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SIerの強みと弱みと、中小SIerの未来

今回も人々に憎まれる存在であるSIerの強みと弱みというシンプルなテーマについて書いていきます。話の構成上、先に弱みから始めます。


弱み:人月商売故にSIは利益率が低い

これは、人月商売を基幹とするほとんどのSIerにとって構造上不可避な問題です。同じく人月いくらで課金するSESも同様です。エンジニアのスキルレベルによってある程度の単価の上下はあり得ますが、基本的には人間単価を大きく変えることはできません。
当社の開発パートナー(有り体に言えば外注業者、)には100万円/月/人前後を払っています。大手SIerのシニアレベルで200万円くらい課金する場合はあるようですが、それを大きく上回ることはないでしょう。つまり、新人レベルは別として、せいぜい100〜200万円くらいのブレしかないということです。
XX総研とかXXXデータとか大手SIerになってくると給与水準が中堅〜中小SIerとは段違いです。大手SIerにとっては高い給料払っているのだからクライアントからも多くの費用を取らないといけません。たくさんチャージするからといって大手SIerにとっては原価である人件費が高いので利益率には限界があります。

大きなプロジェクトを受注したら多くの人員を投入しないといけません。ただし一人あたりの単価や原価は決まっています。プロジェクト規模が大きければ売上も利益額も大きくはなりますが、履歴率自体は理論上変わりません。むしろ大型受注だからと切り詰めて切り詰めてプロポーザル出すことで利益率自体は中小規模のプロジェクトよりも低いということだってありえます。(というか、だいたいそんな感じです。)

大きな受注を得て、プロジェクトを成功させて、顧客の信頼を得て、社員が増えて、会社が大きくなって、人件費が上がって、利益率は低いままなのです。
これは誤解を恐れずに言えば、ある物品を一定金額で仕入れて他社に負けないようにギリギリの利益で卸売りし続けるのと同じです。たくさん売れれば粗利額は上がりますが、利益率は決して上がらないのです。

強み:技術が集積する

逆にSIerの強みとなるのは、ある分野・領域の技術やノウハウが蓄積されることです。あるプロジェクトである業界の販売管理システムを構築したら、近い業界の同様のシステムを構築する際に有利です。顧客から見ても他社で同様の経験があるというのはポイント高いでしょう。エンドユーザーの情報システム部は自社プロジェクトにしか関わることができません。

業界知識・商習慣だけでなく、特定のDBにすごく精通しているとか、VDIやストレージなど特定の技術領域に強いとかいう集積の仕方もあります。SIerなんてただの中間搾取業者だという人の気持ちは分からないでもないですが、そうは言ってもたくさんの案件を経験することで得られた治験というのは強みであるはずです。

ただ、その仮設が正しければどのSIerも技術・ノウハウの集積により自社ならではの強みを持ったビジネスをできていそうです。本当にそうなのでしょうか? もしそうならばSIというビジネスが嫌われることはないのではないか・・・。

営業という根本的課題

そこには当然課題があります。一番の課題は「営業」だと思います。いくら知見があるとは言っても、多くの企業の情報システム部は一見さんに大事なシステムの発注などしません。ほとんどの企業にはお抱えSIerがついていて、新規開拓というのは並大抵のことではできません。よく知らない会社の営業マンがいくら「当社はこういうお客様とお付き合いがあってどんな実績があっても」と語っても、「ふーん(でもウチはいつものベンダーに丸ごとお任せしているからなあ)」となってしまいます。

中堅以下SIerだと、プライム・コントラクター(元請け)という大手SIerから発注をもらうことが多いです。やっている仕事は変わらずとも、エンドユーザーは以前からの付き合いがある大手SIerに発注を出すことを選ぶことが多いのです。
これは日本企業の情報システム部が保守的だという面もあるのかもしれませんが、中小SIerにはエンドユーザーへ直接営業をしかけて顧客内の事情を把握して適切な提案をして仕事を取ってくる力や信用力がない場合が多いのです。営業雇ってそれを頑張るくらいならば大手の下について低利益の受託をするということを選ぶことが多く、いつものピラミッド構造の出来上がりです。IT業界を知れば知るほど、諦めにも似た境地に陥ります。

中小SIerの未来

もちろん、対策はあります。今までの知見を活かしたソフトウェアを受託開発ではなくクラウドサービスに仕立て上げて直接販売するというのは前向きなアイデアでしょう。

クラウドサービスになると「自社環境をよく知る信頼できるベンダーに構築・保守してもらう」という情報システム部のロジックが成り立たなくなります。
ビジネスアプリケーションは既に出来合いのサービスとして構築済みですし、保守するのはSIerではなくクラウドサービスプロバイダーだというのは一目瞭然です。(もっとも個別構築していたときでも実際に構築保守するのは下請けSIerだったのですけれども)

クラウドサービスに仕上げてもまだSIerチャネルを使って売ろうとするIT会社もあります。このあたりは人によって意見が分かれるのですが、私は絶対に自社クラウドサービスを直接販売する方にシフトするべきだと思います。大きなSI要素があれば別ですが、クラウドサービスをノンカスタマイズでそのまま提供するのであれば、SIしないSIerの力を借りる必要はありません。

代理店=SIerは営業のアウトソーシングという意味合いがあるので、今まで自分の力で営業してこなかったIT会社が大手SIerに頼りたくなる気持ちは分かりますが、直接販売にシフトしかないでしょう。

そうすると今まで下請けだった中小SIerがソフトウェアメーカーに成り代わります。もちろんこれはとても大きなパラダイムシフトなのでそう簡単には上手くいきませんが、膨大な人員を抱える大手SIerに比べれば、人数が少なく身軽な中小SIerの方がずっとハードルが低いです。

まとめ

SIerは日本独自の悪しき習慣、アメリカにはSIerなんていないと言う人はいますが恐らくアメリカが特別なだけです。日本だけでなく中国にも東南アジアにも欧州にもSIerはいます。ちゃんとでSI vendorとかSystem Integratorとか言ってます。日本のSI業界に多くの問題があるのはもちろんですが、すべてのSIerが悪いわけではありません。小さい規模でもいいSIerはいますし、大手でも悪いSIerはいます。これから業界内に入ってくる方、業界内で転職する方がいい職場に出会えることを願います。

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