めた春の風は少し冷たかった。