第59回理学療法士国家試験 午後96−100の解説
息子は第57回の国家試験に不合格で、第58回の国家試験に合格しました。昨年は第58回の試験問題が手元にありましたので、息子の合格の後、恩返しのつもりで国家試験の解説を投稿しました。
第59回は息子は受験していないので問題が手元にはありません。毎年厚労省から問題が公表されるのは5〜6月ごろでかなり遅いです。そこから出版社も対策本を作るので、対策本が手に入るのは夏前になってしまいます。またクエスチョンバンクなどの対策本は国試問題のすべてを網羅している訳ではありません(ごく一部です)。
昨年、国試対策の問題集を作って投稿したところ、多くの方に利用していただきました。今回、投稿を利用していただいた受験生(合格ラインを超えたらしい)の一人にお願いして、国家試験問題を入手する事ができましたので、昨年同様、早めに国家試験問題と解説を投稿したいと思います。
理学療法士ではありませんが、医師の立場から解説をします。これは違うよという所があればコメントいただくと幸いです。
(96) うつ病と比較した場合の双極性障害の特徴はどれか。(59回午後96)
1.発症年齢が低い
2.生涯有病率が高い
3.遺伝的素因が少ない
4.自殺のリスクが低い
5.生涯有病率の男女差が大きい
【答え】1
【解説】
久々にうつ病の一般的情報を問う問題がでました。52回午前96以来です。本来、このような問題を国試問題としては出題してもらいたいものです。
1.発症年齢が低い:○
→双極性障害は遺伝的素因がある=発病年齢が低いと考えてください。
2.生涯有病率が高い:×
→(単極性)うつ病の方が有病率は高いです。うつ病は10人に1人、双極性障害は100人に1人ぐらいです。
3.遺伝的素因が少ない:×
→うつ病は遺伝的素因が少ないですが、双極性障害は遺伝的素因が多いと言われています。
4.自殺のリスクが低い:×
→双極性障害はうつ相で落ち込みが激しく、うつ病よりも自殺のリスクが高いです。
5.生涯有病率の男女差が大きい:×
→うつ病は女性に多い傾向がありますが、双極性障害には性差はないと言われています。
(97) せん妄で正しいのはどれか。(59回午後97)
1.認知機能は保たれる
2.高齢は危険因子となる
3.睡眠覚醒リズムは保たれる
4.症状の経過は不可逆的である
5.夜間に起こることはまれである
【答え】2
【解説】
せん妄とは「異常な精神状態」を指すものです。身体的な負担がかかった時に生じることが多く、入院患者さんの2~3割に起こると言われています。夜間に起こる事が多いので夜間せん妄と呼ばれたり、アルコール離脱の場合には振戦せん妄がおこります。
1.認知機能は保たれる:×
→せん妄では精神状態は混乱し、認知機能は著しく低下します。
2.高齢は危険因子となる:○
3.睡眠覚醒リズムは保たれる:×
→せん妄によって昼夜逆転現象が起こりますし、不眠による昼夜逆転がせん妄の原因ともなります。
4.症状の経過は不可逆的である:×
→症状は可逆的です。
5.夜間に起こることはまれである
→夜間に起こる事が多く、夜間に起こるせん妄を夜間せん妄と呼びます。
(98) 統合失調症の陰性症状はどれか。2つ選べ。(59回午後98)
1.意欲低下
2.感情の平板化
3.幻覚
4.妄想
5.連合弛緩
【答え】1・2
【解説】
統合失調症の症状を問う問題です。このような基本的知識を問う問題は国試問題として適切で、良問と言えます。国家試験は重箱の隅をつつくような出題ではなく、王道を問う問題にすべきですね。
統合失調症でみられる陽性症状の「陽性」とは「本来あるはずのないものが現れる」という意味で、症状としては幻覚や妄想などがあります。陽性症状は薬物よるコントロールが可能の場合が多いです。
一方、統合失調症でみられる陰性症状の「陰性」とは「本来あるはずのものがない」という意味で、症状としては感情の平板化や意欲の減退、集中力・持続力の低下などがあります。陰性症状は薬物に対する反応が乏しく、陰性症状が強いと予後が不良と言われています。
1.意欲低下:○
2.感情の平板化:○
3.幻覚:× →陽性症状
4.妄想:× →陽性症状
5.連合弛緩:× →陽性症状
(99) 自閉症スペクトラム障害児が母親の手をとり目的の物に持っていく行動はどれか。(59回午後99)
1.常同運動
2.運動チック
3.オウム返し
4.クレーン現象
5.タイムスリップ現象
【答え】4
【解説】
1.常同運動:×
→自閉症では色々なものの変化を嫌がる傾向にあります。それがひどくなり、変化を嫌がって同じ事を繰り返すようになる事を常同症といいます。
2.運動チック:×
チックは、まばたきや咳払い、首振りなどの動きが突然現れ、それが繰り返される症状です。チックの症状は、「運動性チック」と「音声チック」の大きく2つに分けることができます。
ビートたけしのような動きをするのは運動性チックと呼ばれ、突然奇声を発するのは音声チックと呼ばれます。
チック症には、ADHD(注意欠如・多動性障害)や自閉スペトラム症(自閉症、アスペルガー症候群など)などの発達障害を合併することもあります。
3.オウム返し:×
→自閉症の子は言葉が遅れることがあります。自閉症スペクトラム(ASD)などの発達障害がある子どもたちが示す特有の行動で、他人が言った言葉をそのまま、あるいは少し時間を置いてから繰り返すことを言います。言葉の意味を理解しているかどうかにかかわらず、発されることが多いです。簡単には「オウム返し」と表現されますが、自閉症でみられる現象は厳密には「エコラリア」と言います。
4.クレーン現象:○
クレーン現象は、保護者など他人の手を取って物を指したり、取らせたりしようとする行為のことです。物をつり上げるクレーンに似ている事から名付けられました。
自分の意思を伝えるための行動で、1歳前後で言葉がうまくない子どもにあらわれやすいです。言いたいことが話せない、思っていることが伝わらない、うまくいかない、想像通りに物事を進められない、自分にかまって欲しいという場合に、クレーン現象が生じやすいです。ASD(自閉スペクトラム症)では言語的に要求をしたり指さしをすることが苦手なことから、クレーン現象が見られることがあります。また自閉症でなくても見られる事があります。
5.タイムスリップ現象:×
→タイムスリップ現象は自閉症の児童・青年が突然に、時として数年以上間の出来事を思い出し、その想起した内容を、あたかもそれがつい先程のことのように対応する現象である。フラッシュバックのように心的外傷によるPTSDとは事なります。
(100) 振戦せん妄で正しいのはどれか。(59回午後100)
1.生命への危険性は低い
2.羽ばたき振戦がみられる
3.ベンゾジアゼピン系薬を使用する
4.飲酒停止後24時間以内に多くみられる
5.アルコール血中濃度の上昇に伴って生じる
【答え】3
【解説】
振戦せん妄はアルコール後期離脱症候群でみられます。
1.生命への危険性は低い:×
→生命への危険があります。重症化するとけいれんをきたします。
2.羽ばたき振戦がみられる:×
→羽ばたき振戦は肝性脳症の際に見られます。
3.ベンゾジアゼピン系薬を使用する:○
4.飲酒停止後24時間以内に多くみられる:×
→振戦せん妄はアルコール離脱後約72時間でみられ、数日間持続します。振戦のみの早期離脱症候群は離脱後24時間以内にみられます。
5.アルコール血中濃度の上昇に伴って生じる:×
→アルコール離脱に伴う血中濃度の低下に伴って生じます。
(おまけ)羽ばたき振戦について詳しく知りましょう。
羽ばたき振戦とは、肝性脳症の場合、下図のように肩屈曲・肘伸展・前腕回内位で、手関節背屈位を指示した場合に、手関節背屈位を維持できない事を言います。
維持できずに手関節が下がって掌屈位になってしまったら、患者はふたたび手関節背屈をします(できるのはできる)が、維持できずにふたたび下がってしまいます。
このような動きが鳥が羽ばたいているように見えるので羽ばたき振戦と呼ばれます。ただし上記のように厳密にはそのような姿勢を維持できないのであって、振戦ではありません。
振戦ではないので、この現象を羽ばたき振戦と呼ぶのを避ける医師も多く、
アステリキネシスとも呼ばれます。またこの現象は陰性ミークローヌス現象です。
以下のYouTubeがとてもわかりやすいので、是非一度見てください。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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