ニッチに走り過ぎず、グローバルプレイヤーと競争する覚悟
「なぜ日本のIT製品は日本でしかプレゼンスがないのか」は本当だろうか。これは半分正解・半分誤りで、正確に言えばアメリカ以外のIT製品は世界市場でほとんどプレゼンスがない。ドイツのSAPとかTeamViewerとかせいぜいその程度であり、多くのグローバルメジャーIT製品の出身地は米国西海岸かシアトルである。(中国・韓国・台湾の得意なスマートフォン・PC・サーバーなどの汎用ハードウェアはこの議論に含まない。)
私がシンガポールや中国沿岸部で海外市場開発の仕事に取り組み出した時、全然売れないのは営業力やマーケティングの問題だと思っていた。簡単に言えば海外日系企業は規模が小さく社数も少ない、マーケティング的NGな市場であると。
そして、日系企業にフォーカスした戦略が誤っていたと認め、次なる市場であるインドに現地法人を立てて、日本人駐在員ゼロ・全社員インド人・インドのローカル大企業だけをターゲットにする「どローカル戦略」を貫いた。
それでもほとんど売れない。はじめは興味を持って話を聞いてくれたお客さんも、トライアル(PoC)すると雲行きが怪しい。
このUIがダメだ、こんな機能がないとダメだとフィードバックをくれる。市場の声というのはとてもありがたい。それを地道に実現していけば純和風な日本のIT製品がグローバル・プロダクトになれるはずだ。ここからはプロダクトマネージャーの仕事だ。ほとんどの日系ITベンダーにはできない仕事だ。ワクワクするぞ。
だが、私はすぐにあることに気が付いた。
「これら要望をすべて満たすと、アメリカの最大手製品とほとんど同じプロダクトが出来上がる・・・」
それまで私は、とにかく地道に営業して(私自身が営業するのではなくインド人のアカウントマネージャーにやってもらうのだが)、フィードバックをもらって、それを実現していけばグローバルに売れる製品が出来上がると信じていた。
だが、それは裏を返せば「自分たちの製品が日本市場で成功した強みを捨て去る」こととニアリーイコールであることに気が付き愕然とした。
日本のIT製品のポジショニング
「日本のIT企業は、アメリカのIT企業がやらないことをやったから成功した」という面は多かれ少なかれあるだろう。というか、ほとんどそんな感じではないか。
日本のエンドユーザー企業の特徴として、IT部門の立場がものすごく弱い。その割にはセキュリティやコンプライアンスやユーザー部門の求める機能要件がものすごく厳しい。結果、ものすごく機能がたくさんあってセキュリティ重視でガラパゴスなシステムが出来上がったりする。機能要件を満たすためにUI/UXは優先度は下がる。日本のITは製品はマニアックで使いにくい、見た目が格好悪い、とかよく言われてしまう。
ところが、シリコンバレーのベンチャー・キャピタルの投資を受け、はじめからグローバルに成功することを目標に企業する西海岸のスタートアップは日本の小さなセグメントの事情など気にしていられない。
その隙間にある日本企業のニーズを汲み取り製品化し、上手にマーケティング・セールスできた日本のIT製品メーカーが日本で成功する。非常に理にかなっている。素晴らしい成果だ。成功が成功を呼び、導入事例を目にした同業他社がそのメーカーに問い合わせをかけて案件化する。新たな機能追加要件もたくさんあるだろうが、それに対応して受注する。大手IT企業が代理店になりたいと申し出てくる。IPOしちゃえばなんて言われたりする。
そうしてグローバルスタンダードからかけ離れた製品が出来上がってしまう。そろそろウチの海外展開を目指そうかしらと海外に営業かけにいったら全然売れない。
グローバルプレイヤーとの競争を受容する覚悟
私はひとつの結論に至った。日本市場で成功するために、アメリカのグローバルプレイヤーとの競争を避けすぎてはいけないのだと。そこに競合がいるということは、そこに市場があるということなのだ。
日本人はとにかくニッチ戦略が大好きだが、日本国内ビジネスにおいてアメリカメーカーと競合しないということは、その製品はアメリカでは市場がないのだろう。だから競合相手にならないのだ。
日本企業特有のニーズに対して、日本のソフトウェアメーカーだけで競合しているということは、それは日本特有の内輪な市場ということなのだ。殆どの場合そういう製品は世界では戦えない。
コモディティでもいけないが、ニッチ過ぎてはいけない。その覚悟が、世界戦略の第一歩なのだと思う。
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