遺伝子治療が現実味を帯びてきた
いやー流行ってますね、CRISPR/Casシステム。
え、知らない?!それはやゔぁいですね。遺伝子工学界の技術なのですが、潜在能力は人工知能界でいうディープラーニングぐらいかそれ以上にやゔぁい技術です(ディープラーニングに関しては下リンク)。CRISPR/Casはクリスパー・キャスと読みます。
一般にわかりやすい解説あんまりないなって感じだったのですが、クマムシ先生のブログやコスモバイオの動画を見つけました。あと、英語ですがアニメーション動画もありました。このあたり参考にすればイメージ掴みやすいですかね。
ざっくりどういう技術かというと、遺伝子を切り張りする新しい技術です。何が凄いかというと、(1) どの種類の細胞でも、 (2) 狙ったゲノムDNA鎖の場所で 、(3) いつでも、(4)お手軽に、遺伝子を組み換えることができます。これに伴い色々革新的なのですが、治療でいうと特に体細胞で遺伝子組み換えできるってすごい。それで何ができるようになるかというと、遺伝子の異常を人為的に治せるとか(ガンとか)、病気の治療に効果的なタンパク質を遺伝子内に組み入れることができるとか(つまり点滴や常備薬から解放される)、しかも比較的安全に。
これまで、(2) 狙ったゲノムDNA鎖の場所で遺伝子を組み換えるには、受精卵や万能細胞(ES細胞、iPS細胞)に遺伝子を導入して、それを個体化(1匹の動物にすること)するしかできませんでした。つまり、特定の、しかも発生の最初期の細胞を使うしかなかったのです。しかも、その組み替え効率も1/1000とか1/10000とか、良くて1/100とかでまーきつい(TALENとかだともっと上がってたのか?!)。
(1), (3)に関してはウイルスを使う方法があります(ウイルス工学)。これは毒性の低いウイルスや毒性を抜いたウイルスの遺伝子に導入したい遺伝子を組み込んで感染させる技術です。ヒトの治療にもう応用されているのかは良く知りませんが、動物実験ではかなり見かけるようになりました。この方法であれば、いつでもどこにでも、ウイルスを打ち込んで感染させれば遺伝子を入れることができます。
一部のウイルスはしばらくすると細胞内から消滅してしまうのですが、別の一部のウイルスを使えばある遺伝子をヒトゲノムの中にも組み込むこともできます。ただし、ここで問題になるのがその場所。完全にランダムです。例えば生存に超重要な遺伝子配列の途中にアッタクチャンスすることもあるので、危険なのです。だから少なくともこのタイプのウイルスはヒトの治療は使われていないと思われます(調べてないですが)。
そんなこんなで、例えばガンなどのように、成体後の遺伝子配列に異常が起こったときにそこを狙って人為的に修復することはできなかったのです。そこに彗星の如く現れたのがCRISPR/Cas9。
詳しい解説は他(これとかこれ)に譲りますが、必要なのはいくつかのDNA配列だけ。狙った場所を識別するためのガイド(guide) DNA、導入する遺伝子配列、Casタンパク質群を発現する遺伝子配列です(簡単)。しかも、これらのDNA配列が入りさえすれば、いつでも(成体後でも)、どこでも(体細胞でも)仕事をしてくれます。効率もかなり良く、ノックアウト(遺伝子の削除のみ)だと8割、ノックイン(ここで言っている遺伝子導入はこれ)でも1/4くらいは入った気がする(うる覚え)。1/4というと、まだまだ不完全な印象ですが、1/1000に比べたら圧倒的です。
これを細胞に入れる方法は色々ありますが、遺伝子治療ということでいうとウイルスを使う選択肢になると思います。先ほど、一部のウイルスはしばらくすると細胞内から消滅してしまうと書きましたが、これを使います。これは感染から数ヶ月で消失しますが、CRISPR/Casシステムを乗せておくと、その数ヶ月の間に彼らが仕事をしてヒトゲノムの組み換えを行ってくれます。
このコンビ、やゔぁい。
遺伝子組み換え効率の問題や安全性の問題など、まだまだ越えないければいけない壁はあるけれども、CRISPR/Casのおかげで新しい治療法の道筋はかなりはっきりみえるようになったのです。
そういえば、遺伝子治療自体はウイルスとかで、もうやってるのかな?そこはよく知らない。