動植物の話16 鮭の使命
日本で産まれた鮭たちは産卵期になると、日本の河川に戻ってきます。
何千何万という群れが、一斉に一団となってやって来るさまは、正に勇壮ですね。
互いに身体を振るわせながら、激流の中を上流へ上流へと遡っていく。
生きものが好きな私は、こうした番組をよく見るのだが、同じようなシーンでも何度見ても飽きることがありません。
番組の制作が巧いのだろうが、何よりもその生命力・力強さに圧倒されます。
外国生活が長いのに、よくもこの日本の水の匂いを忘れずに戻ってきたものだと、その帰巣本能に感心しながら、その映像にくぎづけになる私なのです。
ただただ産卵のために、激流の中を逆らいながら、精も根も使い果たして登ってくる鮭たち。
ボロボロになった身体を、なおも川底に叩きつけて、産卵のための穴を掘る姿。
ここに至ってもオスたちは、メスをめぐる激しい闘争を繰り返して、その獲得に全身全霊で立ち向かい、最後の力を振り絞って戦います。
そうしていよいよその時が来ると、ペアの二匹は、それぞれに寄り添い、大きく口をあけて、数秒間の大切な繁殖活動をします。
一瞬、川底はオスの精子で白くなり、産み落とされた卵にふりかけられ受精が完成。
その絶妙なタイミングと受精のしくみ。
本当に不思議で、驚くべき神秘さ。
その時、メスを獲得できなかった少し小さいオスは、正に産卵の瞬間、ペアの間に割り込んで、自分もちゃっかりそれに加わって、精子をかける。
相手が見つからなかったオスでさえ、繁殖の本能は同じもの、ずるいヤツだと思われようが、そんなの関係ねえ~。
とにかく、自分の子孫を残そうとする執念があるだけです。
そのようにプログラムされているのですから、それで良いのでしょう。
そして鮭は死んでゆき、川の流れに乗っていく。
哀れな鮭の最期の姿。
でも、その身体は他の生物たちの食物となり、またそれが巡り巡って孵化した鮭たちの餌にもなります。
だから、繁殖を終えて死んでいく鮭たちは、自分の使命を完全に果たしているから、たぶん悔いは残らないはずです。それが本来の姿、自然の姿であって、見ている方も納得をします。
でもこれに、人の手が入るとそうはいかない。鮭は産卵場所に行く前に、志半ばで、一網打尽に捕らえられ、人間の刃物によって卵はそっくり取り出されます。
我々の食用のため、身は切り裂かれ、塩がまぶされ、そして魚市場に並びます。
そのわずかな切り身を、今日も美味しくいただいているのだから、我々人間に大きな貢献をしてくれていて、それも一つの使命を果たしているのかと思います。
また、人間以外の熊や鳥に捕らえられることもあります。
そして彼らの食糧となり、命を繋ぐ役目を終えて消えていく。
これ全て、鮭の使命と言えるかもしれません。
そこで一句。
偉大なる 使命あるかな 遡上鮭。 紫山
※今回掲載の鮭の写真は、「photo AC」からダウンロードさせていただいたものです。