アルフレッド・チャンドラー著『組織は戦略に従う』("Strategy and Structure")の要約


1:書籍の要旨

テーマ

本書は、企業組織の構造と戦略の関係性について探求したもので、特に近代的な多角化企業の発展とその管理手法に焦点を当てています。チャンドラーは、企業が成長する際に採用する戦略が、組織構造をどのように変化させるかを歴史的事例を用いて分析しています。

筆者の主張(メッセージ)

筆者の中心的な主張は、「企業の戦略が変化することで、組織構造の変化が必要となる」という点です。具体的には、新しい戦略が採用されると、それを実行するために最適化された組織構造が後に続くという因果関係を提示しています。この主張は、「戦略は組織を規定する(Structure follows Strategy)」という有名な言葉に凝縮されています。


2:具体的な内容

各テーマの結論

  1. 戦略の多角化

    • 企業は、成長のために単一事業から多角化(製品、地域、顧客層の拡大)を図ります。この戦略は、市場の変化や競争圧力に対応するためのものです。

    • 多角化に成功するためには、それを支える管理体制が必要です。

  2. 組織の分権化

    • 多角化戦略を実行するために、企業は従来の機能別組織から、事業部制組織に移行する必要があると述べています。

    • 各事業部が独立して意思決定を行えるようにすることで、迅速な対応が可能となり、全体の効率性が向上します。

  3. 事例研究

    • チャンドラーは、アメリカの4つの大企業(デュポン、ゼネラルモーターズ、スタンダードオイル、シアーズ)を事例に挙げ、それぞれがどのように戦略の変化に伴い組織構造を再編成したかを詳述しています。

背景と根拠

  • 産業革命以降の経済発展:市場の拡大や技術革新によって、企業の成長機会が増えました。

  • 管理の必要性:規模の拡大に伴い、従来の中央集権型の管理体制では非効率が生じるため、新しい管理体制が必要になった。

  • 実証的なアプローチ:実際の企業データや経営の歴史的な分析を用いて主張を裏付けています。


3:学び

知識の活用方法

  1. 企業戦略策定の指針

    • 新たな事業展開を計画する際、戦略と組織構造が一貫しているかを検討する重要性を認識できます。例えば、多国籍展開する場合には、地域ごとの事業部制を導入する必要があるかもしれません。

  2. 組織変革の推進

    • 成長や変革の過程で、従来の組織構造に固執せず、戦略に適した柔軟な構造を設計する意識を持つことができます。

  3. 歴史的事例の活用

    • 本書に示された成功・失敗の具体例を参考に、現在の企業経営における課題解決に応用することが可能です。


『組織は戦略に従う』は、現代の企業経営においても普遍的な教訓を提供する古典的な著作であり、戦略策定と組織デザインの関係性を深く理解する上での貴重なリソースといえます。

アルフレッド・チャンドラーが言及する「新しい管理体制」は、企業が多角化や規模の拡大を進める際に、旧来の中央集権型の管理方式では非効率になるため、それに代わる組織構造や運営方法を指します。具体的には、以下のような管理体制が挙げられます。


1. 事業部制組織

  • 概要: 企業全体を複数の事業部(部門)に分割し、それぞれの事業部が独立して責任を持ち、意思決定を行う体制。

  • 特徴:

    1. 各事業部が独自の収益責任を負う(プロフィットセンター)。

    2. 各事業部が自らの市場・製品に対応する戦略を立案・実行できる。

    3. 本社は全体の戦略立案や資源配分を担い、個別の業務には介入しない。

  • 利点:

    • 迅速な意思決定:事業部が自主的に判断できるため、変化に即応しやすい。

    • 専門性の向上:事業ごとの特性に応じた運営が可能。

    • 管理の効率化:本社は事業部間の調整や戦略的判断に集中できる。


2. 職能別組織との比較

  • 旧来の中央集権型(職能別組織):

    • 部門は製造、営業、財務などの機能別に分かれており、意思決定はすべて本社に集中して行われる。

    • 規模が小さいうちは効率的だが、企業が成長し、事業が多角化するにつれ以下の課題が発生する:

      • 本社の負担が増大し、意思決定が遅くなる。

      • 各事業の特性に応じた柔軟な対応が困難になる。

      • 現場と経営陣との間で情報の齟齬が生じやすい。

  • 事業部制組織はこれらの課題を解消するために導入される。


3. チャンドラーの事例

チャンドラーが分析した企業の中で、新しい管理体制の導入が特に顕著だったのは以下の例です:

  • ゼネラルモーターズ(GM)

    • 1920年代、GMは事業部制を導入し、各自動車ブランド(シボレー、ビュイック、キャデラックなど)が独立して運営されるようにしました。

    • 本社はブランド間の調整や財務管理に集中し、GM全体の成長を促進しました。

  • デュポン

    • 化学品事業を中心に多角化を進める中で、事業部制組織を採用し、各事業の効率的な運営を可能にしました。


4. 現代への応用

今日では、事業部制に加え、マトリクス組織プロジェクト型組織といった新しい管理体制が進化しています。これらの体制も、チャンドラーの基本的な考え方である「戦略に応じた組織構造の最適化」という視点に基づいており、変化する環境や市場ニーズに適応するための柔軟性を持っています。


チャンドラーの提言は、規模や多角化が進む中で、企業が直面する管理上の課題を解決するために、**「戦略を支える最適な組織構造を設計する」**ことの重要性を示しています。

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