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第60回理学療法士国家試験 午後06−10の解説

(6) 5歳の男児。脳性麻痺による痙直性四肢麻痺である。背臥位で図のような姿勢を示す。影響しているのはどれか。(60回午後6)

1.Moro反射
2.陽性支持反射
3.緊張性迷路反射
4.対称性緊張性頚反射
5.非対称性緊張性頚反射

                    【答え】5
【解説】脳性麻痺では各種反射の異常(消失する反射が残ったり、出現する反射が出現しなかったりする)が早期診断の手がかりになるので重要です。国試でもよく問われます。

1.Moro反射:×
→赤ちゃんを急に下に下ろした歳に「ビクっ」と驚き両手を広げて抱きつくようなポーズを取る(落下の危険から自分の頭や体を守る反射)(4〜6ヶ月で消失)

2.陽性支持反射:×
→足底を床につけると肢は柱のように固くなる反応。12ヶ月〜消失する反射
(ひとり立ちするので、足底の反射が消えなければならない)。

3.緊張性迷路反射:×→赤ちゃんの頭を前や後ろに傾けた際、一緒に身体や手足も曲がるという反射。(4〜6ヶ月で消失)

・赤ちゃんを仰向けで頭を前に曲げると、体全体が丸まり、頭を後ろに反らすと、体全体が反り返る

・赤ちゃんをうつ伏せで頭を前に曲げると、体の屈筋群は緊張する

4.対称性緊張性頚反射:×
→首を縦に曲げて頭を持ち上げると、手が伸びて、足が曲がる
逆に頭を下げると、手が曲がって、足が伸びる。これだけ6ヶ月〜9ヶ月(国試頻出)。非対称性緊張性頚反射が消失してから、対称性緊張性頚反射が出現すると覚えましょう。

頭上げたり下げたりするので、ロックンロール→(岩:ろっく:6〜9のポーズと覚えよう)

5.非対称性緊張性頚反射:○
→首を横に曲げると曲げた方の手足が伸びて、反対側の手足が曲がる反射(フェンシングポーズ)。未熟な状態で寝返りをすると窒息の危険あるのでそれを防止する働きがあり。消失すると寝返りができる。(4〜6ヶ月で消失)


(7) 30歳の男性。右腱板損傷の修復術後6ヶ月。図に示す方法で等張性筋力増強運動を行っている。このトレーニングで対象となる筋はどれか。(60回午後7)

1.烏口腕筋
2.棘下筋
3.小胸筋
4.前鋸筋
5.大胸筋

                    【答え】2
【解説】図の動きは水平外転ですね。水平外転の主動作筋は三角筋後部繊維ですが、選択肢にありません。補助的に働く筋を探す事になります。嫌らしいですが、後方に働く筋を探せば良いです。

1.烏口腕筋:×
→肩関節の前方に位置するので水平外転とはなりません。
[起始]烏口突起 → [停止]上腕骨内側
[作用]肩関節屈曲・内転・外旋(内側に停止するから)
[神経]筋皮神経*
*筋皮神経は烏口腕筋を貫く(国試)
*正中神経は烏口腕筋の内側を通る(国試)

2.棘下筋:○
→棘下筋は肩関節回旋筋(ローテーターズ)の一つで、肩関節の後方(肩甲骨棘下窩)から上腕骨大結節に停止し、肩関節外旋の働きがあります。純粋に水平外転の作用ではないですが、肩関節の後方で作用するので、水平外転に補助的に作用すると思われます。

3.小胸筋:×
→肩甲骨烏口突起から起始し、胸郭の前方で第3・4・5肋骨に停止します。上腕骨に停止しないので肩関節作用はありません。

肩甲骨に対して3つの作用は重要です。
①肩甲骨の外転、②肩甲骨の下方回旋、③肩甲骨の下制です。
③の下方回旋が理解しずらいかもしれませんが、肩甲骨の回転中心より外側から下に引くので下方回旋になります。

4.前鋸筋:×
→前鋸筋は上腕骨に付着しないので、肩関節作用はありません。肩甲骨に対する作用は肩甲骨の外転・上方回旋です【重要】。
[起始]第1〜第9肋骨(意外と1まで)
[停止]肩甲骨上角・内側縁・下角
[神経支配]長胸神経 (C5・6・7) 5〜7の3つの神経根です。

5.大胸筋:×
→大胸筋は胸骨頭と鎖骨頭があります(肋骨には付着しません)。作用は肩関節の①水平内転、②屈曲、③内転、④内旋です。

大胸筋は胸郭の前方を横切り、上腕骨の大結節稜に付着します。また大胸筋の裏面を背側から大円筋が小結節稜に付着します。下図の上腕骨の筋付着部位も併せて覚えてください。

またMMTでは、検査開始肢位が色々あります。鎖骨頭は外転60°で力を発揮し易いので、外転60°から始めます。胸骨頭は外転120°で力を発揮しやすいので外転120°から始めます。また大胸筋全体では外転90°から始めます。


(8) 32歳の男性。交通事故で4週前に右大腿骨を図のように遠位部で切断した。今後、大腿義足を作製する。切断側の身体計測で正しいのはどれか。2つ選べ。(60回午後8)

1.測定肢位は背臥位とする
2.断端最小前後径は大転子レベルで計測する
3.大腿長は坐骨結節から断端末までの距離である
4.大腿長は断端末の軟部組織を押し上げて計測する
5.切断肢側の力源となる実質的な長さを確認するために機能的断端長を測定する。

                  【答え】3と5
【解説】
1.測定肢位は背臥位とする:×
→測定肢位は立位で行います。安全に配慮して平行棒内などで行うとよいでしょう。背臥位では軟部組織が下腿後面に移動して周径が変化するため、断端長と周径の数値が大きく変わってしまうので適切ではありません。

2.断端最小前後径は大転子レベルで計測する:×
→切断端の周径・前後径・左右径などは坐骨結節レベルを基準として、5cm間隔で計測します。断端の始まりが前方では会陰部・後方では坐骨結節となるので、坐骨結節を基準とします。大転子は坐骨結節より上のレベルでそもそも断端に含まれません。

3.大腿長は坐骨結節から断端末までの距離である:○

4.大腿長は断端末の軟部組織を押し上げて計測する:×
→軟部組織を押し上げずにそのままで測定します。選択肢5のように機能的断端長を測定する場合には軟部組織を押し上げます。

5.切断肢側の力源となる実質的な長さを確認するために機能的断端長を測定する。:○


(9) 20歳の男性。1 ヶ月前に転倒し、疼痛は軽減したが、右膝関節の不安定感があり来院した。実施した検査を図に示す。この検査の対象がどれか。ただし、矢印は検査者が力を加えた方向を示す。(60回午後9)

1.前十字靱帯
2.後十字靱帯
3.内側側副靱帯
4.外側側副靱帯
5.内側半月版

                    【答え】2
【解説】疼痛はなく、右膝の不安定性を訴えています。病歴から半月版損傷は否定的で、靱帯損傷が疑われます。図では下腿を後方に圧迫しています。いわゆる後方引き出しテストです。したがって、答えは後十字靱帯損傷です。

後十字靱帯損傷のテストを以下にまとめました。

また前十字靱帯損傷のテストを以下にまとめました。以下の5つは超重要なので、しっかり覚えてください。

また内側・外側側副靱帯損傷のテストは以下の通りです。内側側副靱帯は膝の外反を制限しますので、膝を外反させて、動揺があるか評価します。逆に外側側副靱帯は膝の内反を制限するので、膝を内反させて評価します。

また半月板損傷のテストは以下の通りです。

このうち、McMurrayテストの手技はN-testに似ています。McMurrayテストは内旋でも外旋でも良いのですが、N-testと混同しないように、国試では外旋で出題されています。また、N-testでは膝の不安定性をみますが、McMurrayテストでは、疼痛またはクリックを評価するのが異なります。はっきりと違いを整理しておいてください。

(10) 70歳の男性。食道癌術後に集中治療室に入室中。積極的に離床を行ってもよいのはどの場合か。(60回午後10)

1.RASS-3である
2.疼痛がNRS 8である 
3,心拍数が120/分である
4.平均動脈圧 80mmHgである
5.SOFA (sequential Organ Failure Assessment) scoreが前日よりも4点増加している。

                 【答え】3
【解説】
まあ、正解を得るのは簡単かもしれませんが、問題をみて「う〜ん?」という感想しかありません。最近、出題委員の中にICUで勤務・出入りしている方がいるのでしょうね?ICU-AWなどICUやNICU関連の問題が1題は出題される傾向にあります。私が感じるのは、出題委員の自己満足なのか、とてもマニアックな内容となっている点です。出題委員に言いたいです。「これは国家試験なんですよ、すべての受験生が知っておくべき事を聞いて下さい。それは、選択肢にも当てはまります。選択肢もすべての受験生が知っておくべき事を挙げてください!これから5年・10年受験生はあなたの出題を勉強せざるを得ません。受験生レベルで知っておく必要のない事は載せないでくさい」と言いたいです。

まず、医師の中でもICUをとてよく知る者として言います。食道癌術後で、ICUに入室している患者では、挿管している状況ではまず離床は図りませんz。また抜管して、人工呼吸器から離脱すれば、ほとんど翌日にはICUを退室して外科病棟に移ってもらいます。したがってICU内で食道癌患者の離床を図るという状況はほとんど生じません。また食道癌術後患者は身体の中にたくさんのドレーンチューブが挿入されています。そのような患者で離床を図ると色々なトラブルをきたすリスクがあります。離床はドレーンがある程度抜けてからでないと危険です。このようにICUに収容されている食道癌患者に離床を図るという事はかなり特殊な状況だと思います。問題を読んでの第一印象は「そもそもそんな状況なんてないし…」でした。

そして、選択肢のSOFAスコアについてですが、これは臓器不全のスコアです。ICUでは多臓器不全患者を多く収容していますが、多臓器不全患者の重症度を評価するスコアの一つであるSOFAスコアを、理学療法士・看護師・医師受験生レベルに求めるのはどう考えても無理・無駄です。おそらくICUのカンファレンスでSOFAスコアが話題になった事から、それを出題したのでしょうが、不適切なのです。

そもそも、食道癌の術後患者が臓器不全になるのは稀です。縫合不全や肺炎を起こしてぐちゃぐちゃにならない限りそうはならないからです。ICU関連の出題をする出題委員は良く考えてもらいたいところです。

愚痴はこの程度にして、選択肢をみていきます。

1.RASS-3である:×
→RASS-3は国試初出?です。初出なら略語だけで出題するのはルール違反だと思います。RASSはRichmond Agitation-Sedation Scale の略です。agitationとは不穏・イライラ・がさがさしているという意味です。sedationは鎮静という意味で、人工呼吸中の鎮静度を表す指標です。RASS-3 は中等度鎮静状態です。このような状況で離床を図る事などできません。しかしこのようなものの数値データを評価させるってナンセンスだと思いませんか?出すとしてもRASSって何を評価するもの?ぐらいで十分です。

看護Roo! 鎮静スケール(RASS)|知っておきたい臨床で使う指標[13]
https://www.kango-roo.com/learning/3855/ より引用


2.疼痛がNRS 8である  :×
→疼痛スケールについてまとめたものを以下に示します。このうちNRSはNumeric rating scaleの略でnumeric (number:数字)から数字で痛みを数値化したものです。0〜10で表され、数字が大きくなるほど痛みが強くなります。問題ではNRS 8と痛みがかなり強いので、積極的離床を図れるような段階ではありません。


3,心拍数が120/分である:△
→離床を図って良いかどうかの明確な基準があるかどうか、筆者は知りませんが、運動療法について土肥・アンダーソンの基準を適応すると(ちなみに離床は運動療法ではありません)、安静時脈拍が120/分以上は積極的なリハをしない事になっています。

4.平均動脈圧 80mmHgである:○
→収縮期血圧が80mmHgなら少し低血圧です(前述の土肥・アンダーソンの基準では収縮期血圧が70以下なら積極的リハを避けるとなっていますが、その基準よりも80mmHgは上です)。しかし、ここでは平均血圧が80mmHgとなっていますので、全然低血圧ではありませんので、離床を図っても良いと思われます。


5.SOFA (sequential Organ Failure Assessment) scoreが前日よりも4点増加している。:×
→表のように、SOFAはICUで用いられる指標で、Organ failure (臓器不全)の程度を表す指標で点数が大きくなるほど重症になります。設問では前日よりも4点増加しているので、重症化しているため、離床を図ってはいけません。

看護Roo! SOFAスコア|知っておきたい臨床で使う指標[8]
https://www.kango-roo.com/learning/3448/ より引用



Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。


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