お金と、僕と、色々。
僕と、お父さんと、お金
僕が5歳の頃、お父さんが言いました。
「お金はばっちいから触るな」と。
僕は今、千円札を一枚持っています。両手を使って持っています。
僕の持っているお金は皴一つない綺麗なお札です。
お父さんがあの頃持っていた一万円札もとても綺麗なお札でした。
お父さん、汚いのはきっと僕達の方なのでしょう。
僕と、妹と、お金
「金塊はチョコレートの味がするの」
僕の妹はチョコレートが大好きだ。
金の包装紙に包まれたチョコレート。
妹はチョコレートを積み木のように並べた。
チョコレートの山を眺める妹はうっとりした顔をしていた。
僕は昔、妹に玩具の金貨をあげたことがある。
妹は金貨を齧り、そして、ごみ箱に金貨を投げ捨てた。
「チョコレートの味がしない金貨に価値はないわ」
僕と、兄さんと、お金
「私はこの紙切れに生かされている」
兄さんが、そんなこと言っていたような気がする。
兄さんはお金が大好きだった。
僕らの財布から、毎日一枚、お金をくすねるほど大好きだった。
兄の部屋にはお札のお城がある。
格好良かった。
先日、兄さんが腕一本だけになって帰ってきたと、お母さんから聞いた。
兄さんの手には一万円札が強く握られていた。
僕と、お金と、バニラアイス
僕は台所で味噌汁を作るお母さんに聞きました。
「どうして、兄さんは死んでしまったの?」
お母さんは言いました。
「お金に聞いてみなさい」
僕はお金に聞きました。
「なんで兄さんを助けてくれないかったの?」
「君は、兄さんに愛されていたじゃないか」
お金は何も答えない。
「冷たい奴だ。同じ冷たい奴ならアイスの方がまだいい」
僕は、兄さんが握り締めていた一万円札でバニラアイスを買った。
美味しかった。