数の話
例えば僕が数を数えるとしよう。
1、2、3、4、5という具合にね。
そのとき、僕は間違えずにどこまで言えるだろう。
幼稚園児の頃の僕にとって、数の限界は10だった。
小学校になって1000が限界になった。
中学生になって10000以上の数字があることを知った。
僕はいつの間にか数字を最後まで言えなくなっていた。
僕は数を数えるのをやめた。
それからーーー、僕は歳をとった。
祖母が死に、祖父が死に、父さんも死に、母さんも死んだ。
僕の前を歩いていた偉い人達がいなくなり、僕はとても暇になった。
だから、限界まで数えてみることにした。
僕は数を数えた。
一個一個、正確に、噛み締めるように口に出した。
100を越えたあたりで喉がからからになった。
結果、僕は126まで数えた。
こんなに言えるとは、と自分に感心した。
「随分と長生きをしてしまった」
僕は横になった。
126
そのちっぽけなその数字がとても愛おしかった。。
数字の限界は気が遠くなるほど遠いというのに。
春雨のように、涙が溢れた。
ーーー僕は、127になれるだろうか。
少しの不安が僕を甘い言葉で労りの言葉をかける。
だが、老体の中でごうごうと燃える焼却炉はまだ冷めそうにない。
不可説不可説転も夢ではない。
そんな馬鹿げた夢を見れるなんて。
魚の骨のようなあばらが折れるぐらい、僕は笑った。
僕は幸せ者だ。