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SIerでもなく外資系ITでもない、新興国産ソフトウェアメーカーという第三のキャリア(B to B編)

以前書いた「SIerはなぜ自社製品を作らないのか」を多くの方に読んで頂いており嬉しいです。悪名高きSIerは良くも悪くも存在感が大きく、多くの方が勤務されているのだと改めて感じています。

転職情報サイトなどを見るとIT系求人はたくさんあるのですが、SIerの募集は少ないなと感じています。SIerは大企業が多いので(事業の特性上頭数が必要なので社員数が多い)中途採用よりも新卒が主流という理由はあるのかもしれませんが、私はこれは決定的な潮目の変わり目だと思っています。

注意深くその手のサイトを見てみると、創業10年以内のB to B SaaSベンダー、B to C WEBサービス、デジタルマーケティングといったところの募集が多いのです。そういう会社はだいたい中小企業で知名度が低いです。それなのに年収600万とか800万とか、総合電機系やユーザー系の看板(社名)がついた大手SIerとそう変わらない額が提示されています。
わたしが働いている会社は社員数80人に満たないパッケージベンダーですが、同僚のアラサー女性社員の年収の方が大手SIerに転職したばかりの夫よりも高いと聞きました。そのようなことが当たり前になっていくと思います。

伝統的日本企業の労働集約産業であるSIerの内情

もちろん、高い安いはポジションや実績によって変わってくるでしょう。ただし、伝統的日本企業であり社員の高齢化が進む大企業SIerに多くのマネージャーポジションが空くとは思えません。そして、伝統的日本企業においてマネージメントをしないのに高給が支払われることもほとんどありません。残念ながらテクニカルスペシャリストというのはただの平社員としてしか見なされないのです。

SIerではGoogleやMicorosoftなどと違い先端技術を追求するような仕事は稀です。むしろ如何に「枯れた」製品・技術を取捨選択して低リスクなITソリューションを顧客に提案するかということが重要です。
身も蓋もないことを言えばSIerの仕事は大手になるほどプロジェクトマネジメントとドキュメンテーションになるので、新しい技術に貪欲な若手技術者タイプよりも、淡々とビジネスライクにそれらに取り組むオジサンとそれに倣うだけの若者ばかりだったりするのです。外資と違って人員のスクリーニングなどほとんど機能しないのです。ハイスキルな仕事は外注し、用が済んだら契約解消して終わりです。

また、SIerに限らず伝統的大企業で実績に応じた給与をフェアに払ういわゆる成果主義を敷いているところはほとんど存在しません。いわゆるSIerピラミッドの頂点に君臨する本当の超大手であれば相対的に給与は高いはずですが、もちろんそういう会社の正社員ポジションのパイは限られています。

このクラウド化と少子高齢化が進んでいる世の中において、新規のB to Bシステム開発の需要は減りこそすれ増えることはないでしょう。
業界にいる人たちはみんな知っています。SIer冬の時代なのです。
そしてその冬の時代が過ぎ去ることがないであろうということも薄々感づいています。

純ドメなSIerとは対象的な外資系IT

多くのIT製品はアメリカ発です。実は日本はなかなか大きな市場なので、多くのアメリカIT企業が日本に現地法人を立てて、アカウントマネージャーやSEを雇っています。外資系IT企業は基本的に給与が高く成果主義なので伝統的日本企業であるSIerで働くことに合わない、面白くない人と思う人たちがたくさんいます。SIerを飛び出して外資系IT企業に転職していく人たちはいつの時代も一定数います。

ただし日本的雇用習慣に慣れ切っている人には外資系への転職は心理的ハードルが高いでしょう。「日本は世界一成功した社会主義国家」と言われるように成果に応じて給与が大きく上下するとか失業するという人事システムはほとんどのSIerに存在しません。
SIerの人たちはアメリカ的人事評価に慣れていないのです。アレルギーと言ってもいいでしょう。心のどこかで外資に転職する人たちのことを羨ましいと思っても、殆どの人はそのような選択肢を取りません。
お酒を飲めば愚痴ばかりのサラリーマンが決して会社を辞めないのはそこに安心があるからです。(私はそこに安定があるとは思っていないのですが心情的安心はあるというのは分かります。)

多くの社内ドキュメントや本社からのメールが英語で回ってきますし昇進するには英語が必要になるので、英語が苦手だと辛いというのもありますが、むしろ心情的にハードルを上げているのは成果主義の方だと思います。
死ぬほど自社の文句ばかり言う人に「じゃあ外資なんてどう?」と聞くと皆さん口を揃えて「成績悪いとクビになるでしょ。そんなところで働けないよ。」と言います。シビアに人事評価されるくらいなら文句と愚痴塗れのSIerの方がいいと思っているのです。

SIerでも外資系でもない第三の選択肢

SIerはもういい、ただし自分のマインドセット的に外資系は合わない、という人にオススメなのが日本の新興SaaS/ソフトウェアメーカーという第三の道です。
「新興」というのは、大まかに言えば創業10年以下とかそれくらいの会社です。では、なぜそのような企業がよいのでしょうか?

(1) 営業的観点: 自社製品という唯一無二の武器によるプロダクトセールス

元SIerの営業やSEからすると、メーカーに転職すると自社製品を提案できることによる「他社との差別化」に驚くでしょう。SIerビジネスというのは仕入販売や業務請負です。顧客企業のIT部門からの「これってどこから買っても同じだよね。なので一生懸命選んでもらえる努力をしてね」という視線に常に晒されていたのです。それが突如、その製品をその顧客に提案するのはあなただけになるのです。
もちろん競合他社はいるわけですが、同じ製品を売りに来る他のSIerと競合するのに比べれば雲泥の違いです。プロダクトセールスが容易に成立します。

(2) 商品コンセプトや使われている技術が新しくて面白い

新しいことをやりたいからその会社のファウンダーが起業したわけです。決して保守的なSIerではできない新しいサービス・新機能を開発して市場に売り込むことができます。世の中には「これ思い付いて作った人天才だな」と脱帽するようなビックリソリューションがたくさんあります。そういうものを世間に広める仕事です。

(3) 自社製品開発に関われる

SIerとの最大の違いです。自社製品に愛着を持てる人であれば大きな満足感を得られることでしょう。
開発者ではなく、営業やSEであっても、顧客・市場からのフィードバックを企画・開発部門にフィードバックすることで製品開発に関わることができます。

(4) ビジネス的観点: 利益率が高い

無名の会社でも信じられないような高い営業利益率を叩き出している会社は多数あります。自社開発ソフトウェア製品というのは売り物になるレベルの品質の製品を作り上げるまでがすごく大変な反面、仕入がないため原価率がほぼゼロです。つまり損益分岐点を超えるとあとはひたすら利益です。
上り調子のソフトウェアメーカーであれば、営業利益率30%といったSIerと比べると信じられないような数字が出てくることもあります。

(6) 平均年齢が低くマネージャーポジションを得られるチャンスが大きい

社員の平均年齢が低いことが多いです。若ければいいというわけではないですし、中小企業はガバナンスが効きにくく創業者のワンマンになりがちですが、これから大きくなる会社であれば、人が増えて、新しい部署ができて、新しいマネージャーポジションが創出されます。
大手SIerのように完全に上が詰まっていいポジションが全然空かないという確率は相対的に低いです。

まとめ

スクラッチでシステム開発するとお金・時間がかかりすぎるからユーザー企業はクラウドやパッケージを使うわけですが、SIerはスクラッチで作るとかそれをメンテナンスするとかしないと儲けが出ません。
SIerは多くの技術者を抱えていますから、ライトかつ安価に売れるパッケージやクラウドサービス再販などというのはそもそもSIerの存在意義と相反するのです。もはや重厚長大な基幹システムと基盤系以外ではSIerのビジネスは成立しないと思います。

そのSIerを横目に急成長しているSaaS/ソフトウェアメーカーはたくさんあります。一例としては人事評価や人材採用を支援するHRテック系クラウドサービスで、それ以前はSAPやOracleの人事システムをオンプレミスでインストールするかスクラッチで開発するといったとんでもないお金と時間をかけるソリューションしか選択肢がありませんでした。それが今や月額何万円でよりリッチなサービスを手軽に使える時代なのです。

もはやクラウド化イコール脱SIerと言っても差し支えないでしょう。もしこれを読んでいるSIer社員の方がいたら、外資だけでなく国産ソフトウェアメーカーという選択肢も一考してみてはいかがでしょうか。

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