第58回理学療法士国家試験 午前46-50の解説
息子は57回の国試では不合格で、1年間一緒に勉強し、58回の国試になんとか合格する事ができました。一緒に勉強したというのは、私が医師の立場でいろいろ教える事ができたという事です。理学療法士の専門ではありませんが、医師である事から、それなりに知識もありますので、恩返しの意味を込めて、解説やコメントをしたいと思います(いわゆる理学療法士出身の予備校講師や塾の先生と比較して詳しいところもありますが、詳しくないところもありますのでご容赦ください)。もしこれは違うよという所があればご連絡いただければ幸いです。
46.CBRマトリックスの5つの主要領域に含まれないのはどれか。(58回午前46)
1.教育
2.社会
3.保健
4.ユニバーサルデザイン
5.エンパワメント <empowerment>
【答え】4
【解説】
CBRマトリックスって何ですか?初めて聞きました。マトリックスって映画しか知りませんっていう受験生がほとんどではなかったでしょうか?
実は前回57回午後49の選択肢で用語が初めて出ていました。
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地域リハビリテーションについて正しいのはどれか。(57回午後49)
1.地域で生活する高齢者のみを対象とする。
2.訪問リハビリテーションと同じ意味である。
3.基本理念にソーシャル・インテグレーションがある。
4.対象者への教育・啓発活動も具体的な取り組みに含まれる。
5.CBR(Community-Based Rehabilitation)マトリクスは日本で作成された。
答え:4
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これでCBRの事を詳しく勉強して、今回の出題を確実に正解できるようになった方はごく少数でしょう。国試では初出の用語に関する問題が翌年の予告になる場合がありますね。
さて、気を取り直して、CBRとはcommunity based rehabilitationの略で地域に根ざしたリハビリテーションを意味します。
これは日本とは違ってリハビリが未発達な発展途上国において障害のある人や社会的ニーズを抱えた人たちの生活や環境の改善のためどのようなアプローチをすべきかを模索するためのツールです。
アプローチの方法を考えるためにCBRマトリックスというツールが用いられているようです。マトリックスとは行列の事です(映画マトリックスは文字の行列という意味でしょうか?)
一番上に主要な領域が5つ掲げられています。その下にそれぞれ5つの付随する下位領域が示されています。これらすべてを覚える事はほぼ不可能ですが、今回、一番上の5つの主要領域が問われました。
CBRマトリックスの5つの主要領域に含まれないのはどれか。(58回午前46)
1.教育
2.社会
3.保健
4.ユニバーサルデザイン
5.エンパワメント <empowerment>
答え:4
聞き慣れない言葉が一つあります。エンパワメント(enpowerment)です。エンパワメントとは、power(力)という事から「力を与えること」「権限を与えること」「自信を与えること」「力を付けてやること」などの意味を持つ英単語です、組織を構成する一人ひとりが本来持っている力を発揮し、自らの意思決定により自発的に行動できるようにすることを意味します。
一応主要5領域の覚え方を受験生のために考えました。
「CBRマトリックスを保健の先生が教育しようとしましたが、難しくて無理だったので、社会科の先生に交代したんですが、パワハラで有名な先生で、生徒がケガさせられたので、整形(生形)の先生に治療してもらいました」
ちょっと長いですが、一応覚えられるかな?と…。家では却下されるかも?
前述のエンパワメントは勉強していなければわかりにくい言葉なので、今後出題されるとしたら、この領域ではないでしょうか?
その意味で下位領域の中にあるアドボカシーを勉強しておこうと思います。アドボカシー(advocacy)の語源はad-とvacacyからなります。ad-は英語で「〜に向かって」という意味になります。go to schoolの「to」と同じです。あとvocacyはvocalから想像できるように「声を上げる」事です。ですから「advocasy」は「〜にむかって声を上げる」という意味です。これらからCBRマトリックスでは「障害者の権利擁護のために声を上げてたたかうこと」という意味になります。
一応、エンパワメントの下位項目の覚え方も考えて見ました。
「漫才の力(パワー)とつけるために、漫才コンビを組んだ次女(自助)とせいじ(千原せいじ=政治)がぼけ(アドボカシー)の練習をしに、障害者団体があつまる地域のコミュニティーセンターに行きました」(おそまつです)。
以下59回予想問題です
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CBRマトリックスのエンパワメントに関する下位領域に含まれないのはどれか。一つ選べ。
1.アドボカシーとコミュニケーション
2.コミュニティーを動かすこと
3,自助グループ
4.障害当事者団体
5.パーソナルアシスタント
答え:5
CBRマトリックスのエンパワメントに関する下位領域に含まれるのはどれか。一つ選べ。
1.アドボカシーとコミュニケーション
2.健康増進
3.障害学習
4.パーソナルアシスタント
5.スキル開発
答え:1
………………………………………………………………………………
最初はCBRマトリックス、なんじゃそりゃという印象でしかありませんでしたが、語呂を駆使して勉強していくうちに、59回にまた出題されないかな?っと思うようになったのは私だけでしょうか?
47.普通型電動車椅子の装置で正しいのはどれか。(58回午前47)
1.操縦装置が上肢に限定される
2.前輪駆動のものが標準的である
3.手動操作に切り替える機構はない
4.操縦装置で進む方向のみ操作できる
5.操縦装置から手を離すとブレーキがかかる
【答え】5
【解説】
車椅子の問題も、あれこれ品を変え出題されていますが、電動車椅子の問題ですか…。ネタ切れならば標準的な車椅子の事を聞いてほしいですが…。
いままで出題されていない問題に遭遇したときの国試テクニックを紹介すると
「○○に限定される」→×
「○○はない(決めつける」→×
「○○のみである」→×
国試テクニック的には選択肢2か選択肢5ですが、内容を吟味すると選択枝5は「操縦装置から手を離すとブレーキがかかる」ってそれって良い事よね?逆にブレーキかからなければ危険ですよね?という事から○にすると正解にたどり着けると思います。
以下、簡易型電動車椅子と普通型電動車椅子について解説します。
・簡易型電動車椅子
手動車いすに、モーターやバッテリーなどの電動機能を取り付けたもので、次に説明する普通型電動車いすと同様に、ジョイスティック・レバーで操作します。折りたたむことができる設計になっているものが多く、クラッチレバーの操作によって、電動走行と手動走行を切り替えることができ、手動走行に切り替えることで通常の手動車いすとしても使用可能ななため、バッテリーがなくなっても手動で自走できるのが特徴です。
・普通型電動車椅子
電動車いす専用に設計されたフレームに、大容量バッテリーと高出力モーターを搭載し、幅広の駆動輪でグイグイ進むことができる走行性能に長けた電動車いすの基本形です。操作はコントローラーに付いているジョイスティック・レバーなどを前後左右に動かすことで倒した向きと量に応じて自由自在に動きまわることができます。
では、各選択肢を解説します。
1.操縦装置が上肢に限定される:×
車椅子は基本的に下肢が不自由な方が使用されるものです。電動車椅子は下肢に加えて上肢の筋力低下がある患者さんが使用できるものです。操縦装置はジョイスティックがあります。
もし、下肢と上肢がともに不自由な場合は、チンコントロールといって、顎の部分にアームでセットできるような操作装置を取り付けてコントロールする事ができるタイプもあります。
また、場合によっては足でジョイスティックを操作できるものも開発されています(片麻痺患者で使用できますね)。
2.前輪駆動のものが標準的である:×
一般的には後輪駆動が標準的です。後輪駆動に加えて、前輪駆動や前輪と後輪の中間部に駆動輪を持つ中輪駆動というものもあります。回転半径については中輪<前輪<後輪の順番で半径が短いです。
3.手動操作に切り替える機構はない:×
簡易型電動車椅子は手動操作が標準でできますが、普通型電動車椅子の中には、電動から手動に切り替えられるタイプもあります(すべての電動車椅子が標準装備しているわけではありません)。この選択肢はいわゆるひっかけ選択肢ですね。
4.操縦装置で進む方向のみ操作できる:×
ジョイスティックを倒す角度によって、方向だけでなくスピードもコントロールできます。
5.操縦装置から手を離すとブレーキがかかる:○
選択肢4のように通常はジョイスティックを倒した方向に進み、倒す角度によって進むスピードも変えられますが、ブレーキについては、ブレーキボタンのような操作ではなく、ジョイスティックをニュートラルポジションに戻したらブレーキもかかる機構になっています。その方が安全ですよね。 国試問題の選択枝で安全重視の選択肢があればまずその選択肢は正しいです。
48.介護保険制度の福祉用具貸与品目はどれか。(58回午前48)
1.腰掛け便座
2.特殊寝台
3.短下肢装具
4.シャワーチェア
5.携帯用会話補助装置
【答え】2
【解説】
地域医療の介護保険に関する問題です。介護保険の給付制度についてもう一度復習しましょう。
介護保険を用いて、なんらかの物のサービスをうける事場合、レンタル(貸与)できるものと、自分で購入しなければならないものがあります。
レンタル(貸与)できるものについては、要支援〜要介護1(歩行ができるレベル)でレンタルできるものと、歩行ができない要介護2以上でレンタルできるものがあります。
【1】要介護1まで(歩行がなんとかできるレベル)では杖や歩行器などがレンタルできます。この部分で重要なのは、杖の場合はT字杖はダメで濾布ストランド杖は○です。移動の時に体重を支えられないとダメなようです。
この意味でサークル歩行器は○ですが、シルバーカーはダメです。
【2】要介護2〜(歩行ができない)場合、歩行器や特殊寝台(ベット)がレンタルの対象となります。車椅子やベットは高価なのでレンタルできるようになっているのは助かりますね。
【全額自己負担で自費購入すべきもの】
下図のように便座や入浴に関するものはレンタルではなくて自費購入になっています。便座やお風呂は他人が使ったものはあんまり使いたくないですものね…。
では問題の選択枝をみていきましょう
1.腰掛け便座:×
便座は全額自己負担で購入になります(他人の便座は使いたくないですね)
2.特殊寝台:○
特殊寝台は高額ですし、レンタルの対象になります。
ベットはホテルや病院でも他人が使った後のものを使うのでレンタルで問題ないですよね
3.短下肢装具:×
装具はレンタルの対象になりません。装具は自分の体に合わせて作るもので、レンタルするようなものではありません。
4.シャワーチェア:×
シャワーなどのように入浴に関するものは全額自己負担になります。
5.携帯用会話補助装置
障害者自立支援法により日常生活用具を使用する場合、購入に際して給付(原則1割)が受けられます。これもレンタルではなく、自己負担になります。
49.安全対策に関する理論であるHeinrichの法則で正しいのはどれか。(58回午前49)
1.医療安全に特化した法則である
2.ばらつきの法則と呼ばれている
3.有害事象を5段階で示している
4.1つの重大な事故に対して多数の軽微な事故が発生している
5.重要な20%が全体の方向性を決定しているという法則である
【答え】4
【解説】
Heinrichの法則とは「1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故と300件の怪我に至らない事故がある」というものです。ハインリッヒの法則は労働災害における怪我の程度を分類し、その比率を表しています。その数字から1:29:300の法則と呼ばれることもあります。
患者の病状に影響を及ぼすような重大な事故に事を医療ではアクシデント(accident)と呼びます。それに対して、患者の病状に影響を及ぼさないような軽微な事故の事をインシデント(incident)と呼びます。
アクシデントは報告義務がありますが、インシデントであっても積極的に報告し、全員で共有する事で、(個人のミスを責めるのではなく、ミスが起こるような体制に問題があるとして)、ミスが起こらないような体制づくりをする事が大切です。
アクシデントを報告するものをアクシデントレポートといいますが、インシデントを報告するインシデントレポートも重要です。日本ではインシデントの場合も「ヒヤリ」としたり、「はっと」したりするので「ヒヤリ・はっとメモ」と呼ばれる事もあります。この事から答えは4と言うことになります。
(覚え方)数字覚える必要ないかも…
Heinrich(ハインリッヒ)→は〜いい(肉)リッチで
1ー29−300 →い〜(1)ー29(肉)ー300(g)
50.SOAPで正しいのはどれか。(58回午前50)
1.Sには患者の評価結果を記載する
2.Oには患者の訴えを記載する
3.Aには治療プログラムを記載する
4.Pには評価結果の解釈を記載する
5.問題指向型の診療記録である
【答え】5
【解説】
SOAPは患者の状態をカルテに記載する場合に良く用いられる手法です。とくに実習などでレポートをまとめる場合には、これを意識すると良いでしょう。SAOPはもともと石鹸という英単語ですが、その頭文字ひとつ一つを用いて以下のように表されます。
・S(subject)主観的情報:患者の訴えです
・O(objest)客観的情報:評価の結果です
・A(assessment)評価:評価した事の解釈です
・P(plan)計画:治療計画です
ですね。
Pがproblem(問題)でない事に注意してください。主観的情報(S)や客観的情報(O)から問題点を評価(A)して、総合判断として治療方針を立案(P)するといったもので、問題は(A)のところに入っていると思います。
選択枝については
1.Sには患者の評価結果を記載する:×
Sは患者に訴えです(選択枝2)
2.Oには患者の訴えを記載する:×
Oは評価結果です(選択肢1)
3.Aには治療プログラムを記載する:×
Aは評価結果の解釈です(選択肢4)
4.Pには評価結果の解釈を記載する:×
Pは治療プログラムの立案です(選択枝3)
5.問題指向型の診療記録である:○
SOAPは別名POS (problem oriented system:問題指向型システム)と呼ばれます。何か問題点にぶつかった場合、漠然と解決しようとするのではなく、問題点をまず抽出・整理・評価を行った上で、問題点を解決していこうという取り組み方です。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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