日記 異常に精巧な術士
同僚の誕生日プレゼント探しに難航していたら、いよいよな時間になってしまった。
喪に服した社内で誕生日会を行うのかの是非には、行いますと答える。
そういう会社なのだ。公には名言しないが。なるべく自分達の心持ちだけでも、早く元に戻さねばならない。クリエイティブ性が求められる仕事な分、損を重ねるのみである。
さて、プレゼントはセンス。戯けた品や真面目な品、どの方向へ舵を切ったとして、滑らないのが最も重視される。
しかし私にはセンスがない。共感能力の低さに起因して、対象が何を欲しているかがネックとなり、毎度困難を極めている。 情報収集は申し分ないのに。
普通の人間はこの途方もなく答えのない辛い問いを、一年に幾度となく繰り返しているなんて。
刑に処されているとしか思えない。
プレゼント交換終身刑だ。
なので、秘策を使う。
通販サイトから、候補を次から次へカゴに突っ込む。ここまではスムーズに私でもできる。問題は候補から最もピタリな一品を抽出する決断だ。
私は彼を呼びつけた。
そう、主にセンスで人を虜にしてきた彼に、丸投げする。丸々お任せのわがままファッションガールズモード。
予想通り、彼自身もよく知る同僚の件なので、前のめりで受け持ってくれた。
「悩みまくっちゃうねぇ。ん〜アヒルの浮くやつは要らなさそう。だったらこれも……」
ちょっと可愛かったからと主張された物が、またたく間に会議で数を減らしていく。さらばアヒル、さらば蛙のぷにフィギュア。
カートがすっきりする代わりに、私の未練物処理場へ転送される。ちょっと可愛かったのに……。
「これじゃない? むしろ」
あぁ、これ。たしかにそうかも。
彼が決めたのは、縦に何着も掛けられるハンガー数本と、先がハンガー状のキャップラック。同僚が衣類へ情熱が深い点を反映した最適解だ。
渡されても嵩張らず、無駄にならない。しかも、私がカートに入れた候補でなく、その関連商品から彼が見つけてきた。
最早誰からのプレゼントなのか。
決済時に、カートへラッピング用の袋が足された。
この無我に近い細やかな気配りとセンスは、ずっと隣で見てきた私でも決して真似できない。
真似できないので、ラッピングは省いてもらった。
そこまでされると、私は同僚からゴーストでも乗り移ったのかと、疑いの目を向けられる。