『PROG MUSIC Disc Guide』と2021年を振り返る
明けましておめでとうございます。
諸事情により年末年始感の一切ない年末年始を過ごしているため年末年始をまったく感じていないのですが、とは言え年末年始なので挨拶の一発でもかまさないとな、年末年始だしなということで久しぶりのnoteでございます。
2021年のベスト的なものについては、まずプログロックとプログメタルに関してはギタリスト/ライターの関口竜太さんのYouTubeチャンネルにアップされた動画内で私のセレクトも含めて紹介していただきました。ぜひご覧くださいませ。
プログメタル以外も含むメタル系全般の私のベスト10は、後日某誌に掲載されます。よろしくどうぞ。そちらが発売されてから、ジャンルレスで「2021年とても良かったやつ」をnoteにまとめようかなと。
2021年における私にとっての大きな出来事は、やはり『PROG MUSIC Disc Guide』を3月17日に出版させていただいたことに尽きます。購入いただいた皆さま、読んでいただいた皆さまには改めて心から感謝申し上げます。
制作にあたっての意志や感情などといったエモい部分は書籍の前書き部分にほぼすべてぶち込みましたし、監修者としてのコメントや謝辞等は発売前後で散々ツイートしたので、ここでは極めて個人的な立場からあの本に触れたいと思います。
そもそも『PROG MUSIC Disc Guide』を作りたいと思った動機はとてもシンプルで、「プログという音楽領域には、昔だけでなくいま現在も素晴らしいバンドがたくさんいる、その良さを伝えたい」という思いです。つまりは私が普段Twitterに投稿している内容の延長をあの本でやった、というだけです。
もちろん「今のバンド」を紹介したり扱ったりしているメディアは商業/非商業問わず存在しています。でもそのバンド群を、音楽を、系譜を、「体系的に」まとめているものはほとんどなかった。情報が溢れ分散し忘れられやすい現代において、そういったあれこれを一つにまとめたものが必要じゃね? それがないと良いバンドが埋もれたまま時代の中に消えていっちゃうんじゃね? と思ったのです。
私は田舎に住んでた中学・高校の頃いろいろなディスクガイドをまず買いあさり、そこをベースに気になるバンド/アルバムを片っ端から手にして過去の音楽をdigっていきました。そういった自分の原体験をかたちづくったものを、今度は自分自身で作ってみたかった。ただそれを作るにあたっては並々ならぬ労力と費用が必要となるため長年ぼんやり夢想していただけで、まさか本当に実現できるとはなあ…という気持ちです。今もなお。お声掛けいただいたのみならず、完全に自由に制作を任せてくれたele-king books/P-VINEの方々には感謝の極みです。
『PROG MUSIC Disc Guide』掲載のバンド/盤の8〜9割は私のほぼ独断のセレクトで決めており、言うなればこの本の内容は単に「ぼくのかんがえたさいきょうの現代プログレッシヴロック」に過ぎませんが、さらに加えると、この本自体が「さいきょうの現代プログレッシヴロック本」でもあります。執筆に参加いただいた全員が、(この人に書いてほしい)と私が強く感じた方々だからです。私的な話になるけれど、ガキんちょの頃にその人の文章を読んで(音楽を語っている活字っておもしろいな!)と感じた方に対してまさか自分が文章を依頼する立場になるとは…。この感慨深さは何にも代えがたい。
『PROG MUSIC Disc Guide』発売にあたっては大きな不安もありました。一つはまさにコロナ禍の中で、人々の心に余裕がない状況下というタイミングだったこと。3月時点ではまだ皆が、先が見えずしんどい日々の中にあり、新しい音楽を積極的に聴いてみようという気分じゃなかったと思います。少なくとも私はそういう雰囲気を強く感じていましたし、私自身も正直そうでした。人間は精神的なしんどさを感じると、自分に馴染みの深いものを求めそこに安心を見出すようになる。そのような時代の中で果たしてこんな本が受け入れられるのだろうか?という疑念は強く感じていました。その疑念はコロナ禍が完全に収まってはいない今も残っていますが、一方で世の中的には(これまでと比べると)多少なり余裕が生まれ始めてきているとも思うので、気が向いたらぜひこの本を眺めてみていただければ幸いです。
もう一つが、従来のプログレッシヴロック・ファンに受け入れられるのか?という点。この本が60年代70年代から続くこれまでのプログを軽視しているわけではまったくないこと、むしろそこからの歴史の地続き感を重要視していることは書籍の前書きでも記しましたが、とは言えいかんせん尖った印象を与えるディスクガイドであることは確かで、(拒絶されちゃうかもなあ)という覚悟もぶっちゃけありました。仮に拒絶されても「知ったこっちゃねえ」で済ませればいいのですが、そこまで肝が座ってもいませんし。
しかしながらこの点に関しては、全世界のマニアックなロックを紹介する素晴らしき冊子『不思議音楽館 ORANGE POWER』と書籍発売前後から連携させていただき、多大なるお力添えをいただいたこともあってありがたくも無事解消されました。主宰の井上さんはじめ、『不思議音楽館』に携わっている皆さま全員に深く御礼申し上げます。
本を制作した動機の話に戻りますが、私は自分の好きなバンドのライヴを日本で観たいと強く思っています。好きなバンドを紹介してファンを増やす→バンドを盛り上げる→日本において需要があることをアピールする→日本でのライヴを実現させる→桶屋が儲かる…的な発想です。
「好きなバンドが自分と同じ時代を生きている」というのは本当に素晴らしいことです。ZEPでもDEEP PURPLEでもBLACK SABBATHでもRAINBOWでもEL&PでもBON JOVIでもなんでもいいのですが、それぞれの全盛期、バンドとして最も脂が乗った時期をタイムリーに生で目撃している方々が私は羨ましくてしょうがない。そして今まさに脂が乗った時期を迎えている、自分が好きな現代プログバンドのライヴを体験して、「同じ時代に生きている」感覚を得たいのです。
これはもう何度も書いてますが、2017年にバルセロナでBe Prog! My Friendフェスを観たときにそれを強く実感しました。ついさっきまでAnathemaやDevin Townsendで大合唱していた観客が、Jethro Tullでも同じテンションで歌い踊り、そしてLeprousの新曲でも大合唱し頭を振っている。しかも老若男女問わず幅広い層が。あの光景には人生で5本の指に入るほどの感動を覚えました。いつかあの「普段の光景」を日本でも定着させたい。それが密かな夢です。
私は極論、音楽評論家やライターなど別に存在しなくてもいいと思っています。自分がそういう仕事でお金をいただいている身で言うのもアレですが、音楽そのものとバンド/アーティスト、そしてファンがそこにいればいい。偉大なのは音楽とバンドとファンであり、評論家やライターやメディアの存在は別に偉くもなんともないのです。
ただ、それでもなお、ライターやメディアに何かしらの意義をもたせるとするならば、それは「音楽やバンドの魅力を広く、深く伝える」「音楽の楽しみ方について、新たな観点を提供する」ことだと思います。
MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINEのシンさんが先日素晴らしいツイートをなさっていました。
まさにこの「ストーリー」、バンドや音楽の裏にある歴史・系譜・今後の繋がりを可視化して、バンド単体もしくは音楽ジャンルの魅力を増幅させる。そういった意識が必要とされているのではと思います。ありがたいことに私も最近ではちらほらインタビュー記事を担当させていただいておりますが、アーティストから魅力的なことばを引き出すにはどうすればいいか、今後より勉強と研鑽、そして音楽への理解が必要だなとシンさんのツイートを見て感じました。
てな感じでとりとめのない2022年の始まりでございます。
なんつーか、上に書いたようなことは本来『PROG MUSIC Disc Guide』発売直後ぐらいにまとめるべきなんですが、『PMDG』制作で精根尽き果てたのと、ありとあらゆること(ライター業というより主に本業の方)が忙しかったのもあってこんなタイミングになりました。すいませんね。
いやマジで3月から9月ぐらいまでの記憶がまったくないです。そういえばDOMMUNEにも出たんだったなあ…。自分がDOMMUNEに出演したなんて信じられないな…。宇川さんとお話できたのは本当に光栄だったし、今まで自分が出会ってきた中で間違いなく、(あらゆる点において)最も頭のいい人だと思いました。あの人ともっと音楽トークしたいな。
ということで2022年もおもしろい音楽をどんどん発見していきたいですし、おもしろいことをやっていきたいです。年が明けて早くも超おもしろい&意義深い&ワクワクするお話を1件いただいているので、全力で臨む所存でございます。noteの更新頻度も上げなきゃ。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。