「トム・ジョーンズの華麗なる冒険」(2000年9月バウ)
観る前から、「退屈。間(ま)が悪い」って言う人と、「すっごい面白い。爆笑」って言う人と、二通り聞いてたんですよ。だんだんよくなってるんだろうな、と期待して行ったわけです。で、ぼくの感想。……難しい。
他愛もない話です。捨て子同然だった男が名家で育てられ、ちょっとだらしのないヤサ男になり、実子に追い出され放浪して本当の親を探す。恋人とも行き違いで疎遠となるが、本当の親は育ての親だったことがわかり、めでたしめでたし、みたいな。
それを演出の太田は、冒頭にラストを持ってきて「これはハッピーエンドですよ」っていう枠をこしらえて、まずぼくたちを安心させました。それから、ぼくはここが難しいと思ってるんですけど、その枠と同時に、太田はもう一つの枠をこしらえているんですね。「クールなコメディにするぞ」っていう意気込みがあふれちゃったような枠です。
実は観終わって、「化石オートバイみたいな芝居やな」って思ったんですよ。でも、これじゃ関西のごく一部の小劇場ゴウワーにしか伝わらないんで、もうちょっと考えたんですけど、東京の小劇場でいえば、ベターポーヅ(一回しか観てませんが)みたいな作り方をしているコメディ。コメディを演じるにあたって、リアリスティックな演技からちょっとだけ離れた、わざとらしい(といっても大げさなだけじゃなくて)、様式的といってもいいのかな、地上を数センチ浮いているような演技をする。
このことは、観終わっていえば、この公演のポスターやチラシに実にうまく反映されてたわけですよ。あの変なポスター、すごく作品と合ってたでしょ? 宣伝美術のクレジットはないので、どなたのデザインかはわかりませんが、名作です。そして、舞台美術(装置=島川とおる)もぴったり、しっくりでした。
つまり、太田は、人情喜劇だけは絶対に作りたくなかったわけでしょう。クールでドライでお洒落な喜劇。これはなかなか難しい注文です。出演者にも、観客にも。それを知っててやってるんだから、太田としては承知の上の敗戦なんですね、失敗作だとしても。出演者だって、傷つかない。巧みな冒険です。……そうか、トム・ジョーンズの冒険っていうより、太田哲則の冒険だったんだ、なるほど。
さて、ここで皆さんお待ちかね(?)サマセットシャー村バザー大会恒例、各賞発表!
① 目つきがいやらしい大賞 匠ひびき(トム)。モリー(百花)に迫られてる時にその胸元を覗き込む視線が、すごくリアルで、ホントは女のくせにオジサンみたいやと思った
② そっくりさん大賞 麻園みき(ブリフィル)。声、しぐさ、眉の上げ方などなど、細かいところが姉の麻路さきにあまりに似ていてこわかった
③ 普通のお色気大賞 百花沙里(モリー)。「夜の森」の場面でトム(匠)に迫る時の悩殺ぶりがすごかったっす。でもホントにあんなふうに迫られたら逃げるよ
④ 倒錯お色気大賞 花の精の壮一帆。花の精たちがU字の花輪を持ってバレエを踊るのが妙に外してるようでユーモラスで、変なシーン。そこへもってきて、これはなんというか、すごい個人的趣味で、告白するのがこわいんだけど、男役が娘役と同じ格好で混じって出てくると、すごくドキドキするものではございますが、それにしても壮は美しかった。ホントは女なはずなのになんで? っていつも思うけど、それにしても他の男役での場面も含め、壮は美しかった
⑤ ぼくの観劇日のアドリブ大賞 沙加美怜(スワッカム)と箙かおる(ウエスタン)。沙加美の発声がちょっとおかしかったところを、すかさず箙がツッコミを入れ、元からです、とか言うのを、箙がしつこくツッコミ続けてました
⑥ 皮肉屋さん大賞 太田のプログラムの文章。あえて解説はしません。「敗者の美学が好きな日本人は笑いが苦手です」
⑦ 大声賞 桜一花(シルヴィア) マダム・ベラ邸のメイド役。来客の名前を叫ぶのが数回、いちいち爆笑させていただきました。第二幕冒頭、仙堂花歩との歌もよかったです
⑧ ダンス大賞 群舞に団体賞、そして個人では高翔みず希(フェラマー卿)かな。もちろん匠も舞風りらも瀬奈じゅんもすごいんだよ。でも、高翔が一番シーンもらって、遊び心のあるダンスを踊ってて笑えたかな
⑨ 太田さん的大賞 沢樹くるみ(ハリエット)。クールなコメディっていうことを一番わかってたのは誰か、っていうのが選考基準、なんかポーカーフェイスだったりビックリ顔だったりで、おかしいのにクールで、きっと太田の思ってたのはこうだったんだろうなと。匠が骨折した時のギプスの扱いなんかも結構タイミングよくて、次点、ってとこ
⑩ ネタばれブーイング大賞 プログラムの配役で貴柳みどりと大伴れいかの身元が明かされちゃってること。こういうのはやめよう
原作:H・フィールディング 脚本・演出:太田 哲則
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