思い出話2 年下女性が教えてくれた納豆の食べ方
これもずいぶん昔の話です。
職場の人たちと事務所の中で、昼食を共にしていた時、ある女性が納豆を一生懸命に箸でくるくるかき回していた。
彼女は、私の隣に座っていたので自然と目に入ってきたのだが、いつまでもしぶとくかき回しているのを見て、私は声をかけた。
「何でそんなしつこくかき回すの?」
すると、
「こうすると粘りが出てきて、食べると粘り強い性格になるんですよ!」
彼女の妙な返答に、面白いことを言うなと思った。
単なるジョークで言ったのか、どこかで仕入れたエセ情報か、今となっては不明だが、私はハッとして「そんなバカな!」とは思わずに、何かいいことを聞いたように感じた。
「よくかき回した納豆を食べて、粘り強い性格になるのかあ・・・」
私は心密かに「自分もやってみようか」と思った。
この事務所に入る前、いくつかの職場を経験した私だった。
もちろん、その時々に退職の理由はあったが「根性がなかった、忍耐がなかった、覚悟がなかった」など、いくつか反省点を認識していて、この粘り強い性格というのも自分には欠けていたことを感じていたからです。
私はある時期失業し、全く収入のない惨めな日々を過ごした経験をもつが、その時につくづくと色々なことを考えた。時間はあったので、興味ある本もずいぶん読んだ。
福沢諭吉は「心訓」の中で、
「世の中で一番さびしい事は、する仕事のない事です」
と言っているが、まさしくその通りだと痛感した。
そして私は、ハローワークで仕事を探しながら、ハローワークで働いている人たちを見て「人は働くようにできている」と、しみじみと悟った。
健康で働ける状態なのに、仕事がなかなか見つからず、憂うつな日々を過ごしている人は多いと思うが、おそらくみんな、同じ思いでいるのだろう。
「継続は力なり」
続けることの大切さはよく言われることだが、実際に中途挫折を味わえば、なおさら、その意味するところが深く感じられてくる。
私は昼食後も、彼女の何気ない言葉が、心の中にいつまでも残っていた。
納豆という一つの食べ物を介して「粘り強い自分になるんだ!」という彼女の心意気が気に入った。本当にいいことを聞いた。自分より十歳も若い女性から教えられた、人生の教訓のよう。
今では私も、納豆を食べる際には彼女を思い出し、いつまでもしぶとくかき回している。