第58回理学療法士国家試験 午前66-70の解説
息子は57回の国試では不合格で、1年間一緒に勉強し、58回の国試になんとか合格する事ができました。一緒に勉強したというのは、私が医師の立場でいろいろ教える事ができたという事です。理学療法士の専門ではありませんが、医師である事から、それなりに知識もありますので、恩返しの意味を込めて、解説やコメントをしたいと思います(いわゆる理学療法士出身の予備校講師や塾の先生と比較して詳しいところもありますが、詳しくないところもありますのでご容赦ください)。もしこれは違うよという所があればご連絡いただければ幸いです。
66.排尿に関与する神経はどれか。2つ選べ。(58回午前66)
1.陰部神経
2.下腹神経
3.上殿神経
4.閉鎖神経
5.迷走神経
【答え】1,2
【解説】
排尿と排便は国試頻出問題です。毎年、排尿か排便のどちらかが必ず出ると言って良いです。
排尿の調節
・排尿筋と内尿道括約筋は自律神経支配(交感神経と副交感神経の二重支配)で不随意筋です。
・外尿道括約筋は体性神経(運動神経)支配で随意筋です。
もともと交感神経はTh1〜Th12とL1・L2レベルに存在しますが、そのうち下の方のTh12〜L2から下腹神経がでます。排尿に関しては、交感神経が興奮すると蓄尿に働くので、①排尿筋が弛緩し、②内尿道括約筋は収縮します。
また副交感神経は脳神経のIII・VII・IX・XおよびS2〜S4に存在しますが、骨盤神経はS2〜S4からでます。排尿に関しては、副交感神経が興奮すると排尿に働くので、①排尿筋が収縮し、②内尿道括約筋は弛緩します。
さらに随意神経である陰部神経もS2〜S4からでます。
神経の名前(順番)の覚え方ですが、下のイラストのように、一番上にくるのが下腹神経と覚えます。下腹=下腹部ですが、下腹部といってもへそすぐ下をイメージしてください。
そして骨盤は下腹よりさらに下ですね。なので骨盤神経は交感神経である下腹神経より下で副交感神経となります。なお骨盤神経は感覚神経である求心路と、運動神経である遠心路の両方の線維があります。
最後の一番下は骨盤より下の陰部神経です。男性生殖器が一番下にあるのをイメージしてください。
排便の調節
排便についても排尿の調節に良く似ています。
排尿筋→直腸平滑筋、内尿道括約筋→内肛門括約筋、外尿道括約筋→外肛門括約筋に置き換えて考えると良いでしょう。
・直腸平滑筋と内肛門括約筋は自律神経支配(交感神経と副交感神経の二重
支配)で不随意筋です。
・外肛門括約筋は体性神経(運動神経)支配で随意筋です。
では選択肢を解説します。
排尿に関与する神経はどれか。2つ選べ。(58回午前66)
1.陰部神経:○
陰部神経はS2〜S4から出る体性運動神経で、外尿道括約筋を随意的に支配します。
2.下腹神経:○
下腹神経はTh11〜L2から出る交換神経成分で、排尿については蓄尿に働き、排尿筋を弛緩させ、内尿道括約筋を収縮させます。
3.上殿神経:×
上殿神経は仙骨神経叢から出て、中殿筋や小殿筋を支配します。
なお下殿神経も仙骨神経叢から出て大殿筋を支配します。
4.閉鎖神経:×
閉鎖神経は腰神経叢から出て、大腿内側の内転筋群を支配します
5.迷走神経:× 迷走神経は脳神経III・VII・IX・Xから出る副交感神経成分
を持ちます
67.血糖を上昇させる作用のあるホルモンはどれか。2つ選べ。(58回午前67)
1.アドレナリン
2.アルドステロン
3.カルシトニン
4.グルカゴン
5.パラトルモン
【答え】1,4
【解説】
血糖を下げるホルモンはインスリンしかありません。
血糖を上げるホルモンには下図イラストのようにたくさんあります。
では選択肢を解説します。
血糖を上昇させる作用のあるホルモンはどれか。2つ選べ。(58回午前67)
1.アドレナリン:○
交感神経を興奮せるホルモンです。いわゆる「戦いモード」ですので、「戦う」ためにはエネルギーが必要ですので、血糖を上昇させます。
2.アルドステロン:×
アルドステロンは副腎皮質から産生されるホルモンで、遠位尿細管からNaを再吸収し、Kを排泄させる働きがあります。
3.カルシトニン:×
カルシトニンは甲状腺から産生されるホルモンで、血中のカルシウム濃度を下げる働きがありますが、血糖調節には関係しません。ただし甲状腺から産生されるT3(トリヨードサイロニン)やT4(サイロキシン)は血糖を上昇させる働きがあります。
4.グルカゴン:○
グルカゴンは膵臓のランゲルハンス島α細胞から内分泌されるホルモンで血糖を上げる作用があります。ランゲルハンス島から内分泌されるホルモンは以下の3つです。
・グルカゴン:α細胞から産生され、血糖を上げる
・インスリン:β細胞から産生され、血糖を下げる
・ソマトスタチン:δ(デルタ)細胞から産生されグルカゴンとインスリン
を抑制する
5.パラトルモン:×
パラトルモンは副甲状腺(パラサイロイド)から産生されるホルモンで、血中カルシウム濃度を上げる働きがあります。
54回に類似問題が出題されています。
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血糖を上昇させる作用のあるホルモンはどれか。 (第54回午後67)
1. アドレナリン
2. アルドステロン
3. カルシトニン
4. パラトルモン
5. プロラクチン
答え:1
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68.女性生殖器で誤っているのはどれか。(58回午前68)
1.原始卵胞は新生児にある
2.成人の卵巣の重さは約6gである
3.原始卵胞の成熟は思春期に始まる
4.卵細胞は始原生殖細胞に由来する
5.黄体ホルモン上昇により排卵が誘発される
【答え】5
【解説】まともにやると難問です。1〜4の選択肢が「こんなの知るわけない」レベルの内容です。結局は選択肢5の内容を知っているかどうかを問う問題です。このような、他の選択肢が「こんなの知るわけない」レベルでは、唯一残った「聞いたことある」レベルの選択肢が正解であることが良くあります(国試テクニック)。
選択肢の解説です。「こんなの知るわけない」選択肢を「こんなのまで知ってるぜ」レベルにしましょう。
女性生殖器で誤っているのはどれか。(58回午前68)
1.原始卵胞は新生児にある:○
卵胞は胎児期からあり原始卵胞と呼ばれます。原始卵胞は胎児期に持っている数が最大(約700万個)になります。新生児期には約200万個に減少し、思春期になるとさらに20〜30万個に減少します。
Gougeon A. Human ovarian follicular development: from activation of resting follicles to preovulatory maturation. Ann Endocrinol. 2010; 71: 132-143.
覚え方は、ずばり原始卵胞の数は007(逆にすると700)です。00は卵に見えるでしょ?
2.成人の卵巣の重さは約6gである:○
いわゆる食用の卵の重さは50g(Mサイズ)、Lサイズでは60gになります。女性生殖器の卵巣はそんなに重くはありません。約6gになります。
3.原始卵胞の成熟は思春期に始まる:○
選択肢1のように、原始卵胞は胎児期から卵巣内にありますが、いわば冬眠状態になり、それ以上成長する事はありません。 それが思春期になると冬眠していた原始卵胞が目覚めます。毎月数百から千個の卵子が同時に発育を開始するのですが、最終的に排卵する卵子は1個のみであり、残りは途中で発育が止まり、消失してしまうというわけです。
4.卵細胞は始原生殖細胞に由来する:○
卵細胞の一番最初のもとになる細胞は始原生殖細胞といいます(原始ではありません。原と始はひっくり返っているので注意してください)。始原生殖細胞の時点では、まだ精子になるか卵になるかが決まっていません。 胎児の体内にある始原生殖細胞はまず、将来卵巣となる場所へ移動しますが、将来卵巣となる場所からは女性ホルモンが放出されています。始原生殖細胞は、女性ホルモンにさらされると分化を起こして原始卵胞になります。卵原細胞になって初めて、この細胞が将来卵になることが確定するのです。 原始卵胞は前述のように、この後、思春期で目覚めるまで卵巣内で眠りにつくのです。
5.黄体ホルモン上昇により排卵が誘発される:×
排卵時のホルモンの流れは特に重要ですね。
①視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)により、下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)が産生されます。性腺刺激ホルモンとはFSHと黄体形成ホルモン(LH)の事です。
②下垂体から産生されたFSHは卵巣の原始卵胞を刺激して、卵胞の成長を促します。卵胞が成長するにしたがって、卵胞内にエストロゲンが産生・蓄積され、エストロゲンは一部血中にも放出されます。卵胞内に蓄積されたエストロゲンを含む液を卵胞液といい、卵胞液が蓄積した部分(空間)を卵胞腔といいます。
③卵胞内でのエストロゲン産生がさらに増えて、血中にも放出されるエストロゲンが一定量以上になると、下垂体が刺激されて、黄体形成ホルモン (Luteinizing Hormone: LH)が一気に放出されます。LHが一気に放出される事をLHサージと呼びます。
④LHサージにより血中にLHが増加すると、成熟した卵胞がはじけて排卵が行われます。なお排卵直前の卵胞をGraaf細胞と呼びます(国試未出題)。
⑤排卵が行われると、卵胞は黄体へと変化します。黄体からは黄体ホルモン(プロゲステロン)が産生されるようになりますが、受精が行われないと排卵後1週間ぐらいからプロゲステロンは減り始め、やがて黄体は白体へと変わっていきます。
【ポイント】LH (黄体形成ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)を混同しないように!混同しやすいので、国試で繰り返し問われます。選択肢はいろいろ出されますが、結局はこの部分がキーポイントになります。
56回に以下の難問(不適切問題)がでましたが、まさか難問選択肢が繰り返されましたね、ははは…。不適切問題になった問題の類似問題を繰り返すなよな、まったく…。
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卵巣について正しいのはどれか。 (第56回午後67)
1. 重量は成人で約50gである。
2. 実質は皮質と髄質に分けられる。
3. 卵胞が成熟すると卵巣腔をもつ。
4. 原始卵胞は新生児期に約1万個存在する。
5. 排卵後の黄体からエストロゲンが産生される。
答え:2と5(不適切問題)
第56回午後67の解説
1.重量は成人で約50gである:×
卵巣の重さは約6gです。50gは食用の卵の重さです。
2. 実質は皮質と髄質に分けられる:○
卵巣の実質は外側の皮質と内側の髄質に分かれます。髄質には卵巣動脈や卵巣静脈・リンパ管・神経などがあります。卵胞や黄体などは皮質部分にあります。
なお、排卵後の卵胞は黄体に変化しますが、排卵直後の卵巣は出血で赤く見えます。これを赤体といいます【国試未出題】(こんなの国試出題委員が好きそうでしょ?みんな知らないもの)。
3. 卵胞が成熟すると卵巣腔をもつ:×
卵巣腔ではなく、卵胞腔です(ひっかけですね)
4. 原始卵胞は新生児期に約1万個存在する:×
原始卵胞は約700万個あります。
5. 排卵後の黄体からエストロゲンが産生される。:○
排卵後の黄体からは主にプロゲステロン(黄体ホルモン)が産生されますが、エストロゲンも産生されるそうです。
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69.肺活量算出に最低限必要な肺気量分画はどれか。2つ選べ。(58回午前69)
1.予備吸気量
2.予備呼気量
3.1回換気量
4.全肺気量
5.残気量
【答え】4,5
【解説】肺気量についての問題です。肺気量問題が出たときは、下図のように、まず1回図を書いてから考えようとアドバイスしていました。下図からすると(肺活量)=(全肺気量)ー(残気量)となります。答えは4と5になります。
ただし、臨床的には(全肺気量)も(残気量)も特殊な方法を用いない限り実測できないので、肺活量の算出には以下の方法を用います。
・(肺活量)=(吸気予備量)+(1回換気量)+(呼気予備量)
あるいは
・(肺活量)=(最大吸気量)+(呼気予備量)
で求めます。
個人的には、この問題の選択枝で(全肺気量)と(残気量)を選ばせるのではなく、選択肢に(最大吸気量)と(呼気予備量)を入れて、その2つを選ばせる方が良いと思います。なぜなら、その方が臨床に即しているからです。国家試験というのは、常に臨床に即していなければなりません。このような問題はいわば机上の空論なのです。
私は以前、大学医学部のある科で、臨床を行いながら、学生教育に携わる立場になり、医学生のみならず看護学生・消防学校の学生に対して、定期試験や卒業試験の問題作成に20年ぐらい携わっていました。この問題を見て、感じたことは、「出題委員の先生は、学校で教えているだけで、臨床やってないんだろうな?臨床の事、分かってないな…。」です。出題された委員の方や、国家試験委員会の先生方、もしこのHPを見たら、このように批判されている事を受け止めて、臨床に即した問題を出すように心がけてもらいたいものです。
70.足部内側縦アーチの維持に最も関与するのはどれか。(58回午前70)
1.三角靱帯
2.長足底靱帯
3.後脛骨筋
4,足底筋
5.第三腓骨筋
【答え】3
【解説】
運動学の足部の問題ですね。アーチについては、いろいろ調べても詳しく書かれているものがあまりないので、事前勉強に苦労しました。筋肉についてはある程度覚えられるようにまとめていましたが、靱帯まで手が回らなかったです。今回の問題は筋肉についての知識で正解に行き着きましたが、もう一度勉強しなおしました。
【内側縦アーチと外側縦アーチを構成する骨と要石】
内側縦アーチ:
踵骨ー距骨ー★舟状骨ー内側楔状骨ー第1中足骨
で真ん中の舟状骨が要石となります。
外側縦アーチ:
踵骨ー★立方骨ー第5中足骨
で真ん中の立方骨が要石となります。
【足部縦アーチに作用する筋について】
下図に足の背屈・底屈・内がえし・外がえしのそれぞれに作用する外在筋をまとめましたが、基本的にはアーチの維持に作用するのは底屈筋です。
例外は、内側縦アーチに対して、前脛骨筋が作用します。右図のように、前脛骨筋は第1中足骨底と内側楔状骨の内側面に停止しており、足関節の内反に加えて、それらを上につり上げる作用があります。
一方、足部縦アーチについては、足底の内在筋が一部作用します。足底内在筋には表層筋と深層筋がありますが、特に表層筋が作用し、内側縦アーチには母趾外転筋が、外側縦アーチには小趾外転筋がそれぞれ作用します。
これらから、縦アーチに作用する筋としては
1.内側縦アーチ:前脛骨筋・長母趾屈筋・長趾屈筋・後脛骨筋・
母趾外転筋
2.外側縦アーチ:長腓骨筋・短腓骨筋・小趾外転筋
がそれぞれ作用します。
【足底縦アーチに作用する靱帯】
(1)内側足底縦アーチには以下の靱帯が作用するといわれています(下図を参照してください)。
1.足底腱膜
2.長足底靱帯
3.底側踵立方靱帯
4.底側踵舟靱帯(スプリング靱帯)
下図のように足底内在筋の母趾側には表層に母趾外転筋があり、深層には母趾内転筋があります。長足底靱帯と底側踵立方靱帯は、ともに母趾内転筋が踵骨に付着する途中にある靱帯ですが、下図のように内側に位置するのが長足底靱帯、外側で立方骨を経るものが底側踵立方靱帯と呼ばれます。また、これら二つを一体として長足底靱帯(底側踵立方靱帯)と呼ばれる事もあります。
なお、靱帯による静的支持組織の内側縦アーチの維持に対する寄与率は、足底腱膜が79.5%と最も大きく、長・短足底靱帯が12.5%、バネ靱帯(スプリング靱帯、底側踵舟靱帯)が8%となっているようです。
(2)外側足底縦アーチには内側足底縦アーチでも作用していた以下の靱帯が作用すると言われています。
1.長足底靱帯
2.底側踵立方靱帯
これらは、足底内在筋の深層で外側にも走行していますね。
では問題の選択肢をみていきたいと思います。
足部内側縦アーチの維持に最も関与するのはどれか。(58回午前70)
1.三角靱帯:×
三角靱帯は足関節内側の脛骨と距骨を補強する靱帯ですが、内側縦アーチには直接関与しません。
2.長足底靱帯:△
長足底靱帯は内側縦アーチも外側縦アーチも関与していますが、静的支持組織での寄与率は足底腱膜に比べて低く、内側縦アーチの維持に最も関与するとは言えません。
3.後脛骨筋:○
内側縦アーチを保持する最も重要な役割を担っている筋肉は、後脛骨筋といわれています。内側縦アーチが機能不全になると扁平足になりますが、扁平足の人の約80%が後脛骨筋の機能不全を起こしていると言われています。
4,足底筋:×
足底筋と足底筋膜はことなる組織なので混同しないようにしましょう。
足底腱膜は種々の足底筋をおおうように、足底に膜状に広がっている腱膜です。時に足底筋膜とも呼ばれるので、混同の元になっています。
足底筋は下図右のように大腿骨外側上顆に起始し、アキレス腱に停止する筋で膝関節屈曲、足関節底屈作用があります。足底腱膜とは違って、内側縦アーチとは関係ありません。ひっかけ用に選択肢ですね。
5.第三腓骨筋:× 第三腓骨筋は足関節外側にあります。可能性としては外側縦アーチの維持ですが、足関節の背屈(および外がえし)作用があるので、外側縦アーチの維持にも働きません。外側縦アーチの維持に作用するのは長・短腓骨筋になります。
Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。
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