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「闇から光へ」プログラムノート

PianoDuo MiT第2回公演
闇から光へ~ピアノ連弾で奏でるオーケストラの調べ~

PianoDuo MiT:小川瑞葵 竹ヶ鼻智絵
2023年9月9日(土)
La Paz(天神橋筋6丁目)

♬ロベルト・シューマン
(クララ・シューマン編曲) /歌曲集《ミルテの花》より 第3曲「くるみの木」、第7曲「蓮の花」
(フランツ・リスト編曲)/歌曲集《ミルテの花》より 第1曲「献呈」S.566 R.253
 Robert Alexander Schumann(1810~1856)は、ドイツ・ロマン派を代表する作曲家。交響曲から合唱曲まで幅広い分野で作品を残しており、とくにピアノ曲と歌曲で高い評価と人気を得ています。
 「ミルテの花」は全26曲、1840年に作曲され、クララ・シューマンにささげられています。クララとの結婚式の前日に作曲を終え、「愛する花嫁へ」と記してクララに手渡したと、伝えられています。
 ミルテの花は、日本名はギンバイカ(銀梅花)といい、夏に5枚の花弁の白い花をつけます。花言葉は「高貴な美しさ」「愛」「愛のささやき」。結婚式のブーケ・トスでもよく用いられます。曲集の中には「ミルテ」が付いた曲はありません。全体を束ねる総題として、ふさわしいと思われたのでしょうね。歌曲として作られた曲集を、フランツ・リスト、クララ・シューマンがピアノに編曲したものをお送りします。
 くるみDer Nußbaum の実は食用としてなじみがありますが、花をご存じでしょうか。雌雄同株異花(おしべ側とめしべ側が雄花と雌花に分かれており、一つの木に付く)で、雄花は緑の房状、雌花は小さくて紅い、と全く異なる姿を見せます。この詩では、緑の雄花が風に揺れて、雌花に近づこうとしているさまが描かれているのだと思われます。
 「蓮の花」Die Lotosblumeは、「睡蓮の花」と訳されていることもあるようです。厳密にはスイレンの葉は艶やかで切れ込みがある円形ですが、ハスには切れ込みがないそうです。また、睡蓮の花のほうがいろいろな色があると言われています。ちなみに、レンコン(蓮根)をつくるのは蓮のほうで、睡蓮は球根を設けます。花は日の出と共にゆっくりと時間をかけて咲き始め、8〜9時頃に満開を迎え、またゆっくりと時間をかけてしぼんでいきます。これを3、4日繰り返し、やがて散ってしまうという、花期の短い植物です。
 「献呈」はクララも編曲しているようですが、リスト編曲とは違って、技巧を多用せず、より原曲に忠実でシンプルな曲となっているそうです。クララがリスト編「献呈」を聴いて腹を立てたというエピソードも残っているようですが、どういうことだったか、ちょっと想像してみてはいかがでしょうか。

♫クララ・シューマン/《音楽の夜会》作品6より 第2番「夜想曲」ヘ長調
 Clara Josephine Wieck-Schumann(1819~1896)は、ドイツのピアニスト、作曲家。結婚前の姓はヴィーク。ロベルト・シューマンの妻として知られていますが、生前はむしろクララの方がピアニストとして高名だったほどの実力と人気の持ち主でした。
 ショパンが「僕の練習曲集を弾ける唯一のドイツ人女性」、リストが「クララ・シューマンの作品は本当に驚くべきものです」と絶賛していたようです。
 1835年に作曲された全6曲から成る曲集で、音楽評論家としてのロベルト・シューマンは「色鮮やかな花びらを輝かしく展開する前の、魅力的で観照にうれしいつぼみ、それ自身の中に未来を包含したものすべてのようだ。」と賛辞を呈しています。
 「夜想曲」(ノットゥルノ 伊)は、やや不穏な和音が耳に残りながらも、揺れ動くようなリズムから夜の闇を思わせ、ロマンティストとしてのクララの的確な情緒表現が印象的です。

♫ロベルト・シューマン/
《8つのノヴェレッテ》作品21より 第8番
嬰ヘ短調
 1838年に作曲された小品集。ノヴェレッテは、「短編小説」という意味ですが、標題はありません。
 第8番は曲集の中では一番長い作品で、速いパッセージの中から高音、低音のメロディが浮かび上がったかと思うと、スキップするような軽快なリズムに転じるなど、即興的で自由な展開が魅力だといえるでしょう。

♪ブラームス/交響曲 第1番 ハ短調 作品68
(ピアノ連弾版)
 Johannes Brahms(1833~1897)は、ドイツの作曲家。古典主義的な形式美を重んじながら、抒情味あふれるメロディや和声によって、後期のベートーヴェンに直結するロマン派を代表する作曲家として音楽史に重要な位置を占める存在です。
 ベートーヴェンをいかに継承するかに苦悶し、特に交響曲の作曲には慎重になり、「ベートーヴェンという巨人が背後から行進して来るのを聞くと、とても交響曲を書く気にはならない」と、指揮者のハンス・フォン・ビューローに書き送っていたそうです。
 そんな苦心の末に、着想から完成まで21年も要し、1876年、ブラームス43歳の年についに交響曲第1番が完成しました。それだけに当時から高く評価され、ビューローによって「ベートーヴェンの交響曲第10番」と称されました。なお、ビューローはバッハ、ベートーヴェン、ブラームスを「ドイツ3大“B”」と名づけたことでも知られています。
 ブラームスは自作のオーケストラ等のための楽曲を、しばしばピアノ演奏のために編曲していました。ピアノがある程度裕福な家庭にも普及し始めていた当時、習い事や趣味として、家庭でピアノを演奏する人々からの需要が起こり始めていたようです。
 ピアノの連弾というシンプルな構成によって、管弦楽の色彩の豊かさを思い浮かべながら、ピアノの音の響き、主旋律の後ろに流れる対旋律(オブリガート)がはっきりと聴こえたりする音楽の構造の妙をお楽しみいただけるのではないかと思います。
 45分近い大曲です。たっぷりとお楽しみください。
第1楽章 Un poco sostenuto – Allegro
ティンパニーの連打で不穏に始まるのが印象的です。ピアノでティンパニーがどのように処理されているか、耳をお傾け下さい。
第2楽章 Andante sostenuto
ゆるやかなテンポで、人の苦しみや悲しみを覆い隠すように響きます。
第3楽章 Un poco allegretto e grazioso
一転してテンポも速くなり、大空を駈けるような颯爽とした曲調が鮮やかです。
第4楽章 Adagio - Più andante - Allegro non troppo, ma con brio - Più allegro 
ベートーヴェンの「第九」とよく比較されますが、暗い影の中から希望が響き渡る、まさに闇から光へを実感できる楽章です。

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