第58回理学療法士国家試験 午後11-15の解説
息子は57回の国試では不合格で、1年間一緒に勉強し、58回の国試になんとか合格する事ができました。一緒に勉強したというのは、私が医師の立場でいろいろ教える事ができたという事です。理学療法士の専門ではありませんが、医師である事から、それなりに知識もありますので、恩返しの意味を込めて、解説やコメントをしたいと思います(いわゆる理学療法士出身の予備校講師や塾の先生と比較して詳しいところもありますが、詳しくないところもありますのでご容赦ください)。もしこれは違うよという所があればご連絡いただければ幸いです。
11.80歳の男性。脳梗塞による右片麻痺。Brunnstrom法ステージは上肢II、下肢III、下肢の随意運動は分離運動がわずかに認められる程度である。歩行はT字杖と短下肢装具を使用して自宅内移動が可能である。ADL指導で最も適切なのはどれか。(58回午後11)
【答え】1
【解説】
ADLの問題です。脳梗塞の患者です。Brunnstrom 下肢IIIは基本共同運動ですが、分離運動(ステージIV)がわずか出てきている状態です。要はまだ下肢が不自由だという事で深く考える必要はありません。問題では右下肢が不自由なときのADL指導を問う問題になります。
1.○
ベットからの起き上がりでは、麻痺側で起き上がると、麻痺側の足で荷重して支える事になり、起き上がりが不安定になり転倒しやすくなります。したがって、起き上がりでは、健側で荷重して立ち上がるようにします。
2.×
階段昇降では、麻痺側の足は伸展で支える事はできると考えてください。階段昇降では、下肢をいい感じに曲げて調節する事の方が難しいです。
階段を上るときは、下肢を曲げるのは健側から行います。
3.×
階段昇降では、麻痺側の足は伸展で支える事はできると考えてください。階段昇降では、下肢をいい感じに曲げて調節する事の方が難しいです。
階段を降りる、下肢を曲げる方を健側とし、降りる方の足は伸ばすだけなので麻痺側とします。
4.×
衣服を着るには、下肢をいろいろ微調整しなければなりません。健側から着ると、最後の微調整が麻痺側だと微調整しにくいです。まず、麻痺側から衣服を着て、健側で最後の微調整をする方がやりやすいです。
5.×
入浴時に足をまたいでお湯に入るのは、健側で行います。なぜなら、麻痺側ではお湯の温度がよくわからない場合があるからです。お湯が熱すぎても、麻痺側では感覚がにぶっていてわからない場合は、やけどをきたす恐れがあります。健側でまずお湯に入って、お湯の温度を確かめるようにします。
なお54回午前12に類似問題が出ています。上肢と下肢の違いですが、ほぼ同じ内容の問題ですね。
……………………………………………………………………………
70歳の男性。脳梗塞による右片麻痺。Brunnstrom法のステージは上肢Ⅱ、下肢Ⅲ。下肢の随意運動は共同運動がわずかに認められる程度である。歩行はT字杖にて室内は自立している。ADL指導で正しいのはどれか。2つ選べ。(54回午前12)
答え:1と3
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12.標準的な体格の成人における松葉杖の調整で正しいのはどれか。(58回午後12)
【答え】3
【解説】
松葉杖のチェックアウトの問題ですね。車椅子やT字杖、松葉杖のチェックアウトは重要ですね。
松葉杖を用いる場合はT字杖と同じように、杖先を足より先15cm、外15cmのところにおいて調節します。肘の角度は軽度屈曲30°程度曲げて、腋窩当ては、腋より3〜4横指程度あけるようにします。腋窩部には神経や血管が密集しているので圧迫をさけるためです。松葉杖の腋窩当ては、それに腋の体重をかけるのではなく、上腕と腋で挟むようにします。また握り手の高さは大転子の高さに合わせます。
13.45歳の男性。身長155cm。体重60kg。3METs程度の歩行速度で1時間歩いた場合の消費カロリーに最も近いのはどれか。ただし。ウォーキングで消費するカロリー(kcal)を1.05×METs×時間(H)×体重(Kg)とする。(58回午後13)
1.190kcal
2.230kcal
3.270kcal
4.310kcal
5.350kcal
【答え】1
【解説】
単純な計算問題です。示された計算式に数字を代入するだけです。身長は関係ありません。
(消費カロリー)=1.05×3METs×60kg×1時間
=1.05×3×60
=1.05×180
=189
答えは1ですね (^_^;)。
みなさん、ちゃんと最後まで計算しましたか?
ははは。
そんなことしないでも良いです。
えっ?なぜって?
国家試験とは時間との戦いです。少しでも時間を節約しなければなりません。息子は国家試験前11月の模試では、合格判定でしたが、直前1月の模試では合格圏外の成績でした。その時どうしてそうなったのか分析してみると、計算問題に時間をかけ過ぎて時間を無駄に消費してしまっていました。その結果、のこり80問の1点問題を1問1分のペースで解かなければならなくなったようです。これでは、普段正解できる問題もケアレスミスで落としてしまていました。3点問題の大きな落とし穴は計算問題です。これで時間を削り取られるのは絶対に避けなければなりません。
国家試験本番での息子との約束は、
「計算問題は、すぐにできると思うような問題ならやって良い」
「考えないとできないような問題なら後回し(最後)にしよう」
「×1.05は計算しない」
でした。
この問題はまさに3番目の「×1.05は計算しない」ルールです。「×1.05は計算しない」とはどういう事でしょうか?
それは「×1.05を計算するのは時間の無駄」という事です。ある数字に×1.05してもほとんど数字が変わりません。今回も問題ではどうでしょうか?180に×1.05しても189にしかなりません。
高校や大学の入試では、正確な数字を出さなければなりません。しかし理学療法士の国家試験の場合は、計算問題の多くが「最も近い数字」を選ぶ問題となっています。
今回の場合、運動時間は1時間なので、あとは3METsと体重60kgをかけて180を計算すれば良いだけです。3×60ですから数秒でできたはずです。すると出てきた180という数字と選択肢を見比べて、190が一番近いです。もし迷うような数字が出てくれば、180よりちょっとだけ大きい数を選べば良いだけです。
いかがでしょう?1.05を計算するだけで、すくなくとも20〜30秒は消費してしまいませんでしたか?そんなことしても無駄なだけなのです。ためしに自分で時間を計測しながら問題をやってみてください。時間の違いに唖然としますから。
ですから、国試の計算ルール「×1.05は計算するな」です。
こんな事は真面目な国試予備校とか塾では教えてくれませんよね。しかし、国試テクニックとしてはとっても大事な事です。なぜなら、時間配分は国試にとって、とっても重要ですから。
ちなみに時間を削られる極みのような問題をお示しします。
…………………………………………………………………………….
体重60kgの人が速度70m/分で平地を歩行した場合、80kcalのエネルギーを消費するのに必要な歩行時間はどれか。ただし、酸素消費量(ml/min/kg)=歩行速度(m/min)×0.1+3.5とする。(48回午後69)
1.5分 2.30分 3.60分
4.90分 5.120分
……………………………………………………………………………
いかがでしょうか?実際にこのような問題が国試(3点問題になります)に出てきたら、相当自信がある場合を除いて、順番通りにやってはいけません。このような問題は「考えないとできないような問題なら最後にしよう」
です。これは国試委員に受験生が時間を消費するように仕掛けた罠なのです。この問題パターンは時間を大幅に消費するパターンなので、今回の国試では、このパターンが出てきた時のために、少し対策をしていました。
問題文の「酸素消費量(ml/min/kg)=歩行速度(m/min)×0.1+3.5」というのはMETsの事なのです。
ここで、METsが歩行速度からも計算できるという事なので、問題文のように70m/minでのMETsを計算すると
酸素消費量=70×0.1 + 3.5 =7+3.5 =10.5 (ml/min/kg)となります。
1METsは3.5ml/min/kg ですから、10.5÷3.5=3METsです。
これ体重計算ないですよね?どんな体重でも歩行速度が70m/分は3METsなのです。これ、国試の本番で出てきた時に冷静にすばやく計算できますか?
息子と私の結論は、たぶんできない…でした。問題文を読んで、問題を理解して、上の計算をするだけで1分以上を簡単に消費していました。
なので、歩行70m/分は3METsと覚えようという結論になりました。なんとなく7+3=10とか、7:3分けみたいに覚えようと直前に覚えるようにしました。ちなみに下のように、2METsは35m/分、4METsは105m/分です。
計算が難解なので、出題される場合は70m/分でしか出題されないと割り切りましたが、おぼえようと思えば、70m/分が3METsで、その半分の35m/分が2METs、70に35を足した105m/分が4METsぐらいは、国試直前の集中している時には詰め込めると思います。なので、酸素消費量(ml/min/kg)=歩行速度(m/min)×0.1+3.5と歩行速度が出てきたら、70m/分が3METsで、35m/分が2METs・105m/分が4METsと計算しないで攻略するのです。
では問題を解きます。体重60kgなので、3METsの運動を1時間した場合、(消費カロリ)=1.05×METs×体重×1時間で、3×60(kg)=180kcalです。当然1.05は計算しません。
1時間運動で180kcalですので、80kcal消費するのにどれくらいの時間がかかるでしょうか?
選択肢をじっと見て、2の30分になりますね。
これ、まともにやると、相当時間がかかります。問題を理解するのに1分以上、計算も含めて簡単に2分オーバーしてしまいます。でもこの問題だけは問題パターンを覚えてください。70m/分=3METsと覚えていれば、数秒で180kcalまで計算できて、答えを出すのも30秒以内でできます。
とにかく、ここで皆さんに伝えたいのは、国試では計算問題に注意してくださいという事です。出題委員は時間を消費させようと罠をはっていますので、無駄に時間を削られないように対策をとっておいてください。48回午後69のような難問は、対策をとっておく必要があります。最初からまともにやると痛い目に遭いますので、くれぐれも注意してください_m( )m_。
14.68歳の男性。5年前にParkinson病と診断された。現在、両手に安静時振戦、両側上下肢に中等度に筋強剛を認める。「最近、歩いているときに足が出にくく、バランスを崩して転びそうになることが増えてきた」との訴えがある。日常生活は自立しているが、屋外歩行時には転倒への不安があるため外出を控えている。この患者のHoehn&Yahrの重症度分類ステージはどれか。(58回午後14)
1.I
2.II
3.III
4.IV
5.V
【答え】3
【解説】
Parkinson病のHoehn&Yahrの重症度分類ステージは頻出問題ですね。これは国試までに絶対に覚えておかなくてはいけません。
[病状が片側] - [病状が両側] - [姿勢反射異常出始め] - 「姿勢反射異常進行]
- [歩行困難]で覚えやすいと思います。介助の程度についてはIIIとIVが部分介助、Vが全介助です。
国試では姿勢反射異常が出るIIIかIVで出題される場合がほとんどです。
問題文では「最近、歩いているときに足が出にくく、バランスを崩して転びそうになることが増えてきた」と、まさに姿勢反射異常が出始めてきたという事なのでステージIIIという事になります。
パーキンソン病の重症度評価については58回午前32でも解説したようにUPDRSも一緒に覚えておいてほしいです。詳細は58回午前32の解説を参照してください。
15.58歳の男性。脳卒中による左片麻痺。Brunnstrom法ステージ上肢IV、手指III、下肢IV。麻痺側の位置覚検査を行う際の患者への指示で適切なのはどれか。(58回午後15)
1.「掌を上に向けて、両腕を水平に保ってください」
2.「左腕を動かしますので、右腕でまねをしてください」
3.「左足の親指を動かします。何回動いたか答えてください」
4.「右膝を曲げますので、左脚を同じように曲げてください」
5.「左手の親指が手の甲の方へ動いたら“上”、掌の方へ動いたら“下”と答
えてください」
【答え】2
【解説】
評価学の関節位置覚についての問題です。「Brunnstrom法ステージ上肢IV、手指III、下肢IV」などと書いていますので、上肢も下肢も分離運動がでてきている状態ですね。ただし問題は位置覚の検査方法を聞いているので、脳卒中の重症度はあまり関係ありません。
この問題では位置覚の検査方法について問われていますが、位置覚というものは、(純粋な)位置覚という検査と、運動方向を感じる運動覚、関節の位置を知る関節位置覚など、どれも通常は位置覚と表現されるものがあります。まじらわしいので、以下、臨床で位置覚と呼ばれるものについてまとめます。
【1】(純粋な)位置覚
手や足の関節の位置がどこにあるのかを感じる感覚を位置覚といいます。大きく分けて、再現検査と模倣検査があります。
再現検査は、被験者を閉眼させて、検査側の上下肢を他動で操作して止めておき、次に一旦ニュートラルポジションに戻した後、自分の上下肢を覚えた位置にもどせるかテストする方法です。ただし、麻痺がある四肢ではいくら位置を覚えていても、元の場所にもどせないという事があります。
模倣検査は、被験者を閉眼させた状態から、検査したい方(麻痺側)の上下肢を他動で動かし、その後、非麻痺側(健側)の上下肢を同じ位置に持ち上げるように指示するものです。この場合、麻痺側は検者によって持ち上げあれているので麻痺があっても検査ができ、麻痺側の位置覚が機能しているかどうかがわかります。
【2】運動覚
運動覚は、四肢の関節を他動的に動かして、その動きがわかるか、とくに運動の方向がわかるかを検査する方法です。指を動かす時には手の指では示指のPIP関節または母指のIP関節、足の趾では母趾のIP関節の横を把持して、上または下に動かして検査します。厳密には運動覚ですが、この検査方法も位置覚検査と呼ばれる事があります。例えば、SIASでの上肢や下肢の位置覚と言われるものは、この運動覚で検査されています(慶応大学医学部リハビリテーション教室 SIAS 脳卒中機能障害評価法 [https://www.keio-rehab.jp/efforts/clinical_evaluation_development/sias/]
なお、指の横でなく、下図のように指の背面と腹の部分で把持すると、表在感覚で上に曲げたか下に曲げたかわかるらしいのでダメらしいです。
【3】関節位置覚
関節位置覚は深部感覚で名前のように位置覚と呼ばれる事があります(関節定位覚とも呼ばれます)。この検査には母指探しという方法がよく用いられます。母指探しは上肢全体の位置感覚の障害を検査する方法で、空間で手や母指の位置がわかるかどうか調べるテストです。下図のように、閉眼で検査する手の母指を立てた状態で、検者が被験者の手を持ってぐるぐる回して(上下にも動かします)ある位置で静止させて保持します。その後、反対の手で親指をつかませるという検査法です。この検査はあてずっぽうでは当てられません。
検査方法は参照している動画をみた方がイメージしやすので、是非動画を見てください。
さて、位置覚について、まとめたところで選択肢をみていきます。
1.「掌を上に向けて、両腕を水平に保ってください」:×
これは上肢の片麻痺を検出するバレー徴候の検査です。軽度の麻痺がある場合、麻痺側上肢は回内し、次第に降りてきます。
2.「左腕を動かしますので、右腕でまねをしてください」:○
位置覚のまとめのところで解説したように、模倣検査が純粋な位置覚の検査になります。
3.「左足の親指を動かします。何回動いたか答えてください」:×
この検査では位置覚のうち運動覚の検査みたいな感じです。しかし運動覚の検査では通常左足の親指を動かす場合、上に動いたか下に動いたかを答えてもらうようにします。何回動いたかは位置覚でなくても表在感覚で感知する事ができますので適切ではありません。
4.「右膝を曲げますので、左脚を同じように曲げてください」:×
これは2と同様の模倣テストですが、基準となる足が、健側の右膝となっています。この症例では左脚に麻痺がありますので、位置覚が正常でも、左膝を右膝と同じように曲げられない可能性があるので、位置覚の検査としては適切ではありません。
5.「左手の親指が手の甲の方へ動いたら“上”、掌の方へ動いたら“下”と答えてください」:△
これは運動覚を調べる検査ですので位置覚検査としては◯なのですが、なぜ国試では×となったのでしょうか?位置覚のまとめでも書いたように運動覚を位置覚という場合もありますので、○として良いと思います。
ただ、×を言う根拠としてもう一つ考えられるのは左手の検査肢位です。問題文では回内位・中間位・回外位のどの肢位が明示されていません。この場合、回内位(手背が上を向き、手掌が下を向いている)であれば、手の甲へ動いたら上、掌の方へ向いたら下で良いですが、中間位や回外位では方向が異なってしまいます。ひっかけの選択肢だったのかもしれません。
しかし、「左手の親指が手の甲の方へ動いたら“上”、掌の方へ動いたら“下”」というのは単なるルールの取り決めとすると、“上”や“下”という方向は間違いとは言えません。単なるルールですから。
したがって、この選択肢は運動覚の検査なので位置覚ではないという事で×としているのでしょう。しかし、何度も言いますが、運動覚も位置覚と呼ばれますのでこの選択肢も○のはずです。この意味で、この問題は不適切問題だと思います。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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