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思い出話17 オカリナを吹くご老人
私はよく、緑豊かな水元公園の中を自転車で通り抜けていくことがあります。
何といっても景色がいいから気持ちがいいし、金町駅に出るにも都合がいいからです。
その公園の中で、時々、オカリナを吹いているご老人を見かけることがあった。
齢八十くらいだろうか、白髪のお爺さんである。
緑のじゅうたんのある木の下で、一人、日本の童謡を吹いているのでした。
周りの人はあまり関心がないのか、聴いている人はほとんどいない。
音楽好きな私は、しばらく自転車を止め、遠くから何気なしに聴いていた。
ご老人はわずかに体を左右に揺らしながら、誰もいない方を見て一生懸命に吹いていた。
第一線をリタイアし、老後の趣味なのだろうか、とても心地よさそうに吹いていて、そして上手かった。
吹き終わる時には、拍手をしたいくらいだったが、それはしなかった。
曲が終わると、私は何事もなかったように通り過ぎ自転車を急がせた。
そして私は風を受け、自転車をこぎながらいつも思った。
「自分の好きなことをして、それで他人を楽しませてあげられる趣味は本当にいいものだな~」と。
その頃からもう数年が経過しているが、最近はめっきり見かけなくなった。
もしかしたら、もう別世界で、別世界の人達に聴かせているのかな~などと思うと、ちょっと寂しい気持ちです。
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