思い出話16 大変だった親知らずの抜歯
二十代の中頃、私は親知らずを抜くため、子どもの頃から馴染みのある歯医者へ行きました。
親知らずは全部で四本。
上の歯二本は、毎日一本ずつ、麻酔を使って順調に抜くことができました。
三日目は右下の歯で、その親知らずは、全体の四分の一くらいしか表面に出ておらず、しかも真っすぐではなく、斜めに傾いて埋まっている状態でした。
これを抜くのは、至難の業です。
何しろ、四分の三は歯肉の中にあるのですから、掘り出すようにして抜くしかありません。
私も覚悟はしていましたが、本当に大変なことになりました。
先生は三十代くらいの若い体力のありそうな歯科医の方でした。
レントゲン撮影をして中の形状を確かめながらの抜歯ですが、なかなか思うように抜けてくれません。
あるところまで来たら、先生はノミのようなものと木づちを持って、私の親知らずをコツコツと打ち始めました。
「コツコツ」というより「ガツンガツン」という方が適しているかもしれません。
私はその強い衝撃に耐えながら、必死に口を開け続けていました。
しかし、助手の女性は明らかに、目を背けるような表情をして唾液の吸引作業をしていました。
時折、口をゆすぐことになりますが、私の口の中は血だらけでした。
途中、レントゲン撮影を再度やりましたが、まだ残っているようで、なかなか親知らずは完全にはなくなりません。
座席に戻った私にノミ打ち作業は続けられました。
全部で一時間くらいかかったでしょうか、何とか全て取り除くことができたようで、大変な親知らず除去作業は終わりました。
汗だくで作業を終えた先生は、最後に
「明日残りの一本やりましょう」
と言ったが、私は歯医者に行くことはなかった。