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思い出話3 旅先で消えたペンダント

これもかなり前の話です。
小田原へ旅行した時、私はホテルの大浴場で、金のペンダントを置き忘れてしまった。
それは、とても大切な特別なペンダントでした。
大浴場へ行った際、脱衣所のカゴの隅に入れ、出てくる時、うっかり取り忘れてしまったのです。

風呂から出たあと、私は浴衣姿で同行の人たちとの宴会を楽しんでいて、その晩はうっかりして気がつかず、ペンダントのことは忘れ、その雰囲気にすっかり酔っていたのでした。

翌朝目が覚め、私服に着替える時にそのことに気づいた私は、慌てて大浴場に行き、衣服を入れたカゴの中を調べてみた。でももうその中にはなかった。
念のため、付近のカゴも調べたが、ペンダントは見つからなかった。

現在はだいたい、どこでも衣類は鍵のかかるロッカーへ入れるようになっているが、当時はまだカゴの中に入れておくだけの簡易なものでした。

私がカゴの付近でせわしく探していたら、それを見た一人の若い男が近づいて来て、
「ペンダント、探しているんですか?」
突然、聞いてきたので、
「そうなんです!」
私は驚いて答えた。すると、
「夕べ、そのカゴの中にあったので、受付カウンターの上に置いておきましたよ!」
そう言うと、その男は脱衣所を出ていった。

その人は、昨晩私のペンダントを見つけ、大浴場の入口にある受付のカウンターの上にそれを置いた、というのです。

私はすぐ、その場所に行ってみた。
確かにカウンターはあったが、ペンダントはなかった。
「誰かが持ち去ったのだろうか・・・」
私はそんな疑念を持ちながらも、誰もいないカウンターを隈なく調べた。

しかしそれでも見つからなかったので、一階のロビーのフロントに行き、そこで事情を説明し、遺失物の届けがないかどうかを聞いてみた。でもそれはなかった。

私はホテルの人ともう一度、大浴場の脱衣所に行き、現場で夕べの行動を再現し、今までの経緯を説明した。ホテルマンは私の話を親身に聞いてくれが、結局見つからなかった。

私たちは再びフロントに戻った。そしてホテルマンは、
「ペンダントがもし遺失物として届けられたら、ご連絡をさしあげますので」
と言うので、連絡先を教えた。

私は正直「誰もいない夜のカウンターの上に黙ってペンダントを置いた」というのは、少し無責任な行為ではないかと思った。
それではわざわざ「誰か持っていってくれ」と言わんばかりではないか!と、腹が立ったが、そんなことを今さら思ってもあとの祭りである。

でも心の中ではいつまでも、
「何もしてくれなければ、あのカゴの中に残されていた可能性はあったのに・・・」
と、あの男の要らぬおせっかいが憎らしく思えてならなかった。
こういう場合、フロントの人に手渡しで言葉を足して預けるのが本当ではないか。

元々、自分の不注意が原因ではあったが、その日は一日気分がすぐれず、そのことばかりが頭にあって、せっかくの観光は楽しくはなくなった。

まあ自業自得です。

松の芽吹き

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