食の話3 焼きむすびを作ってみて-焦らないでじっくりやる-
母がまだ生きていた頃の話。
ある晩、母が夕食にご飯の残りで焼きむすびを作ってくれた。
唐辛子と醤油をたっぷりつけ、こんがりと形よく焼きあがった焼きむすび。
少し焦げた臭いがまた香ばしく、表面のバリバリした歯触りが何ともいえず美味しかった。
それである時、私は自分で作ってみた。
余ったご飯でおにぎりを三つ作り、網の上に乗せてガスコンロにかけて焼いた。
ところが思ったように焼けない。
煙はすごいし、米粒が網の上にぴったりくっついてしまってどうしようもない。
そのうちに、だんだんボロボロと崩れてきて、焦げるばかりでいつもの三角形の焼きむすびの形はすでになくなってしまった。
私は途中から諦め、全てをどんぶりに移して、鰹節と醤油をかけて食べた。
あとで母に聞いたら、火が強すぎたのと、ひっくり返す時期が早すぎたせいだとわかった。
もっと遠い火で時間をかけて焼き、焼き面が固くなるまでは触らない。
そのあと、全体が平均して焼けるよう頃合いを見てひっくり返す。
そしてまた、遠い火でじっくりと時間をかけて焼く。
早く食べたいと焦る心が失敗を招いた結果だと思った。
「焦らないでじっくりやる」
というのは、たいていの事柄に当てはまる真理のようです。