第59回理学療法士国家試験 午前56-60の解説
息子は第57回の国家試験に不合格で、第58回の国家試験に合格しました。昨年は第58回の試験問題が手元にありましたので、息子の合格の後、恩返しのつもりで国家試験の解説を投稿しました。
第59回は息子は受験していないので問題が手元にはありません。毎年厚労省から問題が公表されるのは5〜6月ごろでかなり遅いです。そこから出版社も対策本を作るので、対策本が手に入るのは夏前になってしまいます。またクエスチョンバンクなどの対策本は国試問題のすべてを網羅している訳ではありません(ごく一部です)。
昨年、国試対策の問題集を作って投稿したところ、多くの方に利用していただきました。今回、投稿を利用していただいた受験生(合格ラインを超えたらしい)の一人にお願いして、国家試験問題を入手する事ができましたので、昨年同様、早めに国家試験問題と解説を投稿したいと思います。
理学療法士ではありませんが、医師の立場から解説をします。これは違うよという所があればコメントいただくと幸いです。
(56) 反回神経で正しいのはどれか。(59回午前56)
1.味覚を伝える
2.交感神経線維を含む
3.横隔神経から分枝する
4.輪状甲状筋を支配する
5.左側の走行は右側よりも長い
【答え】5
【解説】反回神経は迷走神経の分枝で、内喉頭筋(声帯筋など)を支配します。
1.味覚を伝える:×
→声帯筋を支配します。反回神経麻痺で声帯が麻痺するので嗄声になったりします。
2.交感神経線維を含む:×
→迷走神経なので副交感線維です。
3.横隔神経から分枝する:×
→迷走神経から分枝します。
4.輪状甲状筋を支配する:×
→反回神経は声帯筋を支配します。内喉頭筋のうち、輪状甲状筋だけは迷走神経の分枝の上喉頭神経支配です(ひっかけ)。輪状甲状筋が収縮すると甲状軟骨が前に倒れて、声帯が緊張し、声が高くなります。
なお、内喉頭筋は咽頭内にある甲状軟骨・輪状軟骨・披裂軟骨をつなぐ以下の筋肉群を指します。
声帯筋や内側・外側甲状披裂筋は声帯の緊張(音の高低)に関連します。
以下のように外側輪状披裂筋や横披裂筋は声門を閉じる働きがあり、後輪状披裂筋は声帯を開く働きがあります。
輪状甲状筋以外はすべて反回神経支配です。
5.左側の走行は右側よりも長い:○
左反回神経は大動脈弓の下をくぐって上行するので左側よりも長いです。この位置関係から弓部大動脈瘤が大きくなると、左の反回神経麻痺から嗄声を生じる事があります。臨床的には嗄声から弓部大動脈瘤が発覚する事がしばしばあります(臨床問題として出るかも?「脳のCT・MRIでは異常はないが最近嗄声が出てきた。次に行う検査は?→胸部X線やCT」。
(57) 左右一対あるのはどれか。2つ選べ。(59回午前57)
1.総頚動脈
2.椎骨動脈
3.脳底動脈
4.腕頭動脈
5.前交通動脈
【答え】1・2
【解説】
下図のように総頚動脈と椎骨動脈は左右に一対ありますが、腕頭動脈は右のみにあります。
また脳循環では前交通動脈と脳底動脈は中央に1本ずつしかありません。
1.総頚動脈:○
2.椎骨動脈:○
3.脳底動脈:×
4.腕頭動脈:×
5.前交通動脈:×
(58) 呼吸器で正しいのはどれか。(59回午前58)
1.気管支は下気道に含まれる
2.輪状軟骨は弾性軟骨である
3.気管の長さは約20cmである
4.咽頭の下端はC8の位置にある
5.気管の延長軸に対する分岐角度は左気管支より右気管支の方が大き
い
【答え】1
【解説】
1.気管支は下気道に含まれる:○
→上気道:鼻腔・咽頭・喉頭
下気道:気管・気管支・細気管支
2.輪状軟骨は弾性軟骨である:×
→輪状軟骨は硝子軟骨、喉頭蓋軟骨は弾性軟骨
3.気管の長さは約20cmである:×
→気管の長さは10〜12cm
4.咽頭の下端はC8の位置にある:× →咽頭の下端は喉頭なのでC6
5.気管の延長軸に対する分岐角度は左気管支より右気管支の方が大き
い:×
→分岐角度は右気管支の方が小さいので、誤嚥は右肺に多い
(59) 視覚器で誤っているのはどれか。(59回午前59)
1.虹彩と水晶体の間を前眼房という
2.眼房水は毛様体上皮から産生される
3.眼房水は強膜静脈洞へ吸収される
4.毛様体筋が収縮すると毛様体小帯は弛緩する
5.毛様体小帯が弛緩すると水晶体は厚くなる
【答え】1
【解説】
1.虹彩と水晶体の間を前眼房という:×
角膜と虹彩の間を前眼房といい、虹彩と水晶体の間を後眼房といいます。
2.眼房水は毛様体上皮から産生される:○
眼房水は虹彩の裏(後房)にある毛様体から分泌され、虹彩の裏面と水晶体の表面を洗い、瞳孔から虹彩の前面(前房)に出て、虹彩の表面と角膜の裏面を洗う役割を果しています。
3.眼房水は強膜静脈洞へ吸収される:○
虹彩と角膜を洗い終えた眼房水は角膜と虹彩の間にある房水濾過装置である線維柱帯を通って強膜静脈洞『シュレム管』に入り、静脈へ吸収されていきます。
4.毛様体筋が収縮すると毛様体小帯は弛緩する:○
4と5をまとめて下で説明します。
5.毛様体小帯が弛緩すると水晶体は厚くなる:○
4と5をまとめて下で説明します。
毛様体とレンズの厚さの関係は少しイメージしずらいかもしれません。これについてはしっかり確認しておきたいところです。ネットでもわかりやすく説明してくれているところはないので、わかりやすく説明します。
遠近の調節は目の水晶体(レンズ)の厚みを厚くしたり、薄くしたりして調節します。その役割は水晶体の周りにある毛様体がになっています。毛様体は筋肉(毛様体筋)でできており、水晶体を円周状に取り囲み、水晶体とはチン小体(毛様体小帯)によって結合しています。
では遠近を調節する場合には毛様体と水晶体の関係はどうなっているでしょうか?下図を見てください。これについては毛様体筋の筋の走行がどうなっているかという事を正しく知っておかなければなりません。
よくあるのは、毛様体筋線維が輪に対して垂直に(放射状に)走行しているようなイメージをもってしまう事です。
もし、下図のように、輪に対して筋線維が垂直に走行していると、筋が収縮すると、中心の輪が外(外は周囲組織により固定されています)に向かって引っ張られる事になり、中心の輪が大きくなります。すると、水晶体が薄くなって、遠くが見えやすくなるという事になりますが、実際は反対です。
実は、毛様体筋が、中心の輪に対して円周状に筋繊維が走行しています【重要】。この場合、筋が収縮すると、輪が小さくなるように働き、中心の輪が小さくなります。その結果、レンズが厚くなり、近くが見えやすくなります。
それを踏まえてネットでのきれいなイラストを見ましょう。下図では毛様体筋の走行が輪に対して平行(円周状)に描かれていますね。
下図左で「近くを見る時」は毛様体筋が収縮する結果、中心の輪が小さくなり、チン小体が緩んで、水晶体が厚くなります。一方、下図右で「遠くを見る時」は毛様体筋が弛緩してゆるむ結果、中心の輪が大きくなり、チン小体が緊張して水晶体が薄くなります。
わかっていただけましたか?一度理解すると、この話は暗記する必要はありません。この話は正しく理解していないと「あれ?どっちだったけっ?」となるので、国試でも突かれやすいポイントなんです。みなさんは今回の説明でばっちり理解したと思います。
60) 右上肢を右外側より見た図を示す。腕橈骨筋のすぐ尺側で矢印部を走行する筋はどれか。(59回午前60)
1.示指伸筋
2.小指伸筋
3.総指伸筋
4.長橈側手根伸筋
5.長母指伸筋
【答え】4
【解説】
1.示指伸筋:×
→尺骨(骨幹部)から起始します
2.小指伸筋:×
→上腕骨外側上顆から起始しますが、小指なので、尺側を走行します
3.総指伸筋:×
→上腕骨外側上顆から起始しますが、橈側尺側の中間を走行します
4.長橈側手根伸筋:○
→上腕骨外側上顆から起始し、橈側を走行します
5.長母指伸筋:× →尺骨(骨幹部)から起始します
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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